リースVSツルギその1
『続きまして、ツルギ選手の入場です!』
歓声とともに、私に続いてツルギが入場してくる。
その表情はニコニコとしている。
「随分ご機嫌だな、ツルギ」
「あぁ……リース……君に謝らないといけないな」
「何がだ?」
「昨日のボレアスさんとの試合についてだよ。僕は確かに2人の戦いの全てを認識してた。リースの言う通りだ」
今更何だ?
お前が何か隠してる事くらいこっちは分かってる。
「気づいてたのはボレアスだ。私はいっぱいいっぱいだったし。それで?何で今なんだ?」
「ふふ……もう抑えるのも限界だからね…」
「抑える?」
「……僕の中には昔から、僕じゃない何かがいたんだ。それは血を欲する破壊の化身。君も一回見ただろう?」
「キマイラの時か」
確かにあの時のツルギは異常だった。
まるで獣のような動きだった。
「でもあれはキマイラの咆哮で……」
「いや、あれは昔から僕の中に確かにあったものだ。キマイラはちょっとした引き金にすぎない」
「あれからはきちんと制御しているじゃないか」
あの時の妙なツルギ。
目の色が変わり、角が不穏なオーラに包まれているツルギ。
この2年間、強敵と戦う時にその姿に変わる事は何度もあった。
きちんと制御出来ているようだったから深くは聞かなかったが。
「いや、それももう限界だ」
「限界?」
「僕の中の『鬼』は破壊を求めてる。もう僕の理性では抑えきれない。いや……抑える事をしない」
ツルギがニタリと笑う。
いつものツルギならしない笑い方だ。
背中に何か寒いものを感じる。
「しない?」
「ああ。これは最早僕の中の『鬼』だけの欲求じゃない。僕自身の欲求なんだ」
「話が見えないぞ」
「不幸な死に方って何だと思う?」
「おい、私の話聞いてんのか?」
「僕はね。自分の欲求を満たせないまま終わるのが不幸だと思うんだ。当たり前だよね。不満足のまま死ぬんだもん」
「おい、いい加減怒るぞ」
「あぁ……リース……その表情、ゾクゾクする……」
ツルギが今度は恍惚とした笑みを浮かべる。
私は背筋に寒いものを感じた。
こいつは、こんなにコロコロと表情を変える奴じゃない。
気味が悪い。
「お前、本当にツルギか?」
「ああ。確かにツルギだ。何を言ってるの?」
ツルギはケタケタと笑う。
「僕はね。この力を使って思う存分戦ってみたいんだ。自分の力を知りたい。でもそんな事出来ない。何故だと思う?本気で戦える相手がいないからだ。生物は脆い。すぐに壊れちゃうからね」
段々とツルギのタガが外れてきたのが分かる。
私は思わず後ずさりをする。
「でも昨日の試合を見て確信した。君なら……僕と同じアビリティ所持者の君なら壊れない。僕は本気で戦える!」
「やっぱりお前もか……」
「ああ!これがアビリティだって自覚したのは昨日だけどね!」
ツルギは手を広げてそう言う。
おそらく、歓声でその声は観客席まで届く事はない。
だが仲間たちはこのツルギの姿を見て少し不安に思っているのではないだろうか?
「おいツルギ、お前……」
「昨日からドキドキしっぱなしだよ!こんな気持ちは初めてだ!さぁやろう、リース!僕と!本気で!命をかけて!」
「落ち着けよ……!」
「落ち着いてるよ?」
ツルギはそれまでの高揚ぶりがまるで嘘かのように静かにそう答えた。
「言ってるじゃないか。僕はただ全力で戦いたいだけなんだって。確かに高揚感を感じているのは確かだけど脳内はクリアだ」
「……」
ツルギは私をじっと見つめる。
その目はギラギラと輝いている。
だがその奥にも知性は感じられる。
「もうお前が分からねぇよ……」
「そうだね。僕も昨日から僕が分からない。でも今、僕が欲しているものは分かる」
『それでは、ゾディアス闘技大会2回戦第1試合を執り行います!どちらも若いながらも優勝候補を下してきた実力派。一体どうなるか想像がつきません!』
試合の開始が迫る。
はぁ……
シンプルに考えてみよう。
「つまりあれだ。お前をぶちのめせばいいわけだ」
「そうさ。全力でやりあおう。お互いの生を感じ合おうよ」
「私はそういう趣味はねぇ。これが終わったらきちんと説明してもらうぞ」
『それでは試合……開始です!』




