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外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
第四章 北方編
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ジーナの休日

 私は少し途方に暮れていました。


 今日はお休み。

 リースさんが決めた、依頼を受けない日です。


 リースさんはどこかに1人で行ってしまいました。

 ツルギさんは休日にも関わらずとある冒険者の方の依頼を手伝いに行ってしまいました。


 私もどこかに出かけた方がいいのでしょうか?


 ベルルでは、暇な時は市場に出かけて商品を眺めたりしていましたが、今、ジリルの市場には活気がありません。

 山脈の通行規制は少しずつ緩和されているのですが、それでも通行量はいつもの10分の1程だとか。

 珍しい物に出会えそうもありません。


 こういう時後ろをついていくリースさんは見失ってしまいましたし……


「いや、甘えてばかりではダメですね」


 今日は、リースさんに頼ることなく私の力だけで、休みを満喫してみせます!



--------------------



 と、言っても私にはこれといった趣味がありません。

 武器の手入れは嫌いではありませんが、毎日の日課といったものですし……


 寮に閉じこもってもいられません。

 とりあえず街を歩いてみる事にしました。


 最初はジリルの街中でしょっちゅう迷っていた私ですが、最近は慣れてきたのか、地図無しでも歩けます。

 とりあえず港方面に向かってみましょう。


 そして軍港にやってきました。

 街の中心部から軍港までは大きな通りが通っています。

 私はこの通り以外を通ると迷ってしまうので、必然的にここに着いてしまいます。

 ここから海沿いに歩いてみましょうか。


「おっ!嬢ちゃん!何してんだ?」

「ひっ……!か、海軍の隊長さん……」


 急に後ろから大きな声で話しかけられてびっくりしてしまいました。

 後ろを振り返ってみると、そこにいたのはいつも合同訓練を取り仕切っている海軍の隊長さんでした。

 水人族の大きな人です。

 私をえらく気に入って下さったようで、海軍に入らないかとよく誘われます。

 少ししつこいかなぁ、と思ってます……


「いつもの白い髪の嬢ちゃんや鬼人族の坊主は一緒じゃねぇのか?」

「は、はい……今日はお休みでして……」

「へぇ休みか。ここで何してんだ?」

「いえ、特に理由は……何となくです」

「お、暇してんのか!なら海軍の訓練でも見学していかねぇか?」


 海軍の訓練といえば、冒険者ギルドとの合同訓練しか知りません。

 少し興味はありますが……

 お休みにする事ではない気がします……


「いえ、お気持ちだけで……」

「おーい!ジーニスタの嬢ちゃんが訓練を見学したいってよ!」

「本当ですか!?」

「こりゃ気合い入れねぇと!」

「無様な姿は見せらんねぇな!」


 えっと……

 私の意志に関係なくお話が進んでしまっています……


 そうして私は海軍の訓練を見学する事になりました。



--------------------



「うぅ……」

「ジーニスタちゃん、大丈夫?」


 海軍士官の水人族のお姉さん、メタさんが私の背中をさすってくれました。

 と、言ってももう出る物は残ってません。

 全部吐いてしまいましたから……


 海軍の水上要塞へは船を使うしかありません。

 たった10分ほどの移動。

 でも私は船酔いしてしまい、船のお手洗いでこの体たらくです。


 うぅ……帰りたいです……


「もう着いたわ。揺れないから大丈夫よ」

「はい……」

「あ、そうだ。ここからは専用の服に着替えてもらわないといけないんだけど……大丈夫?」

「大……丈夫……です」

「無理しなくていいわ。更衣室までおぶってあげる」



--------------------



「ふわぁ……」


 船内の更衣室でメタさんに海軍の制服に着替えさせてもらった後、船外に出てすぐ、思わずそんな声を出してしまいました。


 目の前には大きな建造物。

 海軍の水上要塞、それはまるで鋼鉄の島です。

 しかし不思議と圧迫感や無骨な印象は受けません。

 品の良い意匠が施されており、1つのアートのように感じられました。


「ふふ。凄いでしょ。この要塞は水人族の有名な建築家がデザインしたのよ」

「はっ……!え、ええ。素晴らしいです……」


 私としたことが、お口をポカンと開きっぱなしにしてしまいました……

 はしたない……

 メタさんに見られてしまったでしょうか?


 その後はメタさんと隊長さんに基地の中を案内していただきました。

 基地では海軍に所属する兵士さん達が訓練や船の整備に勤しんでいました


 訓練は海上の的を狙う砲術訓練や水泳訓練などがあります。

 大砲を近くで見たのは初めてですが、その発射音の大きさに耳がキーンとなってしまいました。


「本当はもっと実戦に近い、船上での訓練もあるんだが、嬢ちゃんは船に弱いみてぇだしなぁ」

「す、すみません……」

「気にしなくていいわよ。皆最初はそんなもんよ」

「そうだ!乗ってりゃそのうち慣れるもんだ!」

「というか、お2人とも私なんかに構っていて、お仕事はいいんですか?」


 さっきからずっと思っていたことです。

 メタさんは士官ですし、隊長さんもメタさん以上の階級にはいるはずです。

 お忙しいはずでは……


「いいのよ。海軍は良い意味でも悪い意味でも自由だから」

「そうそう!最低限の事さえしてりゃ上からとやかく言われる事はねぇんだよ!」

「はぁ……」


 軍というのはもっと規律で厳しく縛られているイメージでしたが、ジリル公国の海軍はそうではないのでしょうか?


「それより嬢ちゃん。何か訓練に参加してみねぇか?」

「いいんですか?」

「ジーニスタちゃんならきっと問題ないわ」


 私部外者なんですが……


 そして連れてこられたのが、戦闘訓練場。

 その中でも大きなプールのあるフロアです。


「ここでは水中戦闘の訓練が出来るわ」

「まぁ最近はあんまり無いんだけどな。主に特殊部隊とかが訓練するんだ」


 水中戦闘ですか……

 した経験がありません。


「あまり自信はありませんが……」

「あれだけ体力があれば問題無いだろう。相手は……俺でいいか……」


 プールの側に立てかけられた鉄製の棒を手に取り、隊長さんがプールに飛び込みました。

 見事な泳ぎでプールを一周して浮かび上がってきました。


「もう隊長ったら……水人族とじゃ水中でのアドバンテージに差がありすぎるじゃないですか……」

「問題あるか?嬢ちゃん?」

「……いえ。問題ありません。武器はどれを使えば?」

「一応そこの訓練用のを使ってくれたらいいけど……ジーニスタちゃん大丈夫?」

「ええ。何事も経験ですから」


 私は鉄製の模擬剣を手に取りました。

 水人族と水中戦闘なんて滅多に経験できません。

 それに私には水属性精霊の加護もあります。

 勝てる見込みはあります。


「それでは」


 私はそのまま水に飛び込みました。

 一瞬その冷たさに体を震わせます。

 さぁ、浮上して息を……

 あれ……


 あれ……?


「ーーーッッ!!!」


 浮かない!?


 私はなんとか浮き上がろうともがきますが、身体は下にズンズンと沈んでいきます。

 パニック状態になった私は鉄の剣を手放しました。

 しかしそれでも沈む一方。

 プールの水深は相当なものです。

 足がつくはずもありません。


「ーーーーーーー!!!!」


 最初に驚いた時に息をかなり吐いてしまいました。

 酸素が……もう……


「ジーニスタちゃん!」


 次第に狭くなる視界に青い影が見えました。

 水の中なのにはっきりと声が聞こえます。


 私は何かに掴まれるとそのまま急激に浮上していきました。


「ガハッ!!」

「嬢ちゃん!?大丈夫か!?」

「ジーニスタちゃん!しっかり!」


 水面に辿り着き、待ちに待った酸素を肺に取り込みます。

 私を助けてくれたのはメタさんでした。

 今私は彼女の肩に掴まって浮いている状態です。


「おい!ストーブと毛布を用意しろ!」

「ジーニスタちゃん、一度上がりましょう」

「は……はい……」



--------------------



 はぁ……暖かい……

 ストーブの前で毛布にくるまりながらメタさんがくださったホットミルクを飲みます。

 私の周囲には私を心配してくださっている海兵さん達がいます。

 恐らく訓練場にいた全員が集まってくれています。


「すみません……私のせいで訓練のお邪魔をしてしまって……」

「何言ってるのよ。ジーニスタちゃんに何もなくて良かったわ」

「それにしても泳げねぇとはなぁ……言ってくれりゃあ良かったのに」

「すみません。私も知りませんでした」


 生まれ育った街、ゴルドは港町ですが私は海で泳いだことがありません。

 ほとんどを屋敷の中やその周辺、あとはお城で過ごしていたからです。

 だから今まで、自分が所謂カナヅチだという事を知りませんでした。


「いや、謝りてぇのはこっちだよ……すまねぇなぁせっかくの休みだったのに……船とかさっきのとか……」


 隊長さんは頭をポリポリとかきながらそう言いました。

 その様子から、心の底からそう思ってる事が見て取れます。

 だから私も偽らざる気持ちを言います。


「いえ。 私は中々楽しかったです」

「ジーニスタちゃん……」

「ジリル海軍の船に乗せてもらったり、基地の中まで見せていただきました。確かに少し辛い事もありましたが、それも含めて良い経験になったと思います」


 これは本心です。

 海軍の船や基地の中は素直に興味深かったですし、基地の皆さんは私に優しくしてくれました。

 楽しくなかったはずがありません。

 感謝してます。


「嬢ちゃん……」

「良い子だなぁ……」

「オッチャン……感動しちまったよ……」

「ジリルにいる間はいつでも来てくれ!俺らが泳ぎ教えてやるよ!」

「あっ!てめぇズリィ!俺も!」


 周りの海兵さん達が口々に話します。

 この騒がしさにも最初は戸惑いましたが、いつしか心地の良いものになりました。


「ジーニスタちゃん。ありがとう……」

「余計ウチの軍に欲しくなったぜ……いっそのこと入隊しねぇか?」

「いえ入隊はちょっと……」

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