山奥の老人
私は何かいい匂いで目を覚ました。
目を覚ましたのは見慣れぬ木の家。
暖炉でぱちぱちと火が燃えている。
こ、ここは……
「お、目を覚ましたようじゃの」
「ん……」
暖炉の傍にいた老人が私に気づく。
額に傷があり、目つきも鋭い。
だが不思議と敵意を感じない。
「あんたは……」
「お主、思いのほか目を覚ますのが早かったの。もしかしてこれの匂いで目を覚ましたのか?」
老人は自分の前にある鍋を指さす。
確かにこの良い匂いはその鍋から漂っているようだ。
「こ、ここは……?」
「まあこれでも食え」
老人は器に鍋の中身をよそって手渡してきた。
スープのようだ。
確かに良い匂いだが、食って大丈夫なのか……?
「心配せんでも毒なぞ入っとらんよ」
「あ、ああ……」
私は恐る恐るそれを一口食べる。
う……うまい。
これを本当に目の前のいかつい老人が……?
「ここは儂の家じゃ。煉獄山の山中のな」
「そうだ……私達は……」
部屋を見回すと、私のすぐ横にジーナとツルギが床に寝かされていた。
あったかそうな毛布にくるまれている。
「お主らも災難じゃったなぁ。こんな時に煉獄山に来てしまうとは……」
そう、私達は急な吹雪に見舞われて……
なんかどんどん吹雪が強くなって……
それで……
「そうだ……竜が……」
「なんと、見たのか」
「知っているのか……あの竜を」
「そりゃあの。少し味が変じゃの」
老人は鍋に調味料をいれる。
そうか……?
十分うまいんだが。
「あれはの……氷帝竜じゃ」
「氷帝竜……?」
「悪いがおぬしらの鞄の中も見させてもらった。冒険者のようじゃの。ということは、ここを通ったのは竜のテリトリーを避けるためじゃろ?」
「ああ……」
「この辺りが竜達のテリトリーから外れておるのはの、さらに力の強い竜の通り道じゃからじゃ」
「それが……」
「うむ。氷帝竜じゃ。あやつは天災のような存在での。ふらっと煉獄山を訪れては季節関係なしに山を氷漬けにしてしまうんじゃ」
氷帝竜ねぇ……
あの時の光景は今でも瞼に焼き付いている。
一際高い岩山の頂上で天を仰ぐ美しい竜。
「あんたが助けてくれたんだな」
「儂は偶然通りがかっただけなんじゃがな」
「いや、あんたは命の恩人だ。私が3人を代表して礼を言う。ありがとう」
氷帝竜を見てから私も記憶がない。
気を失ってしまったようだ。
あのままだったら死んでしまっていただろう。
「まあ礼は受け取ろうかの」
少し照れくさそうに頬をポリポリとかいてそう答える。
見た目と違って案外接しやすそうな老人だな。
「お主……リーシア・シルフェリオン・ジルドじゃな?」
「何で私の名前を……って、そうか。荷物を見たんだったな」
私達が冒険者だと分かったという事は、ギルドカードでも見たんだろう。
ギルドカードには名前が書いてあるからな。
「お主……リーデルという人物を知っておるか?」
「ああ……母さんだ。知ってるのか?」
「そうか。奴の娘じゃったか。儂は昔魔帝国にいたんじゃ」
こんなところで母さんを知る人に会うとはな。
やはり世界は広いようで狭い。
というか母さんが顔広すぎるというのがあるけど。
さすが『紅の戦姫』と呼ばれていただけはある。
「奴とは何度も矛を交えたもんじゃ……」
「敵かよ!」
「ん……ああ、そう身構えずとも良い。もう遺恨はないからの」
大丈夫なのか……
そういや元々陛下やバリスさん達とも敵だったらしいし……
母さん敵が多い!
「氷帝竜はもう去ったから吹雪はもう大丈夫じゃ。ただお主らはもう少し休んでいくがいい」
「そうか……お言葉に甘えさせてもらおうかな……」
吹雪はあの氷帝竜が起こしていた。
あの竜が去った今、煉獄山には平穏が戻ってきたのだ。
だがまだ体がだるいのも事実だ。
もう少しお世話になろう。
飯も美味いし……
「うぅ……」
「リー……ス……さん……」
2人もそろそろ目を覚ましそうだ。
はー。
本当に死ぬかと思った……
「そうだ。あんた、名前は?」
「儂の名前はゴッチじゃ」




