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セルフィリア王国最高の宿屋、旅館「森さと」   作者: 森田季節
土産物コーナー編

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11話 「森さと」の土産物コーナー

日間6位ありがとうございます! うれしいので今日もう一回更新します!

「森さと」本館一階には土産物を扱うコーナーがある。


 この土産物もなぜか自動的に補充されるので、半永久的に売ることができた。


 土産物コーナーが一番にぎわうのは、朝のチェックアウト前だ。

 この時間にまさに旅の土産になるようなものを購入するのだ。


 とくに「森さと」で売っている商品は、まさに別世界のものかというほどに特殊なので、商品を観察するだけでも面白いと好評だ。


 今日も泊まっていた旅人の男が何かないかなと土産物コーナーを物色していた。


「いらっしゃいませ! ここには変わったものもたくさんありますので、もしわからないものがあったらお気軽に質問してくださいね!」


 朝の時間、葵は土産物コーナーの接客を行うことが多い。

 異世界のことに詳しくないと説明が難しい部分もあるからだ。


 男の視線が奥のコーナーで止まっていた。


「あの、これは何なんだい……? 魔法使いが使うマジックアイテム?」


「それは、こけしですね。部屋に飾る人形です」


「そ、そうなんだ……。無表情だから、呪いのアイテムかと思った……。でも、友達の魔法使いが何かに使えるかもしれないから買っておこうかな」


「お買い上げありがとうとございます!」


「この怪しい異形の仮面は呪いのアイテムなの?」

「それは狐さんのお面ですね。魔法の効果はないですよ。ちなみに、そっちの鬼みたいなのは般若ですね」

「ハンニャ? 聞いたことないモンスターだな……」

「モンスターというか精霊ですかね」

「なるほど、恐ろしい精霊もいるものだな……」


 次に男の目は行ったのは温泉の絵が描かれた箱だった。


「これはいったい何なの?」

「それは温泉の素ですね。お風呂に入れてかき混ぜると、温泉の雰囲気が楽しめます!」

「へえ。せっかくだし、一つ買おうかな」

「お買い上げありがとうございます!」


 王国ではほぼ流通していない珍しい商品が多いので、意外と売れるのだ。


「この細い棒は何かな?」

「それは孫の手ですね。ほら、こうやって」

 葵が自分の背中で実演してみる。

「背中の、かゆくてかけないところをかくんです」


「だから、孫の手なのか。話のタネに買おうか」


 この旅人は割と財布のひもがゆるいタイプだった。

 とはいえ、財布のひもがゆるむのも「森さと」の接客の賜物ではある。

 こんなひどい宿、二度と泊まるかと思ったら、土産物など絶対に買おうとしないだろう。

 いい気持ちになった宿には自然とお金を落としたくなるものなのだ。


 次に旅人は食品コーナーに移った。


「このあたりは漬物を扱ってるコーナーですね」

「漬物か。俺もキャベツはよく食べるな。あれは炒め物にしてもおいしいし」


 一つ、試食コーナーから紫色のものを食べる。


「なんだ、これ! 俺の知ってる漬物とはまったく違う酸っぱさだ!」


 それはこの国で作られているキャベツの漬物が乳酸発酵させたもので、シソ漬けとはまた違うからだった。

 ぽりぽりと食べてみると、徐々にその味にも慣れてきて、酒のつまみにもなかなかいけそうだった。


「よし、これも買おう。友達に渡せば、話も盛り上がるだろう」


 さらに今度は黄色い漬物に移る。


「これはまた独特の香りがあるな……」


 それはタクアンだった。日本人はよく知ったものだから気にならないが、においに慣れてない人間がかぐとなかなかインパクトがあるらしい。


「ここで売ってるタクアンはしっかり日干ししてますから、こりこり感が強いですよ」


「たしかになかなか歯ごたえがあるな。しかし見たことないものばかり売ってるな。本当に面白い宿だ」


「リンゴの漬物もあって、驚かれますね~」


「本当か! あのリンゴもか!」


「こちらです」


 さっと、葵が試食用のリンゴの漬物を出す。


「おっ、甘酸っぱい味がして、これはいいな! よし、買おう!」


 漬物はほかにはない商品だということで、土産物の中でも売れ行き商品となっている。


 さらに男はお菓子コーナーに向かう。


「しかし、本当にお菓子が多いな……。王都の専門店でもこんなには揃ってないぞ……」


 旅館や温泉地の土産物店ではお菓子コーナーが主力だ。老若男女が購入するからだ。


「森さと」でも洋菓子系、おかき系、饅頭などの和菓子系、さらに地元の名産だった塩大福、ぷるぷるとした食感の水饅頭などがずらりと並んでいる。


「どうぞ、どうぞ、試食していってくださいね!」

 さっと試食用の皿を出す葵。


「うん! やはり「森さと」のお菓子はおいしいな!」


 それは土産物店によくあるチーズケーキタイプのお菓子なのだが、甘いものがそこまで発達してない異世界では相当に喜ばれた。


 また、「温泉に入ってきました」という名前のチョコレートクッキーも評価が高い。

 以前には10箱買っていった客もいた。お菓子類は軽いし、持ち帰りも比較的楽というのもあるだろう。


 さらに、中身が黒くて見た目は気味悪がられるが、餡の入った餅も試食を経たあとは評価が高い。


「この、よもぎ草餅というのは旅の疲れを癒してくれるし、昼に個人的に食べよう。少し苦いのがくどくなくていい」


「本当にありがとうございます!」


 あと、少し重いので購入を諦める者も多いのだが――


「このニホンシュも一瓶持って帰ろう! やはり土産にアルコールは喜ばれるからな!」


 ほかの場所ではまったく売っていない珍しい酒類を買う者も多い。


 こうやって、いろんなものが売れていくのだが、実は隠れた一番の売れ行き商品があるのだ。


 それは、ずばり本である。


 その旅人もついつい目を奪われていた。


「なんて美しい本なんだ……」


 それは「森さと」がもともとあった温泉地の近くの山や森を写した写真集だった。


 この世界には写真なんてものはないから、写真集は美麗なイラストを並べたものという扱いになる。


「これは素晴らしい! きっと妻も喜ぶだろう! 配る分も含めて3冊買おう!」


「ありがとうございます!!!」


 こうして、日本ではほぼありえない同じ本の三冊買いなども起こるのだ。


「森さと」の土産物コーナーは今日もなかなかの利益をあげた。


 そのあと、葵は父親の一成かずなりに褒められた。


「葵、お前、お土産を売るの、得意だな」


「へへ~、それほどでもないですよ~」


 土産物を選んだり、買ったりするのも、また旅の楽しみなのだ。

「森さと」はアリマー山脈にある数少ない土産物を買える場所だった。


次回は月曜昼ごろの更新予定です。

冒険者のパーティーが「森さと」にやってきます。

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