煉獄山の頂上
「おい、2人とも大丈夫か!?」
「な、なんとか……」
「僕も大丈夫だよ」
「くっそ……なんでこんな時期に吹雪にあうんだ!」
ジリルから南東、煉獄山。
ここは竜達のテリトリーから外れているので、イェリデ山脈を抜ける数少ないルートのうちの一つだ。
煉獄山を登頂中、私達は吹雪に見舞われていた。
季節は春。
煉獄山はさほど標高の高い山ではないのでこの時期に雪が降るなどありえない。
「ましてや吹雪なんて……!」
「今から帰るのも……無理だね」
「ど、どこか吹雪を避けれる場所を……」
次第に吹雪いていくのなら、途中で撤退することもできた。
しかし、雪が降り始めてからまだ5分しか経っていない。
くるぶしあたりまで雪は積もっている。
前方の見通しもかなり悪くなっており、方向感覚まで狂わされてしまった。
「おい!私から離れるなよ!」
「ここで逸れたらおしまいだね」
「分かりました……!」
私達はお互いの手を取り、一つに固まる。
どうにか山小屋なり洞窟なり、この吹雪を避けれる場所を見つけなければ……
だがしかし、その間にも吹雪は強くなっていく。
「うぅ……」
「ジーナ!寝るな!」
「耐えるんだよ……ジーナ!」
ジーナの歩みが遅くなっていく。
足取りもフラフラし始めた。
急激に体温が奪われているのだ。
私達の服装は春用だ。
耐寒装備など持っているはずもない。
私とツルギでジーナを叱咤しつつ、2人で肩を貸して彼女を支える。
私は種族柄、体温の低下には強い。
精神生命体に近いので、身体の異常には滅法強い方だ。
だがそんな私ですら、眠気が勝り始めてきた。
ツルギはもっと辛いのは言うまでもない。
「リース……あれを!」
その時、吹雪の向こうに何かのシルエットが見えた。
あれは……人か!?
長い髪が吹雪になびいている様子から、女性だと思われる。
「おーい!助けてくれ!」
「すみません!助けて下さい!」
私達は力を振り絞って叫ぶ。
左肩はジーナに貸しているので右腕を目一杯振る。
「おーい!おーい!」
「お願いします!助けて下さい!」
しかしその人影には聞こえていないのだろうか。
人影はくるりと回った。
シルエットが段々小さくなっていく。
まずい!
「おー……っ!!」
その時、吹雪が一層強くなった。
口に雪が入り込んでしまった。
「リー……スさ……ん……」
「リ……ィ………ス」
左肩にかかる負荷がさらに強くなる。
2人が倒れたのだ。
だが私も2人に声をかける余裕がない。
急激な……眠気……が……
「くっそ……こんな……ところで……」
その時。
不思議な事が起こった。
吹雪が晴れたのだ。
空は曇っているが、周囲の景色は氷に包まれ、キラキラと輝いている。
この光はどこから……?
「あ……」
その光の源を見た。
一際高い岩山、その頂上に佇む美しい竜だ。
その大きさは地竜よりも二回り以上も大きい。
だがその身体は地竜のようなゴツゴツとした表皮ではなく、美しい蒼い鱗に尻尾の先まで覆われている。
私がその美しさに見惚れていると、その蒼い瞳と目があった。
澄んだ、知性を感じさせる瞳だ。
「あ………」
言葉が出なかった。
出たとしても、何を喋るつもりだったのだろう。
膝から地面の氷に崩れ落ちる。
だが視線を逸らす事が出来ない。
そんな私を尻目に、竜は視線を逸らし立ち上がる。
そして光の差し込む雲の切れ間に向かって飛び立っていった。
私は冷たい氷に身体を預け、意識を手放すのだった。




