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「Each Desire」  作者: 四つ足ジョバンニ
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【第七章】 浮かぶ容疑者

 重いも寄らなかった形での、チェシャの死が告げられてから、五日が経った。

 その間にあったことの経緯を記しておこう。

 私が警察に届け出ると、殺された都野國屋が、本当に私達が普段接していたチェシャと同一人物なのかどうかの検証が行われた。

 私達は、チェシャを知ってはいたけれど、それは《エアフリ》でのやりとりだけであって、実際に彼女に会ったことがあるわけでもなく、彼女は、《エアフリ》で自分の顔を明かしたこともなかったためだ。

 だけど、次に挙げる点から、それは確定的だとされた。

 私達が知る彼女のプロフィール――本名、年齢、職業、住所(ウルフがプレゼントを贈る時に、教えてもらっていた)が一致していること。

 彼女がビデオ通話をする際、《エアフリ》のブラウザに映す画像に使っていた、彼女が飼っていた愛犬コジロウと、殺された都野國屋の住むマンションの部屋に残されていたチワワが、同じ犬に間違いないということ。

 見た目がそっくりなだけでなく、トレードマークである額のハートマークの模様や、嵌めている首輪も、ウルフが贈ったものであると確かめられたこと。

 ただ、彼女が殺される少し前に、私達との《エアフリ》での会話に使っていたはずのノートPCは、犯人の手によるものなのか、データを完全に削除された状態になっていたため、会話の履歴などからの、そのことを裏づける証拠は得られなかった。

 事件発生から二日後には、都野國屋アリス殺害事件の容疑者が挙げられた。

 疑いを向けられたのは、《悠久旅団》で、都野國屋と同じく舞台女優を務めていた、白鞘留美(しらさやるみ)という名の三十二歳の女性だった。

 殺害現場である、都野國屋が住んでいたマンションの自室のリビングからは、ピアスの片方だけが見つかっており、《悠久旅団》の他の劇団員が、白鞘が以前それと同じものを嵌めていたのを覚えていた。

 白鞘は、《悠久旅団》で、以前はよく主演女優を務めていたのだけれど、都野國屋が入団してからは、彼女に主演女優の座を奪われることが多くなり、陰で都野國屋を悪く罵ったり、「殺してやりたい」と呟くことさえあったらしい。

 であれば、主演女優の座を度々と奪われたことで、都野國屋に憎しみを抱き、その感情を抑えきれなくなって――という動機が成り立つことになる。

 私達が、チェシャと最後に《エアフリ》で会話したあの日、彼女の部屋を訪れる予定でいた友人とは、その白鞘のことだったのかもしれない。

 白鞘は、都野國屋を憎んではいたけれど、表面上は、他の劇団員達と同じように接していたらしく、それ以前にも、他の劇団員の仲間達と一緒に、都野國屋の自宅マンションの部屋を訪れたことも何度かあったとのこと。

 都野國屋にしても、よくライバルで仲間でもあったその白鞘が、まさか、自分に殺意を抱くほどにまで憎しみを向けているとは、考えもよらなかったのだろう。

 犯行時のアリバイについてだけれど、白鞘は、都野國屋が殺された日は、休暇をもらっていた日で、自宅マンションの部屋で、一日中部屋を出ずに、趣味である映画鑑賞をしていた、と証言している。

 マンションには管理人は常駐しておらず、そのため、アリバイはないことになる。

 動機もあり、有力な物的証拠もあり、アリバイがない。

 司法解剖で割り出された死亡推定時刻も、午後二時から三時までの間とされていて、チェシャが話していた劇団員の友人が、部屋を訪れることになっていたはずの時刻とも一致している。

 殺害現場に残されていたピアスについて、白鞘は、自分が使っていたものだと認めはしたものの、以前つき合っていた男性と別れることになった後、彼との思い出を残しておきたくないと、写真などと一緒にゴミに出したと証言しているらしく、容疑についても否認しているらしい。

 であるものの、他に疑わしい人物はおらず、都野國屋のノートPCのデータが完全に削除されていた点について、多少の疑問は残るものの、かなり古い型なので、近々買い換えるつもりで、売却前にそうしておいたのだろうとされ、白鞘が犯人だと考えて間違いはないだろう、とされているようだ。



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