グルメスナック菓子
僕は勉強が苦手だ。今、小学5年生だが、学校で習う授業は、どうすれば成績が上がるのかよくわからない。コミュニケーションの授業に、ディベートの授業。優等生の間杉くんは、スポーツも勉強もできていいなあと思う。僕はスポーツもできないし、家は貧乏なので、授業が終わったら家に帰ってテレビをみるか、漫画を読むかしかない。こんな生活がいつまで続くのだろうか? いじめられているわけではないが、子供ってもっと楽しいものじゃなかったのか? と思ってしまう。
今日も、『いつもの』夜がやってくる。父さんは、家をめちゃくちゃにして、離婚して今はいない。母は、僕のために、深夜まで仕事をしてお金を稼ぐ。家で一人ぼっちの僕は、寂しくテレビを観るしかない……。
何気なくつけて、バラエティ番組をぼーと見ていたときだった。
僕の服を入れている衣装ケースの一番下段があき、モノクロの変なものがでてきた。
「ぼくドラえものぐま!」
なんだあれ。母さんが変なおもちゃでも買ったのか? それと本物の1話と全然違う。原作をリスペクトしていない。これ読んだら、原作ファンはキレるぞ?
「いきなり出てきたけど、君の未来は不幸になる! それを助けるために僕は未来からやってきた!」
かなり話はしょってるし、展開が打ち切り漫画だよ! それはさておき、今の状態で不幸だと思ってるのに、君の未来は不幸になると言われても……。未来「も」だよ! とりあえず、お約束なので、あのことを聞いてみることにする。
「具体的にどう不幸になるのかなあ? 僕の未来は?」
ドラえものぐまは説教するように語りだした。
「君は、高校には進学するが、クラスに馴染めず成績も下の下で中退。その後派遣労働者として働く。のび夫くんのママは、そんな低収入ののび夫くんにいい生活をさせて幸せにしようと一生懸命働くけどうつ病にかかり、自宅で療養するようになるんだ。のび夫くんはそんなママを助けようと生活保護を受ける。しかし、ママが精神崩壊して暴力や暴言をふるうようになり、限界になったのび夫くんはママを殺害。刑務所に入る……。自宅のママの介護で、まともな人と全然話さなかったのび夫くんは友達はおろか話し相手さえできず、出所と入所を繰り返し、最後は一人寂しく孤独死。葬式は行われず、みんなの記憶にも残らず、消えていくんだ……」
ただのラノベなのに、こんなリアルな話をされても困る。誰が読むんだ、こんなライトノベル……。それはともかく、原作だと、このロボットの秘密の道具で人生が豊かになっていく。僕は、お約束のあの言葉を口にする。
「なんとかしてくれよぉ……。ドラえものぐまぁ……」
「残念ながらなんとかならないんだよ」
「は?」
「君はここで秘密の道具でもでると思ったけど、僕には残念ながら秘密の道具は持ってなくて、悪魔の道具しか持っていないんだ」
そういう御託はいいから!
「なんでもいいから助けてよぉ……」
「よく便利すぎて人を破滅に導く悪魔の道具(しかし、ちゃんと使えば僕たちを助ける。でも、そういう人は物語では少数)があるけど、僕の道具はそんな感じなんだよ」
「分かったから出してくれよぉ。もうどうなってもいいよぉ……」
「そこまで言うんだったら出すよ。はい。『グルメスナック菓子』〜!」
グルメスナック菓子!? 普通のスナック菓子と何が違うんだ!?
「これは、未来で開発された1袋100円のスナック菓子……。でもね……」
僕はドラえものぐまの説明を聞かずに袋をあけて、スナック菓子を口にした。
「……説明は最後まで聞くもんだよ、のび夫くん。もうどうなっても知らないよ」
ドラえものぐまは僕に注意をしたが、何が問題だったか、分からなかった。このスナック菓子普通に美味しいし、味には何の問題もない。むしろ、未来のスナック菓子は今のよりはるかに美味しい。同じスナック菓子か、疑うくらいだ。
僕はグルメスナック菓子をあっというまに食べ終わってしまった。しかし、まだ食い足りなかった。
「ドラえものぐま。おかわり!」
「のび夫くん。残念ながら、そのグルメスナック菓子は1袋しかないんだ。このグルメスナック菓子は一度食べると大変なことになるんだよ、のび夫くん」
「……たかがスナック菓子で何言ってんの?」
「それはね……、別名危険ドラッグ菓子と呼ばれているんだ」
「は!?」
そういえば、食べてまだ数分だが非常にイライラしてきた。
「グルメスナック菓子はカルイチーという会社が作ったもので、脳の仕組みを研究し、いかに麻薬のようにハマらせるかを考えられて作られたスナック菓子なんだ」
そんなもん出すなよ!!
「ふざけんな! ドラえものぐま! つーかなんでそんな恐ろしいものが未来で普通に売られているんだよ!」
「グルメスナック菓子は麻薬みたいに精神は崩壊しないからね。ただ食い過ぎてデブや糖尿病になるんだよ。カルイチーは大企業で沢山の貧乏人を雇っているから倒産されるとその人たちが路頭に迷うし、未来の政治家はスナック菓子に税金をかけてガッポガッポ。社会の進歩で病気が少なくなったけど、医療業界はグルメスナック菓子のデブのおかげでガッポガッポ。他にも理由はあるけど、金持ちが貧乏人から金を剥奪することに、誰も異議を唱えられないんだよ、未来では」
悪魔の道具といったらもっと恐ろしいものを想像していたが、こんな身近にあるもので、 危険な目にあわされるとは思わなかった。うっ……、2袋目が欲しくてたまらない……。