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セルフィリア王国最高の宿屋、旅館「森さと」   作者: 森田季節
森のヌシと旅館編

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20話 異世界観光案内所(1)

「よ~し! 休み、満喫するぞ!」


 夜の仕事が一段落し、葵は「う~ん」と腕を伸ばした。


 明日から葵の「森さと」の仕事は数日休みである。しかも、事前に何日か休日を貯めていたのだ。


 なぜか。


「王都に出るの、けっこう時間がかかるんですよね~」


 そう、王都アレンシアまでは片道三日ほどかかってしまう。となると、土日の休みみたいなものでは対応できないのだ。


「休みっていっても、仕事も含んでるんだからね、忘れちゃダメよ」


 母親の息吹が聞いていたらしい。


「はい、王都でしっかり仕事してきます!」


 翌朝。

 葵は父親の一成かずなりとともに、アリマー山脈を出発した。


 一人での旅は両親が認めていない。冒険者に護衛を頼むにも、山のあたりにギルドはないし、通りかかる旅人はすべてを信頼していいかまではわからない。


 以上のようなことを踏まえて、一成と仕事を兼ねての旅ということになった。


「出発してすぐにハイキングというのは大変だね」


「でも、自然は満喫できるからいいですよ」


 ある意味、旅の冒頭からいきなり難所がやってくる。

 王都へと抜ける街道はアリマー山脈の峠を通っている。


 なぜ、そんなところを通っているかといえば、距離的にはかなりのショートカットができるからである。


 山を大きく迂回していくと、大幅に道のりが長くなってしまう。そのため、王国の南北の移動にアリマー山脈を使うことは多い。とくにこのあたりだと王都への最短ルートになる。


 ちょうど時期的に春のはじめである。この頃はそこまで旅館も混まないので、葵も出かけることができる。


「森さと」がすいている時期ということは、人の移動があまりない時期ということだ。

 いろんな貢納物や収穫物を王都へ運ぶ秋頃が一番混む。


 この世界には紅葉を楽しむというような発想はとくにないようだが、結局、秋が混む。


 峠にたどりつくと、二人とも水筒の水を飲む。

 ここで休憩して下山する。

 下山したら、ひたすら平野部を街道沿いに歩けば王都アレンシアにたどりつく。


 途中、宿に泊まる。

 宿のチェックはこれまでも「森さと」はしてきたので、比較的快適なところを選んで泊まっている。


 そして、三日後、アレンシアにやって来た。


 アレンシアは川を一部利用した大きな水堀で周囲を覆った水郷地帯のような都市で、内側の人口は五万ほどだという。

 ある時期から収まりきらずに、外側にも小さな都市ができ、そこも水で覆われている。


「う~ん。やっぱりファンタジー世界ですね!」


 これまで小説で読んできたようなものと大差ない光景がそこには広がっている。


 当然、アリマー山脈とは比べ物にならないほどに人の往来も激しい。


 旅館での生活もそれなりに楽しいが、やはり旅も楽しい。


「さて、じゃあ、葵、先に仕事を済ますとするよ」


「はい!」


 そして、二人が出かけたのが――


 王都の中でも目抜き通りの一角に立つ――


「アリマー山脈観光案内所」


 ――だった。


 ドアを開けて中に入ると、女性職員が客に説明をしていて、その横で男性職員が書類のチェックをしていた。


 中にはアリマー山脈を描いた絵画や、「森さと」のパンフレットなどが貼られている。


「高柳さん、お疲れ様です!」


 元気よく葵があいさつする。


「ああ、お二人とも、ようこそいらっしゃいました!」


 高柳と呼ばれた男性職員があいさつをした。


「なかなかにぎわってますかね?」


 一成もあいさつする。


「はい、社長。王都だけあって、移動する人も多いですからね。旅の情報を求める人はそれなりにいます」


「おかげさまで、「森さと」の利用者増にもつながっていますよ」


「いえ、僕も自分の仕事が異世界で生かせて、うれしいです」


 この高柳という人物、明らかに日本出身だが、実は「森さと」の社員ではなかった。


 実は「森さと」が異世界転移した日、チェックアウトが遅くて残っていた客だった。


 最初は当然、高柳もびっくりしたが、現実をどうにか受け止めることにした。

 幸いというか、彼は31歳で独身だったので、妻子も日本に残していなかった。新天地での生活だと割り切ることができた。


 かといって、「森さと」で働ける自信はなかった。彼は接客業の経験がなかった。


「森さと」のほうではお客様に迷惑をかけたという認識で、こちらで生活してもらってもいいですよということだったが、それはそれで申し訳ないと考えた。


 そこで、高柳は前職を活用することにした。


 彼はとある地方都市の観光課の公務員だった。


 そして、王都に「アリマー山脈観光案内所」を作ったのだった。


 この世界にはテレビもインターネットもない。長旅をする場合、その情報を仕入れるのはかなり難しい。もちろん、旅商人とか慣れている人間もいるが、そういう者だけではない。


 そこで彼が考えたのが、旅の情報を総合的に扱った施設を作ることだった。

 こういう観光情報の提供という概念はほとんどなかったので、これは王国でも唯一無二の存在だった。


 国内の旅を円滑に行うものだということで、現在では王国から費用の一部を助成してもらっている。


 壁には街道沿いにある加盟している宿屋の名前や地図などが書いてある。

 ここに登録されている宿屋は安心・安全だということだ。調査は王国がしている。


 そんなふうに包括的に旅の情報を扱っているが――


「もちろん、「森さと」の宣伝もしっかりしてますからね!」


 テーブルにはたくさん「森さと」のパンフレットが置いてある。

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