破戒司教
目に飛び込んできたのは、業火。
家が業火に包まれている。
あの時と同じだ。
唯一違うのは、それは自分の家ではなく、ゴッチ老の家だという点だ。
「な……なんだこれ……」
金を取りにゴッチ老の家に戻ってきてみればこれだ。
何が起こっている……?
「おやぁ?あの男に孫娘がいたなんて情報は無かったんだがなぁ」
ゴッチ老の家の前に男がいた。
髪もボサボサで、無精ひげが生えている。
だがその服に描かれている紋章、それは忘れようもない。
聖神教のエンブレムだ。
「っつ……!」
あの時の光景がフラッシュバックする。
あの性悪司教の顔が浮かぶ。
「てめぇ……何してやがる……?」
「随分お口の悪い嬢ちゃんだなぁ。そりゃあお仕事中だ」
男は燃える家を指さす。
「神に背く神敵を始末したんだ」
「てめぇ……まさかゴッチさんを……!」
「ああ。そいつだ」
「………っ!」
その時、頭の中でブチンという音が鳴った。
身体が勝手に動き、魔銃を引き抜いた。
「ぶっ殺してやる!!」
オレが!!
ぶっ殺して!!
八つ裂きにしてやる!!
「俺に敵対すんの?じゃあお前も神敵だ」
パァン!パァン!パァン!
「うわ、物騒なもん持ってんじゃないの」
男は放たれた3発の魔弾を事もなげに避ける。
「さっさと、死んで、くたばりやがれ!!」
『火弾』を連発する。
今度は男は避けようともせずに左手をかざした。
「舐めんでもらえる?俺も一応巷じゃ『破戒司教』って恐れられてるんだ。まぁほとんど侮蔑の言葉だけど」
「知るか!死ね!『灼火』!」
「無駄だって」
初級火属性魔法の『火弾』はおろか、中級魔法の『灼火』ですら、その左手に触れた瞬間掻き消えた。
左手の黄色の籠手に何か細工があるようだ。
「ッチ!!」
埒があかない。
オレは剣を抜き、男に斬り込む。
見たところ、相手は人族。
魔族であるオレが身体能力で劣るはずがない。
「死ね!!」
「だぁから……」
その時、脇腹に痛みが走った。
「舐めんなよって」
こいつ、いつの間に剣を?
というか、今斬ったか!?
何だ、この速さは?
「っく!」
「おらよ!」
オレは剣を盾にして男の蹴りを受け止めた。
重い。
耐えきれずオレは吹き飛ばされてしまった。
この男……強い!
「えっと……神の名に則り……なんて言うんだっけな。さっきジジイを殺す時も言ったはずなんだが」
「てめぇ……」
ダメだ。
落ち着かないと。
倒せるものも倒せない。
「……ふぅーーー」
深呼吸をして脳に酸素を行きわたらせる。
よし、落ち着いた。
目の前の男、人族にしては随分強い。
何か妙な術でも使ってるのかもしれない。
「お、来ないのかい?」
「うるせぇ!」
ここは敵の観察が必要だ。
考えなしに突っ込むのはダメだ。
落ち着け私。
「来ないのならこっちからいくぜぇ?」
そして今度は男の方から仕掛けてきた。
右手の剣の動きに注目する。
なんだ、全然速くないじゃ……
「痛っ……」
頬を浅く斬りつけられた。
は?
今右手は何も……
「浅かったかぁ」
男は追撃を仕掛けてくる。
私は思考を加速させてその動きを注意深く観察する。
今のところとらえきれない動きではないし、おかしいところも……
「っ!?」
「あらぁ。もう看破されちゃった?」
違和感を感じて後ろに飛ぶと、髪を何かが掠めた。
髪の先が切られ、はらはらと落ちた。
「何だそれは……!」
「そうだなぁ……見えない剣って感じだ」
よく見ると、男の左手に何かが握られていた。
空間も少し違和感を感じる。
右手に注意がいきすぎて、左手の違和感に全く気づくことが出来なかった。
おそらく敵の動きによって右手に注意を逸らされていたのだ。
そりゃあ剣を持っている方を見るに決まっている。
だが……
「分かっちまえばこっちのもんだ……!」
再び斬りかかってきた男の見えない剣を避ける。
見えないからといって避けられないものではない。
さっき髪の先を切られたことで、間合いも分かった。
もう左手の攻撃をくらうことは無い。
私は左手の魔銃の引き金を引く。
「ちっ……相手も舐めちゃいけねぇな」
だがそれを男は間一髪で回避する。
攻撃のからくりは分かったが、それでも男の動きは速い。
この距離の魔弾を避けられるとか……!
「はぁ面倒だなぁ。でも魔族なら殺さなきゃなんねぇしな……」
「……貴様、魔族だからゴッチさんを殺したってのか……」
聖神教は魔族を過剰に敵視している。
魔族と戦争をする人族陣営というのはほぼ聖神教が絡んでいる。
過激な信徒は魔族を差別し、殺そうとする者もいるらしい。
「お前、知らないのか?あの男は人魔大戦において、人族側に甚大な被害を与えた人殺しなんだぜ?この山に潜伏しているという情報があったから、俺が派遣されたってわけだ」
「人魔大戦?戦争で人を殺した罪を問うなんて滅茶苦茶じゃ……」
「お前の意見なんて関係ないんだわ。神敵だし。もう殺して家も燃やしたし」
「チッ!」
いちいち癪にさわるやつだ……
「ぶっ殺してやるよ……」
「俺も本気を出そう」
そして男が右手の剣を振り上げる。
何度も食らう訳がない。
そっちはフェイク。
本命は左だ!
「……ふっ」
「……?」
その時、男の左手の籠手から光が発せられ、視界が光に包まれた。
まずい!
「だよなぁ。そっちに気が行っちまうよなぁ。見ちまうよなぁ」
「くっそ……」
目をやられた!
まずい!
「じゃあな」
その時、痛覚制御でも抑えきれない痛みが左脇腹を襲った。




