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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第二章 ビッグフレンドデーモン
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日曜の親子連れ

 ある日曜日のことだった。一組の親子がベケットのドアを叩いた。


「失礼します。依頼をしたいのですが?」


 母親と思われる女性は、僕らを前に礼儀正しくお辞儀をする。


「ここがなんでもしてくれる騎士さんたちの基地なの、ママ?」


 娘だろうか、女性は女の子を一人連れていた。

 年の頃は九歳くらい。頭につけた赤いヘアバンドがよく似合っている。


「いらっしゃいませぇ~。どうぞこちらにおかけください」


 セシールさんはいつもの営業スマイルで、二人をソファーへと促がす。

 僕はすかさずキッチンに走り、グレープジュースとアイスコーヒーを入れて、二人に差し出した。


「ありがとうなの、お兄ちゃん」


 女の子はすぐにストローを咥え、ジュースを啜り始めた。


「申し遅れました。私はザウアー地区に住む、メルビュ・リンドグレンと申します。こっちは娘のアスリットです」


 メルビュさんと、アスリットちゃんか。僕は二人の顔と名前を記憶する。


「それで、依頼というのはなんでしょう?」

 

 セシールさんは微笑みを絶やさず商談に入る。


「それが、実に下らない内容なのです。こんなことを騎士団に頼むのはお門違いかと思うのですが……。呆れないでもらえるといいのですけど」


 そう言って、メルビュさんはすまなそうに苦笑を浮かべる。


「下らなくなんかないよ。ピッピはパパがわたしにくれた大事な友達だよ。全身真っ黒でモジャモジャしてて、真っ赤なお目目が可愛いんだから」


 アスリットちゃんは頬を膨らませた。メルビュさんが僅かに俯く。


「友達は大切にしないとダメなんだから。天国のパパに怒られちゃうの!」


 メルビュさんはアスリットちゃんの頭を撫で、彼女を落ち着かせる。


「ピッピというのはうちで飼っている猫で、今日ここへきたのは、そのピッピにかんしたことなのです」

「ピッピは一昨日から姿が見えないの。家の中とか周りとかいっぱい探したけど見つからないの」


 なるほど、なんとなく依頼の中身が予想できた。


「ピッピを探してはもらえないでしょうか。つまらない依頼とは存じますが、受けてもらえるなら幸いです」

「依頼はどんなものでも大歓迎です。筋さえ通っていれば、報酬次第でなんでも受けるのが我々のモットーですから」


 基本的にセシールさんは仕事を選り好みしない。例えば……。


「ただいま。依頼は無事完了しました」


 仕事に出ていたアイが戻ってきた。


「ごくろうさま。この暑い中、行列に並ぶのは大変だったでしょ」

「それはもう。早朝から並んでいましたからね」


 アイは朝早く任務に向かっていた。依頼主は市内に住む会社員の男性で、依頼内容は娘にプレゼントする玩具の購入だった。目的の玩具は人気らしく、手に入れるには整理券を持って店先に並ぶ必要がある。彼は仕事で手が離せないため、うちに購入代行をお願いしてきたというわけだ。


「三時間にもわたる苦行のすえ、買ったものがこれです」


 アイは右手の紙袋を掲げて見せた。


「あっ、レムリンステックだ!」


 アスリットちゃんは急に大声を上げ、アイの持つ紙袋を指差した。

 最近フェンスター公国でブームになっている漫画に、『魔女っ娘エンジェル ミラクル・レムリン』という作品がある。レムリンステックとは、この漫画の主人公が使用している杖だ。人気に目をつけた玩具会社が、作品に登場するアイテムを実際に商品化してみたところ、大ヒットしてしまったというわけだ。


「いいなあ、レムリンステック……。ほしいな……」


 アスリットちゃんは指を銜えながら、レムリンステックに羨望の眼差しを向けている。やはり子供だ。玩具には夢中になる。


「ダメよアスリット。玩具にばかり夢中になって、いつも勉強を疎かにするんですから」


 実に母親らしい台詞だ。我が母にも見習わせたい気真面目さだ。


「では、これが契約書になります。内容に問題がなければサインをお願いします」


 アヤムは作成した契約書をテーブルに置く。

 メルビュさんはザっと内容を確認したのち、「これで構いません」と書類にサインをする。


「これで商談は成立です。……前の依頼が終わってすぐで悪いけど、アイちゃんお願いね」


 エリーとシャロ姉さんは休憩時間を利用して市内に出ている。現在動ける実働係はアイだけなので仕方がない。


「特別にトモ君を助手として同行させることを許可してあげるわ」


 なんとしたことか、野外勤務を命じられてしまった。


「足手纏いにだけはならないでよね」


 うんざりした言葉とは裏腹に、どこかアイは楽しげにしていた。

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