日曜の親子連れ
ある日曜日のことだった。一組の親子がベケットのドアを叩いた。
「失礼します。依頼をしたいのですが?」
母親と思われる女性は、僕らを前に礼儀正しくお辞儀をする。
「ここがなんでもしてくれる騎士さんたちの基地なの、ママ?」
娘だろうか、女性は女の子を一人連れていた。
年の頃は九歳くらい。頭につけた赤いヘアバンドがよく似合っている。
「いらっしゃいませぇ~。どうぞこちらにおかけください」
セシールさんはいつもの営業スマイルで、二人をソファーへと促がす。
僕はすかさずキッチンに走り、グレープジュースとアイスコーヒーを入れて、二人に差し出した。
「ありがとうなの、お兄ちゃん」
女の子はすぐにストローを咥え、ジュースを啜り始めた。
「申し遅れました。私はザウアー地区に住む、メルビュ・リンドグレンと申します。こっちは娘のアスリットです」
メルビュさんと、アスリットちゃんか。僕は二人の顔と名前を記憶する。
「それで、依頼というのはなんでしょう?」
セシールさんは微笑みを絶やさず商談に入る。
「それが、実に下らない内容なのです。こんなことを騎士団に頼むのはお門違いかと思うのですが……。呆れないでもらえるといいのですけど」
そう言って、メルビュさんはすまなそうに苦笑を浮かべる。
「下らなくなんかないよ。ピッピはパパがわたしにくれた大事な友達だよ。全身真っ黒でモジャモジャしてて、真っ赤なお目目が可愛いんだから」
アスリットちゃんは頬を膨らませた。メルビュさんが僅かに俯く。
「友達は大切にしないとダメなんだから。天国のパパに怒られちゃうの!」
メルビュさんはアスリットちゃんの頭を撫で、彼女を落ち着かせる。
「ピッピというのはうちで飼っている猫で、今日ここへきたのは、そのピッピにかんしたことなのです」
「ピッピは一昨日から姿が見えないの。家の中とか周りとかいっぱい探したけど見つからないの」
なるほど、なんとなく依頼の中身が予想できた。
「ピッピを探してはもらえないでしょうか。つまらない依頼とは存じますが、受けてもらえるなら幸いです」
「依頼はどんなものでも大歓迎です。筋さえ通っていれば、報酬次第でなんでも受けるのが我々のモットーですから」
基本的にセシールさんは仕事を選り好みしない。例えば……。
「ただいま。依頼は無事完了しました」
仕事に出ていたアイが戻ってきた。
「ごくろうさま。この暑い中、行列に並ぶのは大変だったでしょ」
「それはもう。早朝から並んでいましたからね」
アイは朝早く任務に向かっていた。依頼主は市内に住む会社員の男性で、依頼内容は娘にプレゼントする玩具の購入だった。目的の玩具は人気らしく、手に入れるには整理券を持って店先に並ぶ必要がある。彼は仕事で手が離せないため、うちに購入代行をお願いしてきたというわけだ。
「三時間にもわたる苦行のすえ、買ったものがこれです」
アイは右手の紙袋を掲げて見せた。
「あっ、レムリンステックだ!」
アスリットちゃんは急に大声を上げ、アイの持つ紙袋を指差した。
最近フェンスター公国でブームになっている漫画に、『魔女っ娘エンジェル ミラクル・レムリン』という作品がある。レムリンステックとは、この漫画の主人公が使用している杖だ。人気に目をつけた玩具会社が、作品に登場するアイテムを実際に商品化してみたところ、大ヒットしてしまったというわけだ。
「いいなあ、レムリンステック……。ほしいな……」
アスリットちゃんは指を銜えながら、レムリンステックに羨望の眼差しを向けている。やはり子供だ。玩具には夢中になる。
「ダメよアスリット。玩具にばかり夢中になって、いつも勉強を疎かにするんですから」
実に母親らしい台詞だ。我が母にも見習わせたい気真面目さだ。
「では、これが契約書になります。内容に問題がなければサインをお願いします」
アヤムは作成した契約書をテーブルに置く。
メルビュさんはザっと内容を確認したのち、「これで構いません」と書類にサインをする。
「これで商談は成立です。……前の依頼が終わってすぐで悪いけど、アイちゃんお願いね」
エリーとシャロ姉さんは休憩時間を利用して市内に出ている。現在動ける実働係はアイだけなので仕方がない。
「特別にトモ君を助手として同行させることを許可してあげるわ」
なんとしたことか、野外勤務を命じられてしまった。
「足手纏いにだけはならないでよね」
うんざりした言葉とは裏腹に、どこかアイは楽しげにしていた。




