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外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
第四章 北方編
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戦いの先に

「そういえばさ、ゴッチさん」

「ん?なんじゃ?」

「『空間魔法』ってのを知らないか?聞いたことあるとかでもいいんだ」

「うーむ……その『空間魔法』とやらかは分からんが……」

「が?」

「人族の勇者に妙な魔法を使う者がおったのぅ」

「妙な魔法?」

「ああ。奴の周囲に妙な膜のようなものが張られての。その中の物はそやつの思い通りに動かされてしまうんじゃ」

「つまり?」

「例えばその辺に落ちておる石。これがひとりでに動き出したり……あ、それとその魔法の使用中はどんな死角からの攻撃も効かんかったのぅ」

「ほうほう」

「それがどうしたんじゃ?」

「いや、聞いてみただけだ」



--------------------



「いっつ……」

「ほう……心臓を狙ったんだがな」


 左脇腹を男の剣が貫通している。

 私はすぐに男を蹴り飛ばした。

 男は剣を手放し体勢を整える。


「チッ!」


 この身体になってから、なまじ痛覚が遮断できてしまうので、こういった強い痛みへの慣れが無くなってきたな……

 剣を抜いて左脇腹に魔力を循環させる。

 なんとか血は止まったが、まだジンジンする。


「次はどうだ!?」


 男が走り込んで来る男が聞こえた。

 だが男の動きは完全に捉えている。


「たぁっ!」

「お?」


 私は男の剣を弾いた。

 見えないがそのはずだ。


「見えてないんじゃ……ねぇのかよ!」

「はぁ!」


 次は男の剣を躱した後、逆に男に反撃を加える。

 まだ感覚が掴めきっていないので、避けられたようだ。


 今私は視力を奪われている。

 だが、自らの周囲に空間魔法を展開することでそれを補っている。


 空間魔法の範囲内の物の動きは手に取るように感じることが出来る。

 これなら目が見えなくても問題ない。


 だがこれだけじゃない。


 私は空間魔法の範囲内に落ちていた石に意識を集中させた。

 するとその石がスーッと宙に浮く。


「そこだ!」

「んお!?」


 あとはそれを男に向かって水平に撃ち出せばいいだけだ。

 男は範囲外だったが、音で方向くらいなら分かる。

 命中したかどうかは分からないが……多分してないな。


 このどちらも、ゴッチ老との会話から着想を得たものである。

 空間魔法は思ったより万能だ。

 今回生み出した、自分を球状に包む結界……名付けて『絶対領域』内の物の動きは全て手に取るように分かるし、物もある程度の重さのものなら浮かせる事が出来る。

 欠点は、魔力消費といったところか……

 今もかなりギリギリだ。


 だがぶっつけ本番で上手くいくとは思わなかったなぁ。


 と、そうしていると視力が戻ってきた。

 絶対領域は解除。

 魔力が保たない。


「まさか……その光……アビリティか?」

「あ?アビリティ?」


 何かアビリティがどうのこうのって、ミラも言ってたな……

 あれ、何か私の身体光ってる!?

 白銀の光が私の身体から発せられている!


 これは、母さんとの決闘の時と同じ……?

 あ、消えた。


「芽は今のうちに……摘み取っとかなきゃなぁ!」


 男は服の下からナイフを取り出し投擲した。

 私はそれを避ける。

 これは目くらましだ。


「そこだ!」

「チッ!」


 私は左の見えない剣で斬りつけようとした男に逆に攻撃を加える。

 少し攻撃が荒かったな。

 男に動揺が見える。

 今がチャンスだ!


「『土弾』!」

「くそっ!」


 『土弾』が男を吹き飛ばす。

 今回は近過ぎたせいで、あの黄色の籠手を使う暇も無かったようだ。


「こうなりゃ……清き光に浄化されよ『光弾』!」


 男の右手から光の弾が発せられる。

 聖神教の関係者がよく使う光属性初級魔法だ。

 他の属性より習得が難しいはずで、ここまで詠唱が短いのは初めてだ。


 『光弾』は目にも止まらぬスピードで私に迫る。


「リースさん、危ない!」


 だがそれは、横から入り込んできた『水弾』に迎撃された。


「ジーナ!」

「遅いからどうしたんでしょうと思ったら、あの火が……!」

「助かる!」


 私を心配して見に来たら、家が燃える火を見つけて駆けつけてきてくらたらしい。

 今のは少し危なかった。


「新手か……!」

「もう1人いるよ」

「何!?」


 目にも止まらぬスピードで現れたツルギが男を背後から組み伏す。

 今はキマイラを初めて倒した時のように、頭の角が光を放ち、目もおどろおどろしく変化している。


「鬼人族!?しかも『羅刹』を!?」

「黙って下さい」


 ツルギはあの一件以降、自由にこの状態になれるようになっていた。


「形勢逆転だな…」

「はぁ……ドジ踏んじまった……」

「次勝手に喋ったら首を落とします」


 この時のツルギは身体能力が大幅に上昇する上、性格が冷酷になる。

 今の彼が首を落とすと言ったら確実に落とす。


「と言っても喋る事はない。ツルギ、やれ」

「分かった」

「……はぁ」


 その時、男の身体が爆発した。

 爆発の規模は大したものではないが、上に乗っていたツルギを不意打ちで吹き飛ばすには十分だった。


「何!?」

「いってぇなっ……だが、逃げさせてもら……」

「逃がさねぇよ」


 私は閃光魔法を発動させようとした男の左腕を斬り飛ばす。


「ぐっ……」

「そらよ!」


 私は男を蹴り倒し、馬乗りになった。

 そしてその首筋に剣を当てる。


「お前……ただもんじゃねぇな……見た目はガキだが……場数踏んでやがるな……」

「まあな。あと、お前みたいな目の奴は知ってる」


 お前みたいな、諦めの悪そうな目をした奴の考えそうな事は、嫌という程知ってる。

 身体に爆発する魔法陣を仕込むくらいしてると予想していた。

 案の定その通りだったわけだ。


「何か言うことは?」

「……ねぇよ。やれ」

「……お前は他の聖神教の奴らとは違うんだな」

「は?何がだ?」

「あいつらはいつも死ぬ時『おお神よ……』とか言う」


 私が前世も含めて殺してきた聖神教関係者は全員そう言って死んでいる。

 どいつもこいつも教義のためなら喜んで人を殺す狂信者みたいな奴らだ。

 こいつも似たタイプだと思ってた。


「……言ったろ?俺は破戒司教オズワルド。はみ出しもんさ。だから神さんに会わせる顔がねぇんだよ。やれ」

「……そうか」


 私は望み通り、その首を斬り落とした。

 破戒司教オズワルドと名乗ったその男の最期の表情は、濁りのない笑顔だった。

 私はその死体に『灼火』を放ち、一瞬で灰に変えた。

 灰は風ですぐに飛ばされてしまった。



--------------------



 ジーナに頼んで、家の火を水で消してもらう。

 時間が経ちすぎていたため、家は今にも崩れ落ちそうだったが、中で老人の亡骸を発見した。

 心臓を一突きされたのが致命傷のようだ。

 争った形跡は無かった。


 私は老人のあの目を思い出した。

 あの目は未来を見ていなかった。

 こうなる事を予知、または覚悟していたのかもしれない。


 私達は老人の遺体を家の近くの木の下に埋め、墓を作った。

 たった1週間の付き合いだったが、ジーナは泣き崩れ、ツルギも手を震わせている。


 私はどうだろう?

 悲しみよりも自らの無力感の方が強い。

 まだ私は守れないのか。

 あの頃と違うのに。

 剣術も磨き、魔法も覚えた。

 だがまだ足りない。

 右手をふと見てみると、握りしめすぎたのか血が滲んでいた。


 そうして私達は、煉獄山をあとにした。

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