ツルギの休日
「てやぁ!」
僕は右手の刀で目の前のクローウルフを斬り伏せる。
クローウルフは鮮血を巻き上げながら絶命した。
「ふぅ」
僕は刀を振って血糊を落とす。
これで最後だったはずだ。
「お疲れ様、ツルギ君」
「お疲れ様です。カジータさん」
「いやぁ、ツルギ君に手伝ってもらってすごく助かるわ〜!」
近づいてきたローブを着た若い女性、カジータさんにそう返す。
人族の魔術師だ。
今日は彼女を手伝っている。
「ヘムリン草はこの辺だったはずなんだけど……」
場所はジリルから南東の森。
探しているヘムリン草は……っと。
「あれじゃないですか?」
「お、それよそれ!ツルギ君よく知ってるわね〜!」
「昔からこういうのを手伝ってましたから。これで旦那さんも元気になりますね」
「ふふ。そうね」
カジータさんはしゃがんでヘムリン草を採取し始めた。
カジータさんはいつも同じく冒険者の旦那さんとパーティを組んでいる。
旦那さんが前衛でカジータさんが後衛。
しかし昨日、旦那さんが少々厄介な病気にかかってしまったのだ。
治すにはジリルの街から少し離れた森に生えるヘムリン草という草が必要だ。
でも後衛の彼女1人では辿り着く事は出来ない。
「本当にせっかくのお休みなのにありがとうね」
「いえ。むしろ何か依頼でも受けないと落ち着きませんでしたから」
僕は母さんがギルドマスターだったのもあり、昔からギルドの仕事を日常的に手伝ってきた。
急に仕事をしない日を作られても困ってしまうのだ。
そこで、ギルドで同行者を探していたカジータさんに出会った。
彼女の頼みを断る理由はなかった。
「それにしてもツルギ君って強いのね。今日は旦那と一緒の時よりも戦いやすかったわ〜」
「そんな事ないですよ」
「謙遜まで出来るなんて良い子ね。まだ10歳くらいでしょう?」
「ええ。でも小さい時から訓練してますから」
物心ついた時から母さんに剣術を教えてもらっていた。
これはその賜物だ。
「僕からしてみればカジータさんだって凄いですよ。カジータさんの補助魔法や回復魔法のおかげで戦いやすかったです」
筋力増大魔法や敏捷性を上げる補助魔法。
そして傷を受けてもすぐに癒してくれる回復魔法。
カジータさんはそれを得意とする。
そのおかげで今日は身体の調子がすこぶる良かった。
「いつも一緒にいる女の子達は補助魔法使わないの?」
「ええ。2人とも他の魔法は問題なく使えるんですが……」
「まぁ無理もないかもしれないわね。魔法にはイメージが大事だってのは知ってる?」
「はい」
少しだけリースから魔法を教えてもらった時、その事を口を酸っぱくして言われたのを覚えている。
どれだけ正確に呪文を詠唱しても、イメージが悪ければ上手く魔法を構築できないのだとか。
「補助魔法や回復魔法もそれが重要なの。でもこの2つには医学的な知識も必要だから、皆には少し難しいかもしれないわね」
「そうなんですね。使えれば便利そうだったのに……」
少し戦っただけでもこれらの魔法の有用性はよく分かった。
リース達が習得してくれないかなぁって確かに思ったが難しいのか。
カジータさんはヘムリン草の採取を終わらせ立ち上がった。
「確かツルギ君は魔法適正があまり高くないんだったわね?」
「はい。少しは使えるのですが、とても実戦で使えるレベルでは……」
下級魔法くらいなら何とか使える。
ただし、詠唱も10秒くらい必要だし威力も微弱。
刀で斬った方が効果は高い。
ジーナを育てたリースの教え方が悪い訳では無いだろうから、純粋に僕に才能が無いのだ。
「そうね……今日のお礼として、報酬とは別にツルギ君にヒントをあげよっか」
「ヒント……ですか?」
「まぁそこの倒れた木にでも座りましょう」
僕とカジータさんは倒れた木に並んで腰を掛けた。
「まず、何も実戦で使うだけが魔法じゃないでしょ?」
「というと?」
「実戦で使えなくても、その前後に使うのよ」
前後……?
「例えば私の回復魔法。これって詠唱に時間がかかるし、とても集中しなくちゃいけないの。戦闘中では使えないわ。だからツルギ君の傷も戦闘が終わってから治したでしょう?」
「そうですね」
「そして補助魔法。補助魔法も、何も実戦中に使う必要はないわ。事前に、戦いに突入する前に使っておけばそれで事足りる。つまり、戦いの最中に使う魔法もあれば、戦いの前後に使う魔法もあるってことよ」
確かに補助魔法はいざ戦う時にかかっていればいいわけで、何も戦闘中にかける必要はない。
実際にカジータさんは戦いに入った瞬間に補助魔法をかけ、その後は下級魔法での援護に徹していた。
一度も戦闘中に補助魔法を重ねがけしなかった。
「そういう魔法なら詠唱の短さとかは関係ないわ。どれだけ丁寧に魔法を構築するかが重要なの」
「なるほど……」
それならば僕にも魔法で貢献できるチャンスがある。
リースやジーナは補助魔法や回復魔法を使えないし。
「ジリルの街の図書館には色々な種類の魔法書があるわ。それでそういう魔法を探してみるといいんじゃないかしら?」
「分かりました。ありがとうございます!」
「ふふ。いいのよこれくらい。じゃあ帰りましょうか。あの人が待ってるわ。ツルギ君も良かったらウチでご飯でもどう?」
「そうですね。もっと魔法についてお聞きしたいです」




