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外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
第四章 北方編
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影の追跡者

「ニミル?ああ『聖域』ね。優秀な奴だぞ。女癖は悪いけどな」

「あの魔法は反則だよな。魔物の方から離れていくんだぜ?」

「俺は気にいらねぇな。あんなヒョロヒョロの奴の何がいいんだか……」

「お前、僻みにしか聞こえねぇよ」

「あいつ、あちこちの街に女作ってやがるらしいからな」

「ああ。有名な話だよな。女同士じゃ『聖域』の奪い合いがえげつないらしいぞ」

「えげつないって?」

「それはそれは陰湿な嫌がらせだ。家の前に落とし穴掘られてたとか、アザガエルの天日干しがたんまり送られてきたりだとか、朝起きたらお気に入りの服に猫の毛がビッシリついてたなんて話も……」

「なんだそりゃ!それは流石に眉唾だろ!」

「女の嫉妬ってのは怖えからな。あるいは……」

「いやねぇよ」



-------------------



「まぁキザ男はキザ男だったな」


 A級冒険者『キザ男』のニミル。

 その周りからの評価は高い。

 しかし彼については、その能力の高さよりも女癖の悪さの方が有名なようだ。


 まぁ無駄に顔はいいからそういう話が多いのは仕方ないのかもしれないな。

 とある雑誌のモデルもやってるとか。


「リースの嬢ちゃん、暇ならちょっと一杯付き合えよ」

「おいおい。私は9歳だぞ。10年ぐらい待て」

「やったぜ。10年後なら付き合ってくれんだな?」

「嬢ちゃんなら別嬪になるだろうから大歓迎だぜ!」

「はは。ありがとうよ」


 私は冒険者のよく集まる酒場を後にする。

 夕方だってのに随分酔ってたな。

 酔っ払いの相手は疲れる。


 私は人通りの少ない通りに入った。

 部屋を借りている寮へはこっちが近道なんだよな。

 日陰だから治安は悪いが、多少の輩なら撃退でき……


「ムグッ!?」


 言ったそばから、ぬっと黒い影が物陰から出てきた。

 私は口を押さえられ、路地裏に引き込まれる。


 力強っ!?

 振り解けない!?


「落ち着いて」

「ンーッ!!」


 静かな声でそう言われるが落ち着けるかボケ!

 まずはこの拘束解いてから言えやっ……て……


 コイツ……


「大人しくして」


 それはいつか見た全身黒ずくめの男、キールだった。



--------------------



「で、急に何なんだよ」

「質問に答えて」


 私はやっと拘束を解かれて、路地裏でキールに向かい合った。

 キールは全身を黒い服と黒い布によって覆い隠している。

 布の隙間からはミラほどではないが綺麗な金色の瞳が見える。


「質問に答えろって……てかお前……」


 何か声に違和感を感じる。

 コイツの声を聞いたのは初めてだが……

 ていうか……男にしては高い?


「もしかして女?」

「誰も男とは言ってない」

「割と体つきとか男らしいし……」


 がっしりとした感じだ。

 女性的なアレとかコレとかは感じない。


「体については着込んでいるからそう見えるのかもしれない。身長は自前」

「ニミルは『彼』って言ってたじゃん」

「勘違いされてる。ニミル様には性別を教えてない」


 はぁ?

 ニミル様?


「今度は私の質問に答えて」

「そう睨むなよ」


 瞳孔が縦に裂けていて、獣みたいな目だ。

 睨まれると恐い。


「顔を見せろ。喋りにくい」

「顔を見せたら……」

「ああ。ちゃんと答えるし嘘もつかないよ」

「……分かった」


 キールは顔を隠している布を取り去った。


 そこから現れたのは確かに女性の顔。

 つり目気味の切れ長の瞳。

 性格がキツそうな印象を受けるが、頭の上にピョコンと生えた三角形の耳がそれを完全に打ち消している。

 ていうかギャップで少し可愛く思えるくらいだ。

 猫系の獣人族かな?


「そうジロジロ見ないで」

「いや、思ったより可愛いと思ってな。で、質問って?」

「今日1日、お前の行動を尾けさせてもらった」


 マジで?

 全然気づかなかった。

 まぁコイツは正面にいても気配を感じないから無理もないかもしれない。

 何でこんなにデカいのに気配が希薄なんだろうな?


「A級冒険者ってのは随分と暇なんだな」

「お前、今日は酒場やギルドでニミル様について嗅ぎ回っていたな?」

「まぁそうだが……」


 隠すような事でもない。

 てかさっきから様って何だ……?


「率直に聞く」

「お、おう……」


 キールが顔を近づけてきた。

 凄い圧力を感じる。

 これは殺気に近い。


 ていうか近くで見ると可愛い顔してるんだな。

 何で顔隠すんだ?

 勿体無い。


「お前……」

「………」


ゴクリ


 思わず唾を飲み込む。

 何を聞かれるってんだ……


「お前は……」

「私は……?」

「ニミル様が好きなのか?」

「……は?」


 何かの冗談かと思った。

 だがキールからはそういった雰囲気を一切感じない。


「いや、全く興味ねぇし」

「本当?」

「本当本当」

「嘘じゃない?」

「嘘だったら裸で飛竜の巣に飛び込むよ」

「………嘘じゃなさそう」


 そこでキールはやっと目をそらし顔を離す。

 そして……踵を返して立ち去ろうとした。


「ちょっと待て!?本当にそれだけ!?」

「それだけ。じゃあ」

「ちょっと待て!」


 私は彼女のズボンの裾を掴んで引き止める。

 キールは面倒くさそうに顔だけこちらを振り返った。


「何?」

「いやいや!それを聞くためだけに私をここに引きずり込んだのか?」

「そうだって言ってる」

「そんなくだらない事のために!?」

「くだらない事……?」


 あ、すっげぇ殺気。

 目から光が消えてるんですけど。

 怖っ!?


「くだらなくなんか……ない」

「お前……あのキザ男が好きなの?」

「それは正確ではない。ニミル様はキザ男などではない。あの方の行動は確かに周囲の何も知らない者から見ればそう見えるかもしれない。だがあの方は、女性に気に入られようとか、そういった邪な感情に基づいて行動を起こしてはいない。あれはニミル様の素であり、その寛大な御心から我々に与えられる慈悲そのものなのだ。それをキザだと?お前は本当に見る目がないな。そもそもニミル様は冒険者登録をなさった10歳の時から……」

「ストップ!分かった!で、好きなの?」


 止めないと喋り続けそうだったので遮った。

 ここまで聞いたら返答は明らかだが……


「好きではない」

「へ?そうなの?」


 なんだ……好きじゃないのか……


「好きなどという甘いものではない。これは愛すらも超えている。あの御身体に触れたい。あの繊細な指に触れられたい。いや、率直に言ってしまうと交尾したい。あの御身体を本能の赴くまま思う存分貪りたい。貪られたい。『自主規制!』だったりとか『閲覧不可!』だとか、『見せられないよ!』とか……」

「うるせぇ黙れ!」


 止めろ!

 止めてくれ!

 頭がおかしくなりそうだ!


「私はお前の質問に素直に答えただけだ」

「素直すぎだボケ!誰がそんな……そんな事こんな場所で喋れといった!?」

「だがこの感情を表すにはもはやこれしかない」

「だまれ!発情猫娘!」


 こいつ、ただの発情期じゃねぇか!

 しかもその妄想を語っている時のこいつの顔、めっちゃ恍惚としてたぞ。

 今も少し息が荒いし……


「もしかして私がキザ男の事を嗅ぎ回っているのを尾行してたのって……」

「ライバルになり得るかどうかを確かめていた。尾けても判別できなかったため、問いただそうと思った」

「もし私が好きだと言ってたら……」


 どこかに埋められたりとかすんの?

 コイツがどれだけ強いかは知らないが、A級なら私ではキツイかもしれない。


「安心しろ。殺しはしない」

「なんだ……殺しは……」

「家の前に落とし穴を掘ったり、アザガエルの天日干しを送りつけたり……」

「まさかキザ男に関わる女性のお気に入りの服にネコの毛がびっしりって……」

「にゃーちゃんは友達」

「にゃー」


 キールはどこから取り出したのか、猫を抱いて喉をゴロゴロと鳴らしていた。

 えーと……

 おまわりさんに通報すればいいんですかね?


「お前……」

「ニミル様につく悪い虫は放っておけない」

「……今日は随分と饒舌なんだな」

「ニミル様の前では緊張して喋れない。ていうか性欲を抑えるので精一杯」

「下腹部を押さえるな!」


 とんでもねぇ淫乱猫だ!?

 こいつ、本当にあのキールと同一人物なんですかね!?


「お前なぁ。キザ男はお前の気持ちを知らないんだろう」

「うん」


 まぁ性別すら誤認してるみたいだしな。

 これぐらい思われてれば気づきそうなものだが……

 あ、でもこいつの気配遮断スキルは相当だからな。

 別に鈍感だとかそんなではないんだな。


「ニミル様に女性扱いなんてされたら……」

「ああ、もう言わなくても分かるから」


 サカリってのは大変ですねー。

 こいつには関わらない方がいい気がしてきた。

 いや、関わらないでおこう。


「分かった。お前の気持ちはよーく分かった。今日の事はお前と私だけの秘密だ。それじゃ」

「絶対にニミル様に手を出すな」

「出さない出さない。絶対に出さない」

「口説かれても……?」

「出さない」

「壁ドンされても……?」

「出さない」

「『不適切な表現のため削除されました』とか……」

「お前、本当にいい加減にしろよ?」

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