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セルフィリア王国最高の宿屋、旅館「森さと」   作者: 森田季節
森のヌシと旅館編

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22/28

21話 異世界観光案内所(2)

 テーブルにはたくさん「森さと」のパンフレットが置いてある。


「ぶっちゃけ、お客さんの三人に一人は「森さと」について知るのが目的ですよ。「森さと」に泊まるのが観光の目的になっていますから」


 そういえば、壁にも「最高のおもてなし、旅館「森さと」という字が貼ってあった。


「こちらとしても、王都で宣伝をしていただければお客様がどんどんやってくるので、助かりますよ」


 一成も高柳には頭が上がらないらしい。


「森さと」の話はたしかに口コミでも広がっているが、やはり限界がある。

 その点、観光案内を王都で発信してくれるならこんなにありがたいことはない。


「こちらに来てしまった日本人同士、協力しないといけませんからね。僕としても自分の経験が役に立ってうれしいですよ」


 これまでも、王国では宿場に兵士を置いて治安を守ったり、街道の整備を行ったりといったことは対策としてやっていた。


 しかし、旅行サービスという概念まではなかった。

 観光という行為自体があらゆる時代に存在するものではない。移動が容易であり、それなりに安全である時代しか、そういうものは生まれない。


 幸い、王国は平和で、その二点は基本的にクリアできていた。

 だが、まだ観光という意識が根付いてなかった。


 そこに高柳は上手く乗りこむことができた。


「もともとはアリマー山脈とそこにある「森さと」への経路を案内する仕事でしたが、少しずつ範囲も増えて、王国全体の旅の案内をできるようになってきています。今はこの国の地誌を読んだりして、どこにどんな観光名所があるか調べてますよ」


 高柳の書類には、「キリアーノの三段滝」と書いてある。

 その滝の特徴、経路、途中の宿の紹介、一緒に見て回れる付近の観光地などが並んでいる。


「へ~、こうやって、観光地のデータを増やしてるんですね~」


 葵が興味深そうに見る。


「パソコンはないので、昔ながらのカード方式です。観光地になりそうな情報を見つけたら、そのポイントをこうやって一枚の紙にまとめていくんです」


 高柳は楽しそうに語る。

 何もないところからのチャレンジである分、生きがいにもなっているのかもしれない。


「いずれ、本格的な観光ガイドみたいな本を出版できればいいなと思っています。おそらく、王国では初のものになるんじゃないですかね」


「実に素晴らしいです! その時は「森さと」もお願いしますね!」


「ええ、もちろんですよ。もう、僕は「森さと」と一蓮托生ですからね。一緒に飛ばされてきたのも何かの縁です」


 一成は「森さと」という言葉で、仕事を思い出した。


「さて、葵、仕事にとりかかろうか。まあ、こうやって高柳さんの話を聞くのも大事なんだけどね」


「いえいえ、そこはしっかりとやりますよ。高柳さん、荷物は届いてますね?」


「はい、カウンターの後ろに置いていますよ。台もありますので使ってください」


 葵と一成はカウンターの後ろに移動する。

 そこには「森さと」で扱っている土産物が置いてある。


 そう、日持ちのするものを荷馬車などで事前に送ってきていたのだ。


 そして、設営だ。

 観光案内所の前に台を設置して、商品を並べる。


<アリマー山脈の旅館「森さと」の商品>


 壁には事前に作っておいた紙のPOPを貼る。


 商品を並べると、すぐに通行人が食いついてきた。


 置いてあるのは、見たことのないものばかりだからだ。


「なんだ、このお菓子?」

「これはどういう酒なんだ?」

「ああ、例の変わった宿屋か」


「はーい! 「森さと」で売っているお土産を、この王都でも一部販売しております――って、あんまり宣伝の意味ないですかね、お父さん?」


 すでにかなり人が集まってきている。


「いやいや、何かよくわからないけど集まってるなと遠目に見ている人も多い。しっかり宣伝していこう」


「皆さん、どうぞ見ていってください! ご試食も大歓迎ですよ!」


「森さと」の土産物コーナーにある商品は次々に売れていった。

 その理由の一つは、王都自体がにぎわっているからだろう。

 繁華街で物が売られているのを見れば、みんな興味を持つ。財布の紐もにぎわっているほうがゆるむ。


 購入してくれた客には、

「アリマー山脈の宿、「森さと」をよろしくお願いします!」

 と、しっかりパンフレットも渡していく。


 宿屋は営利団体だから、しっかり宣伝をしなければならない。

 現状、山のあたりに同業他社がいないから、顧客は独占できているが、どうせならもっと布教していきたい。


「うん、順調に売れているようだね」

 一成も、ほっとしているようだ。

「やっぱり、ここの商品は目を引くみたい」


 無事に商品販売の仕事も終わり、葵は観光案内所に引き上げた。

 ちなみに普段は案内所の中でも一部の「森さと」の商品を扱っている。駅前の観光案内所で物産品が売っているようなものだ。


「お疲れ様でした、葵ちゃん」

「いえいえ、高柳さんがここにお店を構えていてくれて助かります!」


「あとは私が営業についての話を高柳さんとするから、葵は街を散策していいよ」

 一成はどうやって「森さと」やアリマー山脈をどう盛り上げるかの話をするらしい。


「はーい! じゃあ、行ってきます!」


 葵は観光案内所を出ると、市場のほうに向かっていった。

 市場には見慣れない野菜や果物がたくさん並んでるからだ。


「何か面白いものがあったら広兼さんに教えよう」

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