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セルフィリア王国最高の宿屋、旅館「森さと」   作者: 森田季節
森のヌシと旅館編

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18話 森のヌシと旅館(3)

 ヌシはまずサラダを口に入れた。


「むっ! このソースは我の森に生えてあるニンニクが入っておるな!」


「そのとおりだ。ほかにも森で見つけたネギの仲間も刻んで入れてある。野菜も大半は森


で手に入れた野草だ」


「普段食べている草なのに、ソースがかかっているだけでこうも食欲をかきたてられるの


か……」


 がつがつとヌシはサラダを食べていく。

 マナー違反という感じではないが、食べ方はお上品な貴婦人というより、牛丼をかっこ


む学生のようだった。

 それだけ、食欲を刺激できているらしい。


「これは早目に次を持ってきたほうがいいな。お嬢、客人のもてなしは頼んだ」


「わかりました!」


 ほとんど時間をおかずに、サラダが空になった。


「いやあ、こんなに野草が美味いとはの。今度、あのドレッシングだけもらえんかの」


 そう言いながらヌシはナプキンで口をふく。


「そうですね、ウサギさんの姿で頼めば広兼さんは絶対すぐにくれると思います!」


 また皿を持って、広兼がやってきた。


「次は少し和風にしてみた。野草のゴマ味噌からしえだ」


「ミソとはなんじゃ?」


「少し珍しい調味料だ。栄養価も高い」


 器に入ってある野草にフォークを突き刺して食べる。


「むむむっ! ぴりりとからい! じゃが、甘さもある! そして野草が美味い!」


 葵はその様子を見ながら、

(広兼さん、食欲をかきたてる料理で攻めてきましたね)

 と思った。


 ニンニクのソースにしてもゴマみそにしても、どんどん口に放り込みたくなるタイプの


味付けだ。

 おそらく味付けもちょっと濃い目に変えてあるんだろう。


(あ~、ごはんほしいなあ……。ごはんの上にゴマみそ和えを載せたら最高においしいん


ですけどね)


 しかし、ヌシには白米をがつがつ食べる習慣がないので、ひたすらゴマみそからし和え


を攻略する。


「さてと、次は上品にいくか。待っててくれ。揚げたてを持ってくる」


 続いて運ばれてきたのは、野草と野菜の天ぷら盛り合わせだった。


「いつもはつゆも用意するが、今日はすべて塩で食べる形にした」


「ほう、フライか。あっ、これはサクサクじゃ!」


 天ぷらはかなりの確率で異世界でも受け入れられる。揚げる食材が特殊でなければだい


たい大丈夫だ。


「普段食べている葉っぱが本当に美味いのじゃ!」


「そのあたりは山菜の一種だな。カラっと揚げるとエグみも抜ける」


「お水、お注ぎしますね」


 コップに水を入れながら、葵はこれは広兼さんの勝ちだなと思った。

 森のヌシも納得できるものを広兼は作れる、そう信じていたからこそ強引にこういう場


をセッティングするようなことを言ったのだが、問題なかったようだ。


 その次に出てきた料理は真っ赤なスープだった。


「うわ、なんじゃ、この深紅の料理は……」


「その感じだとトマトはないんだな。トマトも厨房に補充されてて助かった」


「とまと?」


「そういう野菜だ。トマト・キャベツ・玉ねぎ・セロリをぐつぐつ煮込んでブイヨンなど


で味付けした」


 おなかが自然とあったまるはずだ。


「おぉ、たしかに体の中まであったまるような味じゃな……。まあ、健康はヌシにはあま


り関係ないのじゃがな」


 ふぅ……。

 なんか甘酒を飲んでるおばあちゃんみたいな平和な表情をヌシはしていた。


「さて、そろそろメインディッシュだが、肉はあまり好きではないんだな?」


「好きではないというか、単純に普段は草食ということじゃな。好きこのんで肉を食べた


いという意識はない」


「わかった。肉を使わずに満足させてやる」


 広兼はそう言うとまた厨房に戻っていった。


「肉を使わずに満足させるってあの男はどうするつもりじゃ?」


 森のヌシの耳がぴくぴくっと動く。


「野菜の大盛りでも持ってくるつもりなのか?」


「さあ、広兼さんのプライド的にそれはないんじゃないですかね。ところで、ヌシさんは


今のところ、満足されてますか?」


 楽しそうに葵が尋ねる。


「そうじゃの……悪くはないの……まさかこんなに近所にいい料理人がおるとは思わんか


ったわ」


 森のヌシ自身が、このあたりは純然たる田舎だと思っていた。

 そうであることを恥じたことなど当然森の精霊にはないが、都会風なものを見て衝撃を


受けてはいる。


「しかし、そもそもおぬしらは何者なのじゃ。この国の連中とは根本的に違うところが多


すぎる」


「ちょっと遠いところから来たんです」


 ほどほどに葵はぼかした。異世界から来たというだけで迫害されることは、現状あまり


ないと思っているが、積極的に伝える情報でもない。


 そして、いよいよメインディッシュを広兼が持ってきた。


「さあ、森のヌシ殿、これがあんたのために作った特製の一品だ」


「むっ、これは肉料理ではないのか……?」


 それはいわゆるハンバーグだった。

 じゅうじゅうといい音と湯気を立てている。


「たしか、楕円焼きとかいう肉料理だったはずじゃが……」


「あ~、そうか、ハンバーグってハンブルグって地名由来の名前だから、料理名が違うん


ですね」


 そういうところは異世界って律儀だなと葵は感心していた。


「ううむ、最後は肉料理なのじゃな。まあ、食えないわけではないし、いただくとするが


……」


 その反応から見ると、やはりあまり肉は好きではないようだ。


「いいや、それは肉類は牛も豚も一切使ってない。植物性のものだけだ」


 広兼はそう言い切った。

 葵は、それでその料理の正体がわかった。


「そうか! これは豆腐ハンバーグですね!」


「お嬢、ご明察だ」


 広兼が鷹揚にうなずく。


「とうふはんばあぐ? なんじゃ、それは……?」


「豆から作った食品を主原料にしている。肉はどこにもないが、肉に近い食感になるよう


に作っている。森の精霊から見てもなんら忌避する様子はない」


「まあ、ウソではないようじゃし、いただくとするかの」


 半信半疑でヌシはフォークとナイフで、豆腐ハンバーグを切り分ける。


 そして、口に入れて――


 大きく目を見開いた。


「おお! なんと贅沢な味じゃっっっ!」


5月25日にダッシュエックス文庫で発売された『異世界作家生活』の連載を昨日夜より開始いたしました!(もろもろ許可済です) こちらもよろしくお願いいたします!

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