アイ
その後、戻ってきた老人がデルタ高原の風景を撮影し終えたことで、依頼は達成となった。
帰りは別行動となる。まず、一刻も早くセシールさんにみんなの無事を伝えるため、シャロンさんは乗ってきた馬で先に帰った。アイリスが乗ってきた馬車は壊れ、馬も逃げてしまったため、老人はエリーさんが乗ってきた馬車に乗った。
「それではお先に失礼しまーすぅ」
「なかなかスリルがあって楽しかったぞ。お嬢ちゃんも立派な戦いっぷりだった」
老人の言葉に照れたのか、アイリスは微かに頬を朱に染めた。
エリーさんが手綱を握り、馬車を発進させる。
「アイリスもエリーさんの馬車に乗って帰ればよかったんじゃないか?」
アイリスは僕の自転車に乗って帰ることになった。言い出したのは本人だ。
「バカね。そうなったらあんたが一人で帰ることになるでしょ。冥精霊がまだいるかもしれないのに……」
少し感動した。あのわがままアイリスが僕の安全を気にかけてくれるとは。
いつものように、アイリスを荷台に乗せ、僕は自転車を漕ぐ。
「よく壊れなかったわね、この自転車」
「ああ、ミスリル合金製はダテじゃないってことだな。雨に濡れても錆ないんだぜ」
冥精霊に体当たりが可能だったのも、この材質のおかげだろう。
「マジで! たかが自転車にミスリルなんて、メッチャ贅沢じゃない。もったいないわよ」
「おいおい、今まで散々乗せてもらっていて、その言いぐさはないだろ。それに、これがなきゃ君は命が危なかったんだぜ。むしろ感謝してほしいくらいだ」
「うん、助けにきてくれてありがとね」
アイリスは素直にお礼を述べてきた。てっきり、「誰も、助けにこいなんて頼んでないわよ」とでも言われるのかと思っていた。これは意外な展開だ。
「ひ弱なやつと思っていたけど、そこそこ根性はあるようね。多少は見直したわ。ご褒美として、私のことを『アイ』と呼ぶ権利をあげるから感謝しなさい」
なんと傲慢かつ、豪華な贈り物だ。嬉しくて笑いが込み上げてくる。
「ありがたく頂戴する。でっ、アイはホットケーキのトッピングはなにが好きだ?」
「スライスバナナにチョコレートソースがたっぷり載ったやつ。あと生クリームとカスタードクリームも必須。生地の間からメープルシロップが沁み出ていれば……、まあ、今日と明日くらい優しくしてあげてもいいわね」
「――了解。本部に戻る前に商店街に寄るからな」
僕はトッピングの全体像を練りながら自転車を走らせた。




