13話 冒険者パーティー、旅館に泊まる(2)
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大浴場に来た男のパーティーは一様に驚いた。
「すげえ……石鹸がこんなにあるぞ……」
「本当に高級な宿屋なんですね」
対立していた戦士グロスと治癒師とマーセルが石鹸をのぞきこんで言った。
「な、なんだよ、話に乗ってくるなよ……」
「今のは偶然です!」
まだ、お互いに納得できない部分があるので、また二人は顔を背けた。
ただ、その様子を見ていたレントはちょっとおかしくなって、笑ってしまった。
あの調子だと、どこかで和解の糸口を二人とも探そうとしてるな。
リーダーとして直感的に感じた。このパーティーになってから、もう二年も経っているのだから。
これまでケンカすることも当然あった。
だけど、このパーティーで旅をするのがやっぱり一番いいとみんな、心の中では思っているのだ。
脱退の話も解散の話も出たことはなかった。
何かきっかけがあれば無事にまた元の関係に戻れるだろう。
問題はきっかけを何にするかだ。
――と、グロスがレントのほうをじっと見ていた。
それも下半身を。
「レント、お前、やけにちっちゃいな……」
「変なこと言うなよ!」
一方、治癒師マーセルは自分のスペースに座って、お湯を出して体をタオルで洗っていた。
「そういえば、大浴場のある街なんて久しく行ってないですからね。こうやって一緒に入るのも珍しいですね」
それにレントがうなずく。
「ああ、けっこう長い間、王都に戻ってもないからな。平和なのはいいけど、冒険者としては多少はモンスターが暴れてくれないとお金にならない」
王都アレンシアの近辺は王国の軍隊もそれなりに強い者が配置されていることもあり、モンスター対策にあまり冒険者を使わなくていいのだ。
地下の遺跡みたいなダンジョンぐらいはあるのだが、なにせ都は人口密度が濃い。
ということは冒険者も多いから、結果的に稼ぐのも楽ではない。
とくにパーティーともなると、人数が多いだけそれなりのお金が必要だから、どうしても遠征が多くなるのだった。
「しかし、こんなに潤沢にお湯があるってことはアリマー山脈は温泉が湧くんですかね。そんな話聞いたことなかったですけど」
マーセルは不思議そうに思いながらお湯を使っている。
「魔法使いが温めてるって可能性もあるだろ。俺はこの地方にも何度も来たことがあるが、温泉の「お」の字も知らねえ」
無意識なのか意識的なのか、戦士グロスが治癒師マーセルに返事をした。
「……まぁ、そうなんですかね」
ただ、この話はあっさりと終わってしまった。話題として続きにくいものだったかもしれない。
リーダーのレントはちょっともったいなかったなと思った。
体と頭を洗ったあとは、湯船につかった。
「いや~、やっぱり風呂はいいな!」
レントはつかるなり、声が出た。
「ああ、まったくだぜ。かなり泥だらけになってたしな……」
冒険者は土や枯れ草やらと友達になるような仕事だ。だからこそ、たまには入るこういうお風呂は最高の楽しみの一つだった。
この世界ではどちらかというと、サウナ的な蒸し風呂のほうが一般的だが、やはり砂埃や土とおさらばするには湯船につかる風呂のほうがありがたい。
「毎日、冒険のあとにこんなお湯につかれたら最高なんですけどね」
マーセルも肩までどっぷりとつかっている。
治癒師の知識として、温浴は体の自然治癒力を高めるということは知っていた。
まして、それが温泉ならさらに効果があるという。実際、節々の痛みなどの慢性的な症状を治すための湯治場が他国にあるという話も聞いている。
だからといって、そんな便利な場所はそうそうない。井戸水を頭からかぶって、日々を送らないといけない者のほうが多いぐらいだし、冒険者の場合はその水だって飲料用にまわさないといけないようなところに行くことが多い。
一行はそのあと露天風呂も楽しむことにした。
ちょうど先客もなく、彼ら三人の独占する形になった。
――と、高い竹垣の向こうから、レアナの声がした。
「ふ~、生き返るわ~! こんな宿屋、生まれて初めて!」
グロスがその声を聞いて、ごくりと生唾を飲んだ。
それから、小声でこう言った。
「なあ、この垣根、上からまわりこめないか?」
つまり、のぞこうということだ。
「あのなあ、グロス……。なんで自分のパーティーをのぞかないといけないんだ……」
リーダーのレントはあきれた。
これではマーセルもまたグロスを非難するだろう……。
だが――
「フライトの魔法であれば使えなくもないです」
なんと、マーセルはそこそこ乗り気だった。
フライトは主に魔法使いが覚える魔法なのだが、窮地を脱出するのに便利だと考えて、マーセルは以前に習得していたのだ。
「そうか、フライトを俺にかけてくれ」
グロスはマーセルとの微妙な関係も忘れて、言った。
「ですが、フライトはかけられ慣れてない者は飛びすぎてしまったり、周囲のものにぶつかったりと調整が難しいんです。そして、あなたがばれてしまえばフライトを使える僕が共犯者だと自動的にばれることになります」
「わかった。じゃあ、この宿でお前が飲む酒代は全部出してやる」
「……いいでしょう」
リーダーはこのやりとりを見て困惑していた。
ケンカしていた二人が協力をしようというのだから、悪いことではない。
しかし、内容に問題がありすぎる。
ここで止めないと、ばれた場合、レアナから何を言われるかわからない。
しかし、上手くいけばグロスとマーセルの仲を改善できるかもしれない。
なにせ、ケンカしていた二人の共同作業なのだ。
地味に究極の選択だった。
そして、レントが出した結論は――
「ばれなければすべて丸く収まる」
というものだった。
「さすがリーダーだぜ。わかってるじゃねえか」
「ただし、ばれた場合の責任を俺もとらされるのは勘弁だ。だから、もしばれた場合は俺が知らない間に二人で勝手にやったことという扱いにするぞ」
「ああ、それでいい。さあ、マーセル、フライトをかけろ」
「わかりました……」
そして、マーセルはフライトをかけた。
ふわぁっとグロスの体が浮き上がっていく。
これは上手くいきそうに思えた。
だが――
ガツッ!
「いてぇっ!」
竹垣が途切れるあたりの高さでグロスは何かに当たって、落ちてきた。頭を押さえている。
「ど、どうやらインヴィジブル・シールドの魔法がかかっているみたいですね……」
「森さと」の日本時代なら不要だったのだが、この世界には魔法という概念があるので、こういう魔法を対策でかけているのだ。魔法使いが宿泊した時にかけてもらった。
「くそっ……。ちゃんと宿もわかってるんだな……。ていうか、マーセル、お前、こういうことがあるかもって思ったから、先に俺に行かせたんじゃねえのか? でなきゃ、お前が先にいい思いしようとするだろ!」
マーセルはぎくっという顔をした。
「そ、そんなことはないです……。ところで、今日、酒代を出してくれるという話は……」
「ふざけんな! やっぱりお前は姑息だ!」
仲直り作戦はふりだしに戻ることになった。
「な~んか、そっちが騒がしいけど、何かあったの?」
レアナが聞いてきた。
「なんでもない!」
レントとしてはそう答えるしかなかった。
そういえば、女湯のぞいたことないです。当たり前か。
次回は昼ごろの更新予定です。




