放課後
生活様式が限りなく現代日本に近いファンタジー世界が舞台です。主人公とヒロインは、普段は学校(高校)に通っており、放課後になると騎士団本部にやってくるという、いわゆる部活物としての要素を含み、どちらかといえばギャグ寄りです。
『ライトノベル』を意識したもので、『バカバカしい面白さ』を主体にしております。
五年前に執筆したもので、やや見苦しい点があるのは大目に見てくれると嬉しいです。
「それでは諸君、また明日会おう」
ホームルームが終わり、ピーター先生が廊下に消えると、教室は喧噪に包まれ始めた。
凝った背を伸ばす者、友達と語り始める者、早々に廊下に出ていく者。皆、憂鬱な授業から解放された解放感に酔いしれているようだ。
「トモル、これから用事あるか?」
やってきたのはクラスメートのオーブリーだった。
「もし暇ならオレの家にこねえか。いいものを見せてやるぜ」
真紅の髪に、先の尖った耳。典型的なエルフ族の容姿を有している男子だ。
「また無修正のポルノ雑誌でも手に入れたか?」
「もちろんそれもある。だがもっと心躍るものが昨晩うちにやってきた!」
オーブリーはニタリと笑う。
「昨日の夜、うちの店に新商品が納品された。『WP W105LA』。ウイリアムパッカード社製の最新ロングソードだ」
オーブリーの実家は市内で武器屋を営んでいる。『モンターギュ コンシューマーアーム』という店で、彼の祖父がエルフ自治区から移住してきたとき開いたらしい。
「わかったぞ、最近流行ってるやつだろ。刀身から特殊粒子を発生させて、周りの空気をキレイにしてくれるってやつ……。オレのお袋もほしがってたな」
オーブリーは、「やれやれ」とかぶりを振るった。
「おいおい、W105をマヌケな流行ものと一緒にするんじゃない。W105は剣としての本来の性能に特化した製品だ。ずばり、なんでも切ることができるんだ。メーカーの広報によると、型番ラストの『A』は、オールって意味らしい」
こいつのように武器オタクではないものの、少しだけ引かれるものがあった。
「調理に使えそうだな。冷凍マグロとかでもスパスパ切れそうだ。同型のナイフタイプが発売されたら教えてくれないか」
オーブリーの表情が「やれやれ」から「げんなり」に変わる。
「相変わらず家庭的だな。いい主婦になれるぜ、お前は」
「大きなお世話だ」と、僕は椅子から立つ。
「どっちみち今日は無理だ。オレはこのあとバイトで、学校が終わったらすぐ向かうことになっている。初日から遅刻したら印象が悪いだろ」
そう言って僕は机のフックにかけていたバッグを取る。
「そういや近々バイトを始めるとか言ってたな。確か騎士団の――」
オーブリーが言い終わらぬうち、「ガシャン」と破壊音が響いてきた。
音の発生源である教室前方に目を向けると、教卓の上で一人の女子が膝をついている光景が見られた。
腰まであるピンクの髪に、中学生ほどの小柄な体。俯いているため顔は見えないものの、整った顔立ちであることは知っている。
彼女の周りには花瓶の破片が散乱しており、また、彼女の制服の一部が濡れそぼっているのがわかった。彼女の横には男子が二人おり、彼らは怯えた顔で後ずさっている。
「……可哀そうに。やってはいけないことをしちまったな」
オーブリーは同情を滲ませた。
マーカスとギルバード。クラスのお調子者二人組だ。なんらかの理由で飾ってある花瓶を倒してしまったのだろう。膝をついている女子、アイリス・グローベルクが近くにいたのは不幸というより他ない。彼女の気性は怒り狂った猛獣のごとくなのだ。
アイリスが俯いていた顔を上げると、マーカスとギルバードが悲鳴を上げて廊下に飛び出して行った。鬼のごとく形相で二人のあとを追うアイリス。
五秒ほど経過したあと、遠くから二人の悲鳴が聞こえてきた。ひょっとすると断末魔かもしれない。
「触らぬ神に祟りなしだな。アイリス・グローベルクに無礼を働いた者は激しく後悔することになる。あの二人はしばらく病院通いだな」
オーブリーに同意しつつ、僕はバッグを肩にかける。
「さてと、そろそろ行くか。じゃあな」
「ああ、また明日な。美人の女騎士と仲良くなったら紹介してくれよな」
適当に返事をしつつ、僕は教室をあとにした。




