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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第二章 ビッグフレンドデーモン
19/63

デーモン再襲撃

 アスリットちゃんの家をあとにした僕とアイは、ピッピを見つけるべくザウアー地区を歩き始めた。


「あんたさ、さっきメルビュさんにどんな用事があったわけ?」


 辺りをキョロキョロ見渡しながら、アイは尋ねてきた。


「当てて見せましょうか。多分彼女のお父さんにかんすることでしょ」


 いい感をしている。僕は、「ご名答」と返した。


「亡くなった時期と場所、あと死因とかを細かく訊いたんだ」


 不躾な質問であることは理解していたものの、今回の事件となんらかの関係がありそうだ。その辺はメルビュさんにも理解してもらった。


「四年前、魔導協会ファキオワード支部で勤務中、急性心不全でこの世を去ったそうだ。生前は仕事が忙しいらしく、家にいる時間はごく僅かだったらしい。アスリットちゃんを構ってあげられないことをずっと気にしていたそうだ。今オレたちが探しているピッピはお父さんの形見と言えるな」


 徐々にアイの足が遅くなっていることに気づいた。彼女に合わせ、僕も歩行速度を緩める。


「あのデーモンが本当に召喚されたものだったとするなら、昨日のオレたちへの攻撃は、召喚主による命令と考えるのが妥当だろ」

「私は召喚術師に恨まれるようなことはしていないわよ」

「ああ、オレにも覚えはない。そこで思った。もしかすると狙われたのはアスリットちゃんだったんじゃないかな、ってさ。そんな中、彼女のお父さんが召喚術のマスターとの事実が判明した。なにかしら関連がありそうだろ」


 更に補足すると、協会でのお父さんの仕事というのが、新しい召喚術の開発ときたものだ。繋がりを疑わずにはいられない。


「じゃあなに。お父さんが実は生きていて、デーモンを召喚したとでも?」

「さすがにそれはないだろ。娘を襲わせるとは思えない」

「じゃあなんなわけよ?」

「わからん。さっぱりだ」

「使えない役立たずね」

「重言で愚弄するんじゃない」


 考えてもわからないことは隅に置き、僕らはピッピの捜索に集中する。

 ザウアー地区を歩くと、剣と鎧で完全武装した男たちと頻繁に擦れ違った。警察ではなし、公国の正規軍兵士とも違う。


「傭兵ね、あの人たち」

「どんどん大事になっていくな。長引くようだと、今月末の『カニスの日』と夏祭りも中止になるかもな」

「あーもう、忌々しいデーモンめ。連休と夏祭りを台無しにしたらタダじゃおかないんだから」

「そうだそうだ。さっさとデーモンを叩きのめすの」


 いつの間にか頭数が一人増えていることに気がつく。


「なんであなたがここにいるのよ。家で大人しくしているんじゃなかったの?」


 アイの横には、さも自然な感じでアスリットちゃんが並んでいた。


「ママの隙をつくことなんて朝飯前……じゃなくて、がんばってママを説得したの」

「明らかに嘘でしょうが。黙って家から出てきたのね、悪い子だわ!」

「――違うもん。ママから許可はもらってるよ!」

「じゃあいったん家に戻って確かめてみましょうか。なにも問題はないわよね」

「問題ありありなの! そんなことよりピッピを探すの。時間は有意義に使うものだって、学校の先生も言ってたの」


 二人の押し問答が始まったとき、


「おやまあ、アスリットちゃんじゃないの。こんなところでなにをしているんだい?」


 近づいてきたのは、五十代くらいの女性だ。


「あっ、レクアおばさん」


 どうやら知り合いのようだ。近所に住む顔見知りのおばさんといったところだろう。


「ママは一緒じゃないのかい? それにこの人たちはどちらさま?」

「この人たちは騎士さんだよ。ピッピがいなくなったから一緒に探してもらってるの」


 僕とアイは軽く会釈をする。


「いなくなった? ということは、あれはやっぱりピッピちゃんだったのね」


 レクアさんはポンと柏手を打つ。


「今朝、地区婦人部のみんなが公民館に集まって、自治会で雇った傭兵さんたちの朝食を準備していたんだけど。そのとき一匹の黒猫が現れて、お肉に飛びついてきたのよね。リンドグレンさんとこのピッピに似ているなとは思ったんだけど、どうやら正解だったみたいね」


 やはり家の近くまできていたらしい。


「公民館で保護しているはずだから行ってみたら」


 僕らはすぐにザウアー地区公民館の玄関を叩いた。

 公民館にはたくさんの傭兵が控えていた。入口には、『ザウアー地区自警団本部』と手書きの張り紙がなされていた。雇った傭兵に本部として提供しているらしい。

 近くにいた人に要件を告げると、すぐに案内してくれた。


「ピッピに間違いないよ。ヤッホー」


 部屋の一室でミルクを舐めていたピッピを、アスリットちゃんは両手で抱き上げる。


「これでめでたく依頼完了ね。今度は逃がすんじゃないわよ」

「大丈夫だよ。もう離さないもんね。パパからもらった大事な友達だもん」

「そうね。大事にしなよ、その子……」


 アイはいつになく優しげな表情でアスリットちゃんの頭を撫でた。


「早いとこメルビュさんのところに戻ろうぜ。ああそれと、間違いなくママから怒られるだろうから、アスリットちゃんは覚悟しておくこと」


 アスリットちゃんは苦笑いを浮かべつつ、ピッピを真正面に抱える。そして、「あれっ?」と首を傾げた。


「首輪の石が変になってる?」


 指摘され、記憶を頼りにピッピの首輪を注視する。

 確かに変わっている。昨日見たときは輝く青色だったのが、今は濁りきった灰色に変色している。汚れが付着したのかと指で触れてみるも、どうもそうではない。完全に元色が変化しているようだ。


「アスリットちゃん。この首輪はどこで買ったか覚えてる?」

「もらったの。ピッピが家にきたとき、病気にならないようにお注射されたんだけど、そのとき獣医さんがくれたの」

「この石は獣医さんがくれたときはどんなだった?」

「違うよ。その石はあとからつけたものなの。パパが天国に行くとき手に持ってたらしいの」


 ……つまりこの石はお父さんの遺品。どこか真相に近づいてきている予感がした。

 サイレンが鳴り響いたのはこのときだった。同時に街中に設置されているスピーカーが、デーモンの出現を告げる。

 なんの因果か、現れたのはザウアー地区とのことで、公民館に詰めていた人たちが慌ただしく動き始める。


「二人は中で隠れてて」


 そう言ってアイは、傭兵たちのあとに続いて外に飛び出す。


「わたしも行く!」


 アスリットちゃんも行ってしまった。なんて危機感のない子だ。

やむなく僕も公民館の外に出る。公民館前の広場で二人を見つける。


「おいおい、アイ。オレたちが今やるべきなのはデーモン討伐じゃなく、アスリットちゃんを家まで連れ帰ることだろ。ほとぼりが冷めるまで公民館に避難してようぜ」

「静かに。――やつが現れたわ」


 アイは前方の空中を指差す。

 確かにやつはそこにいた。距離にして約四百メートル先の上空に、黒い人型の物体が浮遊しているのが確認できた。不気味なほどゆっくりとした動きで、家々の上を飛んでいる。


「辺りをキョロキョロと、まるで少し前の私たちみたいな仕草ね。なにを探しているのかしら?」


 人一倍遠目が効くアイはそう語った。

 デーモンが探し物をしているとして、その捜索対象は……。

 胃の中が冷たくなっていく感覚に捕らわれたとき、ふと、やつが動きを止めた。

 空中に制止したまま、なにかのニオイでも嗅ぎつけたように、僕らがいる方に顔を向ける。

 実際のところ僕の視力では確認できなかったも、やつと目が合ったように感じられた。

 そしてほどなく、その『感じ』が正しかったと判明する。


「やつがくるわ!」


 アイの叫びに反応するように、デーモンは凄いスピードで近づいてきた。

 真っ先に反応を見せたのは傭兵たちだった。手にしていた武器を構え、陣形を組み、広場に降り立ったデーモンに間髪入れず攻撃を仕かける。

 正面からは斧、背後からは剣、左からは槍、右からは槌。四方から渾身の一撃をデーモンに食らわせ、……次の瞬間、不可視の力で吹き飛ばされた。

 あれだけの攻撃に晒されたのに、デーモンはピンピンしていた。体を覆う外骨格には傷一つなく、元気に両手を振るって残りの傭兵たちを蹴散らしている。


「早く逃げるぞ。二人共!」


 僕はアスリットちゃんの手を引き、公民館の中に駆け込む。


「デーモンが庭にいる! みんな早く裏口から退避して!」


 浮き足立っていた室内の人たちは、我先に裏口へ向かって走り出した。

 程なく正面入口のドアが破壊され、奥からデーモンが現れる。


「私が相手よ! 玩具に夢中なデーモン」


 無謀にも、アイは一人でデーモンの前に立ち塞がる。


「お姉ちゃんが危ないよ!」


 アスリットちゃんが叫んだとき、デーモンは僕らの方をギロッと見やった。

 そのまま翼をはためかせ、低空飛行でこちらに向かってきた。アイの英雄的行動は見事にスル―された。


「ちょっとなんでそっちに行くのよ! 私が相手って言ってんでしょうが! 人の話し理解できないの! バカなの!」


 アイの怒号を背中に聞きながら、僕らは廊下を走り、近くの部屋に逃げ込む。

 どうも倉庫のようで、広い空間にはたくさんの荷物が押し込まれていた。

 一番奥にある会議机の陰に身を潜めたとき、ドアを吹き飛ばし、デーモンが倉庫に侵入してきた。

 そしてやつはゆっくりと内部の捜索を始める。棚同士の間を低空で飛び回り、保管物の隙間を隈なく見て回る。なかなか几帳面な性格だ。


「ヤバイの。もうすぐここにくるの」


 デーモンはすぐそこまで迫っている。このままだと発見されるのは時間の問題だろう。

 

「どこいったのよ。私と勝負しなさい!」


 ちょうどよい具合にアイの声が近づいてくるも、彼女はこの部屋に気づかず、廊下を通りすぎてしまった。


「お姉ちゃん無能すぎ」


 容赦ないアスリットちゃんの評価に心を痛めつつ、僕は手前のダンボールに納められていたコップを掴む。

 反対側の壁に投げ、物音にデーモンが気を取られた隙に、隠れている場所から移動する。

 一ヵ所に身を置くのは危険と判断し、常に移動し続ける作戦に変更する。デーモンの視界に入らないよう棚を隔て、身を屈めながら足音を立てずに移動する。

 ようやく入口近くにきたとき、廊下を戻ってきたアイと目が合う。


「どこに行ってたのよ! 探したんだから!」


(バカ野郎!)


 僕は心の中で叫んだ。 

 アイの大声でこちらに気づくデーモン。放たれる衝撃派。不可視の力に弾かれる僕とアイ。

 床に倒れた僕は、おぼつかない視界の奥で、こちらに近づいてくるデーモンの姿を確認する。

 逃げようにも倒れた棚に足が挟まって動けない。まさに万事休す。


「お兄ちゃんに手を出しちゃダメなの!」


 僕とデーモンの間に立ち塞がったのはアスリットちゃんだった。


「お兄ちゃんは私が守るんだから!」


 彼女は奥すことなく、デーモンに凄む。逃げるよう催促しようにも、先程の衝撃で言葉が発せられない。

 そしてアスリットちゃんの勇敢さに答えるかのように、デーモンが動きを見せる。

 腹部の外骨格が展開し、大きな口が現れる。無数の牙が生えたそれは、まさに地獄の入口そのものに思えた。

 それで彼女を頭からガブリとやるかと思いきや、次にデーモンが取った行動は不可解なものだった。開いたお腹の中に手を押し込み、なにやら弄り始めたのだ。

 やがて口の中から抜かれた手には、細長い棒のようなものが握られていた。ドロドロした粘液がこびりついているせいで正確な姿は判別できないも、ピンク色をしているのが判別できた。


(おいおいまさか。マジでそうなのかよ!)


 別の意味で眩暈が激しくなってきたとき、棚の陰から飛び出す影が一つ。アイだった。

 彼女はかけ声と共に、剣でデーモンに切りかかった。

 バッサリとはいかないも、デーモンの肩から背中にかけ、はっきりとした傷がつく。W105はデーモンにも有効だ。

 デーモンは棒を取り落とし、それがアスリットちゃんの足元に転がる。

 アスリットちゃんの注意が逸れたとき、腕の中からピッピが逃げ出す。

 どういうわけか、デーモンはピッピの逃走に反応した。

 僕らに背を向け、逃げたピッピを追いかけ、両手で鷲掴みにする。


「あいつピッピを食べる気だ!」


 アスリットちゃんは足元に落ちている棒のようなものを拾い、デーモンを追う。


「逃げんじゃないわよ。次で葬ってあげるんだから!」


 トドメを刺すべく、アイもそれに続く。


「ピッピを離せ! 離せなの! バカァ!」


 棒のようなものでデーモンの手を殴打するアスリットちゃん。


「わりゃあー!」


 正面からデーモンに剣を突き刺すアイ。刃はデーモンのお腹の口に潜り込んだ。僕のいる場所から見ると、ちょうどアイがデーモンを串刺しにしたように見える。

 アスリットちゃんはこの隙を逃さず、デーモンの手からピッピを奪い去る。

 そして次の瞬間、デーモンが不可解な動きを見せる。

 首をグルリと動かし、アスリットちゃんを一瞥したのち、スッとその姿を消したのだ。

 消える瞬間、満足げな表情を浮かべたように思えたのは気のせいだろうか。とにかくやつは消えた。


「おおっ。お嬢ちゃんお手柄だ!」


 声のした方を見ると、一人の男性が倉庫の入口に立っていた。騒ぎを聞きつけようすを確認しにきたのだろう。


「みんな喜べ! デーモンが退治されたぞ。あのお嬢さんがやってくれた!」


 どんどん人が集まってくる。みんな公民館から逃げた人たちのようだ。


「あの少女がだって……。信じられん?」

「本当だとも。あのお嬢さんの剣がデーモンを貫いているのを、オレはこの目で見たんだ! そしたらデーモンはパッと消えちまった!」

「よし、地区会長に連絡するんだ!」

「まず警察に知らせるべきだろ!」

「どうでもいいが保険屋を呼ぶのを忘れるな。壊れた設備の修理費を工面しなけりゃならん」


 ガヤガヤし始める周りを余所に、僕はアスリットちゃんを見た。

 彼女は自分が握っているものをポカンと見つめている。デーモンが消滅すると同時に、付着していた粘液も消え、棒のようなものの正体がはっきりした。


「レムリンステックだよね、これ……?」


 アスリットちゃんはステックを揺らし、中央の星飾りをクルクル回転させた。

 どうやら、もう一度メルビュさんと話をしなければならないようだ。

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