ゴッチ老
そして1週間が経った。
私達はまだゴッチ老の家で厄介になっていた。
もう体調はすっかり戻っているのだが。
ゴッチ老は母さんと戦った事があると言っていたように、元軍人だ。
その身体は年老いたといえども、筋肉質でかなりゴツイ。
その軍人としての長年の経験や知識をもとに、色々とアドバイスをもらっていたら思ったよりも長居をしてしまっていた。
もちろん私達も、食材の調達とか手伝えることを手伝っている。
特によく教えてもらっているのはジーナだ。
「こう……ですか?」
「うむ。ジーニスタ、お主は筋が良い」
ジーナはゴッチ老から料理を教えてもらっているのだ。
ゴツイ爺さんに料理を教えてもらう少女というのも、画的にシュールだ。
え?
私?
私は何も。
そういうのはジーナ担当ですから。
基本的に料理はジーナの担当だ。
いつもジーナが進んで料理を作ってくれる。
ゴッチ老の美味い料理を食えるようになるのは嬉しい事だ。
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「なんでゴッチさんはこんなところに?」
ある日、私はゴッチさんにそう聞いてみた。
ジーナとツルギのいない、二人きりの時だ。
「こんなところとは……良いところではないか」
まあ確かに良いところである。
花々が咲き乱れ、山の幸も豊富。
動物も多い。
そして魔物が出ない。
これで氷帝竜がでなけりゃ最高なんだがな。
「あんた、話聞いてる限り、魔帝国軍でもかなり高い地位にいたんだろ?」
「……関係ない」
「家族とかは……」
「……」
あ。
これはダメなやつだ。
地雷踏んじゃったか。
「ご、ごめんなさ……」
「儂はの……嫌になったんじゃ……」
「ん……?」
「復讐の連鎖ってやつがの」
復讐の連鎖……?
その時のゴッチ老の目は、どこか遠くを見つめていた。
それは距離の隔たった場所を見ている目ではなかった。
過去を見る目だ。
「ゴッチさん……?」
「……お主ら、明日にはここを発て」
「明日……?」
「ああ……すまん……」
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「お世話になりました」
「ご恩は忘れません」
「……世話になった」
「うむ……達者でな」
次の日、私達はゴッチ老の家を発った。
ゴッチ老の家から煉獄山を南東へ下っていく。
「それにしても急でしたね、リースさん」
「そうだね。どうしたんだい?」
「……まあ色々あってな」
ゴッチ老が急に出発しろと言ったのは、多分昨日の会話が原因だろうなぁ。
家族については触れるべきではなかったか。
だがゴッチ老には感謝している。
ジーナに料理とかを教えてくれたし、私達の戦い方にも意見をくれた。
それに食料もたくさん持たせてくれた。
別に嫌われたとかではないと思うんだが。
軽率に喋ってはいけないな。
「あ、ヤバい。金入った袋忘れた!」
「え!?早く取りに行った方が!?」
「幸いまだ距離がそう開いていないからね。僕たちは待っていてあげるから取ってくるといいよ」
まずい。
リスクを分散させるために、金をいくつかに分けて持っていたのが裏目に出た。
私の所持金の4分の1は入ってるから、気づいた以上無視は出来ない。
「ごめんな!2人とも!」
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リーシア達3人には悪いことをしたのぅ。
あんな風にここを発つように言ったから、妙な誤解を招いてしまったかもしれない。
だが時間がないのも事実じゃ。
儂の『未来予知』のアビリティによれば、もう来るはずじゃ。
思えば儂の人生とはなんじゃったんじゃろう。
家族を失い、これ以上身近な者を失うまいと煉獄山にまで逃れてきて早30年……
儂の最後の仕事が迫りつつある。
「どーもー」
「……来たか」
この命をもって、復讐の連鎖を断ち切る時じゃ。




