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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第二章 ビッグフレンドデーモン
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市内厳戒態勢

「こんなのほっといても治るからいいって」

「いいわけないだろ。魔界の使者から傷を負わされたんだぜ。バイ菌に感染している可能性だってあるだろ。消毒は念入りに行うべきだ」

「違うわよ。ただの間接的被害よ」


 うだうだ言うアイに構わず、僕は彼女の膝小僧に消毒液をスプレーした。


「痛ったぁ! バカ、もっと丁寧にやんなさいよ。メッチャ沁みるじゃない。デーモンからの攻撃より痛いっての!」

 

 アイからの非難には耳を貸さず、傷にバンドエイドを張りつける。


「敗北の痛みに耐える……とは言わないわよね。戦ってすらいないんだから……」


 隣ではこちらと同じく、シャロ姉さんがアヤムから傷口の消毒を受けている。

 デーモンに挑んだアイとシャロ姉さんは、あのあと宙を舞うことになった。二人の話しでは、近づく間もなく、デーモンが放った衝撃波で吹き飛ばされたとのこと。このとき二人は擦り傷を負うこととなった。アイが言った間接的被害がこれだ。


「でもよかったじゃない。デーモンってかなり危険な生き物でしょ。向こうからいなくなってくれたのなら喜ぶべきよ」


 セシールさんは窓の外を眺めながら、胸を撫で下ろす。


「そのとおりですよぅ。公園に現れたのは黒いやつでした。エルグデーモンに間違いありません。デーモンには序列がありますぅ。下からそれぞれ、ファゾム、ベルスタ、エルグときて、最上位のケルビンとなりますぅ」


 上から二番目のやつと遭遇したわけか。なんてこった。


「でっ、そのエルグデーモンがなんだって街のど真ん中に現れたのよ? 観光にでもきたってわけ」


 傷の処置を終えると、アイはソファーに腰を下ろす。 

 市内にデーモンが出現してから約二時間が経過した。アイとシャロ姉さんを吹き飛ばしたあと、デーモンはとくになにもせず、何処かへ飛び去ってしまった。

 ただし危険が去ったわけではない。デーモンが街の外へ飛んで行く姿は目撃されておらず、まだ市内のどこかに潜伏している可能性が高いのだ。

 市長はすぐに非常事態を発令し、市内全域に警戒態勢が敷かれることとなった。

 鳴らされる警報。動員される警官隊。現在、ファキオワード市は混乱の真っ只中にある。


「ピッピ大丈夫かな」


 アスリットちゃんは表情を落としている。

 デーモン出現騒ぎの中、ピッピはアスリットちゃんの腕から逃げ出してしまったらしい。これで振り出しに戻ってしまった。


「お母さんには連絡を入れておいたわ。事態が落ち着いたら私たちがお家まで送ってあげるわ。ピッピちゃんはそのあと改めて探しましょ」

 

 セシールさんは宥めるようにアスリットちゃんの肩に手を置く。 

 アスリットちゃんが無事であることは、先程自宅にいるメルビュさんへ電報で伝えた。それまで僕らベケットが責任を持って彼女を保護しなくてはならない。

 ここにいれば安全だとは思うけれど、早く事態が収束するに越したことはない。

 外に目をやったとき、通りに一台の馬車が止まる。ほどなく入口が開き、男性が二人入店してきた。

 一人はスーツ姿で、髪を七三に分けた清潔そうな人。もう一人はくたびれたレインコートの男だ。こちらは無精髭が目立つ。


「失礼します。地域安全課の者ですが、セシール・メルーオーダさんはおられますか?」


 口を開いたのはスーツの男性だ。地域安全課ということは、市役所の人だ。


「あらっ、お久しぶりですねマードックさん。どんなご用件でしょう」


 すぐに応対に出るセシールさん。顔見知りらしい。


「どうぞお掛けになってください。今お茶を入れますので」


 どうやら出番のようだ。お茶を淹れるためにキッチンに向かおうとするも、


「いや結構。申し訳ないが今は差し迫った危機があるのでね。できればすぐにでも話を始めたいのだが」


 レインコートの男性が口を挟んできた。


「ご紹介します。こちら、ファキオワード市警のイングラム警部です」

「ノア・イングラムだ。できればノアと呼んでくれ」


 ノア警部は、ざっくばらんな人のようだ。


「率直に要件をお伝えする。今から約二時間前、市内にデーモンが出没したのはすでにご存知ですね?」

「はい。うちの団員がその場に居合わせましたから」


 セシールさんが僕らの方を指差すと、ノア警部は、「ほう」と、全員の顔を一瞥する。


「説明の手間が省けて助かる。我々の申し出は実に簡単だ。姿を消したデーモンの捜索を手伝ってもらいたい。これはファキオワード市警、および市役所からベケット騎士団への正式な依頼だ」


 行政機関からの依頼がきてしまった。


「今は民間とはいえ、ベケットは元々市役所の管轄組織でした。なんの問題もありませんよ」


 セシールさんが二つ返事で了解すると、ノア警部は満足そうに頬を緩めた。


「では、手早く契約内容を詰めましょう」


 マードックさんはセシールさんの横で、契約書を作成し始めた。

 外では風が強くなってきた。窓がカタカタと音を立て、実に落ち着かない気分にさせる。

 なんだか波乱の予感がしてきた。

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