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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第二章 ビッグフレンドデーモン
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依頼完了……だが……?

 次の捜索範囲は公園の周辺だ。僕らは公園沿いに歩き、ピッピを捜索する。

 公園の周辺にはお店が並んでいる。喫茶店、洋服店、ファストフード、玩具屋。公園内の露店も足せば、メインストリートを上回る店舗数だ。


「……いないな」

「……いないわね」

「ピッピどこいったんだろ」


 各お店を裏まで確認しながら進むも、一向にピッピらしき猫はいない。猫は何匹か見かけたりしたも、アスリットちゃんは「違うよ」と首を振るうばかりだった。


「ねえ、ピッピについてもっと詳しく教えてくれないかな。普段どんなものを好んで食べているとか、家ではどんな行動をするとか、なにかヒントになるかもしれない」


 アスリットちゃんは考え込む。


「うーんとね。ピッピは臆病で、蛾にも驚いて逃げちゃうの。あとは、とっても意地汚いことかな。台所に置いてあったお肉を勝手に食べちゃって、何度もママに怒られてるの」


 上出来だ。じゅうぶん手がかりになる。

 蛾に驚くくらいなら、森に入る可能性は低いだろう。あとは、家の肉を勝手に食べる癖だ。お腹を空かせ、肉屋の売り物を失敬していることも考えられる。肉屋に訊けば、有益な情報を得られるかもしれない。

 頭の中で今後の行動予定を立てていると、


「あらっ、ここにこんな店あったっけ?」


 不意にアイが、一軒の店の前で足を止めた。

 入口のすぐ上には魔法陣が描かれ、その横に、『トンプスンアロマ』とある。


「ああ、思い出した。ここって新しくできた香水ショップだよ。確か有名な香水ブランドの支店が、今週市内にオープンするって言ってた」


 夕食時のラジオニュースでそんなことを言っていた。


「わあー、いい匂いなの」


 店舗の入口から漂ってくる香りに、アスリットちゃんはうっとりと目を細めた。


「なんなら見て行くか?」

「なにバカなこと言ってんの。今は仕事中よ」

「さっきはソフトクリーム食べてたくせに」

「あれは休憩中だからいいのよ」

「……色気より食い気なんだな」


 間髪入れずに、アイの肘が僕の胸を捉えた。


「次は手加減しないからね。まだなにか言うつもりなら、よく考慮しなさいね」

「いえ……、滅相もございません……」


 僕は胸を押さえながら、くぐもった声で返事をする。


「痴話喧嘩っていうんだよね。こういうの?」

「ぜんぜん言わないから! いい。トモルはただのお供よ。私がボスで、こいつが部下。私が長で、こいつが手下。私が主で、こいつが召使い」


 アイはアスリットちゃんの発言を念入りに訂正した。そんなに僕との関係を疑われるのが不満なのか。


「痴話喧嘩も大概にねぇ」

「だから違うって言ってんでしょうが! しばくわよ……てっ、あれっ?」


 アイはすぐに今のがアスリットちゃんでないことに気づく。

 声の主は僕らの横に立っていた。


「妙なところで会いますねぇ」

「二人もトンプスンアロマを見にきたのかしら?」


 トンプスンアロマの入口には、エリーとシャロ姉さんが立っていた。二人共、手には装丁のよい紙袋を提げている。


「ううん、私たちは仕事の最中。なんか新しいお店ができてたから、なにかなって立ち止まっただけ。二人の買いものってここだったの?」

「そうですぅ。噂どおりオシャレな店舗でしたよぅ。念願のアルマニーが手に入って、ウキウキしてますぅ」


 エリーはその場で軽く飛び跳ねて見せた。彼女流にウキウキを表現しているらしい。


「私はロセリーニを買ったわ。前から楽しみにしてたのよね。トンプスンストアがオープンするのを」


 シャロ姉さんは提げていた紙袋を、愛おしそうに胸に抱いた。


「変わった香水屋ね。壁に魔法陣が書いてあるから、てっきり魔導協会の施設かと思ったわ。なんか魔法陣の形も似てるし……」

「正式名はトンプスン・アロマコーポレーション。創立者のヨーゼフ・トンプスンは元々、魔導師ギルドのメンバーだったのよ。ギルドが解散したあと、会得していた薬草の知識を生かして香水作りを始めたところ、これが爆発的にヒットしたのが始まり。トンプスンアロマの名で各国の王族たちからも好まれ、いつしか一流ブランドとして確立されたのよ。会社のロゴが魔法陣なのは、ヨーゼフが魔導師ギルドに所属していた名残ね」


 さすがは物知りシャロ姉さん。


「ちなみに蛇足ですけどぉ。魔導師ギルドが解散したあと、有志によって設立されたのが今の魔導協会なんですぅ。魔法陣が似ているのはそのためですよ、多分」


 つまり協会とこの店は大本が同じというわけか。納得した。


「魔導協会はわたしのパパがお仕事してたところだよ。パパは魔法のぷろふぇっしょなるな人だったの」


 アスリットちゃんが僕の前に立つ。過去形になっているところが悲しい。


「その子は誰かしら? 二人の知り合い?」


 僕は依頼内容をエリーとシャロ姉さんに伝えた。


「シャロ姉たちは黒猫をどこかで見かけたりしなかった?」

「ゴメンなさいね。力にはなれそうもないわ」


 シャロ姉さんは首を振るった。


「あのー、その探している猫、ピッピちゃんでしたっけ。その子の特徴をもう一度教えてもらえますかぁ」


 そう言ってエリーは視線を微妙に上げる。


「えーとね。全身が真っ黒で、お目目が真っ赤で、あとモジャモジャしてて可愛いの」


 ふんふんと、エリーは斜め上を見たまま頷く。


「首輪とかはつけてますかぁ」

「つけてるよ。青くてキラキラしたお宝石みたいな石がブラブラしてるやつ」


 エリーは、「おおーっ」と感心を示した。


「ひょっとして、あの子がピッピちゃんだったりしますかぁ」


 エリーは先程から見上げていた先を指差した。

 いつの間にそこにいたのか、トンプスンアロマのオーニングの上には、一匹の黒猫が蹲っていた。赤い両目に、首には青い石が垂れ下がった首輪をしている。


「ピッピ!」


 アスリットちゃんが歓声を上げた。どうやら「ひょっとして」しまったようだ。

 僕はアスリットちゃんを肩車し、オーニングの上にいるピッピに手を伸ばさせる。


「ありがとうお兄ちゃん、お姉ちゃん。ピッピが見つかったよ!」


 なんという偶然。厄介な依頼が思わぬ解決を見せてくれたことに、アイもホッとしたようだ。


「ふう。イソベメグミに感謝しないとね」


 アイは柄にもなく、大陸で崇拝されている女神に祈りを捧げた。


「早いとこ本部に戻ろうぜ。今日は倉庫の整理をする予定なんだ」

「ここで会ったのもなにかの縁よ。みんなで帰りましょう」


 シャロ姉さんの言葉に従い、僕らは帰路についた。

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