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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第二章 ビッグフレンドデーモン
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深まる謎?

 次の日、僕は朝からベケットへと出社した。本来なら学校があるのだけど、非常事態のため今日は臨時休校となった。仮に授業が行われたとしても、午前中は休むことになっただろう。昨日の件について、朝一番で警察から事情聴取されることになっているからだ。


「襲われた理由に心当たりはないわけか……」

「むしろこっちが教えてもらいたいくらいですよ」

「デーモン流の気紛れじゃない? たまたま目に入った馬車を襲っただけよ」


 僕とアイの話しを聞いたノア警部は、自分の膝に頬杖をつき、思案顔をする。

 眠っていないのだろう、目の下には薄く隈が現れ、無精髭も濃くなっている。


「ところで、君たちはこれに覚えがあるかね?」


 警部は脇に置いていたアタッシュケースを開き、中身を僕らの前に開示する。


「これって、あれだよな。昨日アイが並んで買った……」

「レムリンステック……よね」


 アタッシュケースに納められていたのは、人気の玩具、レムリンステックだった。破損しているようで、杖は真っ二つに折れている。


「正式名称はなんだったかな……。えーと、モエモエレムリン・パルサーステックだ」


 警部はメモを読み上げる。


「この玩具は君たちと同乗していた子の持ち物かね?」


 質問の真意が見えないも、僕とアイは首を振るった。


「……その玩具の杖は、馬車の転落場所から見つかったんだ」


 僕とアイは顔を見合わせ、共にハテナを浮かべる。


「昨日、君たちから通報を受けたあと、すぐに馬車の残骸を調べたがデーモンの死体は確認できなかった。とりあえず馬車の残骸を回収している中、それが発見された」


 なんだって。僕は顔を引き攣らせる。


「ねえ、エリー。デーモンが倒された場合ってどうなるわけ? その場で消えちゃうとかじゃないの」


 アイは奥にいたエリーに声をかける。


「いいえ、ちゃんと死体は残りますよぅ。標本として保存されている例もありますしぃ」


 エリーがこちらに歩いてくる。


「エリーゼ君が言ったとおりだ。つまりデーモンはまだ健在で、市内のどこかに潜んでいる」


 警部の話しに、僕は表情を凍らせた。


「なんてやつだ。あんな高さから落ちたのに……。文字通りのバケモノじゃないか」

「ああ、やつはとんでもないバケモノだ。問題はそのバケモノがなぜ、幼児向けの玩具なんぞを盗んで行ったかということだ」


 盗む、玩具、幼児向け、なんのことだ?


「昨日、デーモンは民家を襲撃した。襲われた住民が言うには、デーモンは家にあったレムリンステックを鷲掴みにし、外へ逃げたそうだ。恐らく、今我々の目の前にあるのがそうなんだろう。崖から落ちた際、デーモンが落としたと見るのが妥当だ」


 魔界の使者がレムリンステックを……。そんなバカな。


「表情から察するに、少年も私と同じ気持ちらしいな。『そんなバカな』だ」


 もうなにがなんだか。異形の者の行動は人間の理解を超えている。


「レムリンステックが魔界でも人気とは驚いたわ。あいつが人間界に現れた理由がレムリングッズの収集だったら傑作ね」

「レムリンは子供から大人まで、幅広い層に親しまれていますからねぇ。デーモンさんたちの心を掴んでも不思議はないですよぅ」


 アイの皮肉にエリーが真剣な反応を示すと、奥から失笑が聞こえてきた。


「失礼。想像してしまいました」


 会計処理を行っていたアヤムは口を押え、笑いを堪えている。隣のシャロ姉さんもお腹を抱えて顔を伏せている。壺にはまったらしい。


「レムリン人気が魔界にも波及しているか否かは置いておくとして、今回の事件は納得がいかんことばかりだ。マイザ少年に、グローベルク君。君たちはなぜ無事だったんだ?」


 僕とアイは再度顔を見合わせた。なぜ無事だったと言われても。どう答えてよいやら。


「エビルランクを知っているか。魔物の危険度を示す順位で、エルグデーモンのランクはAAだ。『タルシスの白い人』の話しは聞いたことがあるだろ。過去に、たった一体で街一つを壊滅させたド級の魔物だ。やつと同ランクなんだ。デーモン種の発生には、かの、魔王オウガイツトムが関与していたとの説もある。つまりとてもヤバイやつだ。本来ならそんなやつから攻撃を受けて無事ですむはずがないんだ」


 言葉もない。僕らは無言で警部の話しに耳を傾けていた。


「今日になって情報を整理してみれば、あのデーモンは辻褄が合わないことばかりしている。多数の民家を襲撃したにもかかわらず、人的被害はゼロ。住民に危害を加える素振りすらなかったそうだ」

「私も不思議に思っていましたぁ。昨日、シャロ姉さまと出撃したあと、警官隊のみなさんと共にデーモンと交戦しましたが、なんで撃退できたんでしょう? あんなのと真正面から戦えるのは、セプテムアハト修道会のブラザー修道士くらいなものですのにぃ」

「私もずっと同じこと考えてたわ。交戦中のデーモンはどちらかというと、私たちなんか歯牙にもかけてない感じだった」


 エリーとシャロ姉さんは同じ意見だった。


「お嬢さんたちの言うとおりだ。警官隊にも怪我人は出ていない」


 ……デーモンは人に危害を加えないというなら、昨日僕らが攻撃に晒されたのはなぜだろう。


「我々は、あのデーモンが何者かによって召喚されたものであると睨んだ」


 ベケットの接客ルームが騒然とする。セシールさんとアヤムもこちらに視線を寄越す。


「市内にいる何者かが、なんらかの目的のために召喚した。犠牲者が出ていないのは、人への攻撃が命令されていないためだ。捜査本部はそう推測している」


 デーモン襲撃が何者かによる犯罪行為……。それは衝撃的な話だった。


「でも誰がなんのために? 召喚術はとても難しいんですよぅ。儀式台の準備から魔法陣の設置。難解な呪文と複雑な儀式の手順。生贄だって用意しなければなりません。本職の魔導師でもそうそう行えるものではありませんよぅ」


 聞いていた警部は、なぜか嬉しそうに表情を綻ばせた。


「そいつは朗報だ。行使できる人間が限られているのなら、むしろ絞り込みしやすいってもんだ。魔導協会関係者の誰かだとは思っていたが、すぐに犯人を特定できそうだ」

「でも魔導協会の人間がなんの目的でそんなことをするのですか?」


 セシールさんもこっちにきた。


「犯人から訊いてみないことにはなんとも言えんが、私個人としては八つ当たりの線が濃厚だと思っている。魔法は衰退の一途を辿っているからな」


 僕はエリーに視線を移し、彼女のコメントを求める。


「警部の言うとおりですぅ。近年、人間にとって魔法は不要な存在となりつつあります。今やライターを使えば誰でも火を起こせる時代です。習得の難しい魔法を、高額な授業料を払って習う必要性は薄れつつあります。もはや完全に趣味の世界なんですよぅ。魔導協会の衰退がわかり易い例ですかねぇ」


 そういえば、魔導協会のファキオワード支部も売却されると聞いた。


「必死に魔導を学んではみたものの、世間は自分を必要としてくれない。そんな社会への鬱憤から犯行に至った。そんなところだろうな」

「一般に受け入れられないものは、確実に衰退しますものね。経営者として他人事ではないわ」


 そう言ってセシールさんは小さな溜息を一つした。


「デーモンが幼児向け玩具を盗んだのも、世間を騒がせろという命令を実行したのだとすれば、納得できんこともない」


 どうだろうか? それにかんしてはどうも引っかかるものを感じる。


「事態が完全に収集するまでベケットとの契約は継続させてもらう。もしものときは応援を頼む」


「では失礼する」と、警部はベケットをあとにした。


「じゃあ今日もお仕事を開始しましょう。アヤムちゃんは契約書の修正作業を、シャロちゃんとエリーちゃんは念のため本部待機。そして……」


 そしてセシールさんは僕とアイの方を向く。


「トモ君とアイちゃんは引き続き、ピッピちゃんの捜索をお願い」


 僕とアイは冴えない顔で小さく溜息を吐いた。

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