惚れてはいけない
海港都市ジリルは中央大陸最大の海軍を擁するジリル公国の首都で、中央大陸最北端に位置する。
中央大陸の北部は殆どが山で、大きな港がジリル以外には殆どない。
必然的に中央大陸内での海運の要となる。
山脈の関所から一週間ほどの旅を経てジリルにたどり着いた私達の度肝を抜いたのは、街を囲む巨大な城壁だ。
すごいのは海軍だけだと思ってたんだが……これは陸から攻めるのも至難の技なんじゃないか?
入国審査同様、街に入るにも審査があるのだが、これもキザ男が話をつけていてくれたようで、顔パスだった。
本来なら山脈街道を通ってきた商人達が大行列を作り出すので1日で済めばマシなんだと。
ゴルドやベルルは街に入るのに手続きはいらなかったから新鮮だ。
街に入るとゴルドに負けないぐらい見事な大通りに目を奪われてしまう。
だが心なしか人は少ない。
山脈街道が封鎖されているからだとか。
ギルドに向かうと、またもやギルドマスターが出迎えてくれた。
A級は本当に良い待遇だなぁ。
「久しぶりだなぁニミル坊!」
「オーガスさん、その呼び方はやめてくださいよ」
出迎えたのは水人族の大男だ。
水人族は亜人の一種で、ジリルには水人族が多く住んでいる。
薄く青い肌に、手には水かき。
頬にはエラがあり、肺呼吸エラ呼吸どちらも可能だ。
名前通り、水辺に近い場所に住む彼らは水中では他種族の追随を許さない。
水中における絶対的な支配者、それが水人族なのだ。
「あんなに小っこかったニミル坊がA級になってくるなんて、世の中分からねえな」
「オーガスさんに比べれば人族なんて皆小さいでしょう。それより、この子達が手紙で言った……」
「おお!すっげぇガキ共なんだろ!」
オーガスと呼ばれたギルドマスターが私たちを見下ろす。
別に下に見られていることはないのだが、どうしても体格差がある。
私達3人の中で一番背が高いのはジーナ、僅差でツルギ、私はダントツのビリだ。
私は9歳になるが、多分2歳は幼く見られる。
反対にジーナは2歳上に見られるらしいが。
私、小さい頃は成長が速いと思ってたんだけどなぁ。
「おおっ!小っせぇ!」
「こんにちは、ジーニスタ・ロールクレインです!」
「リーシア・シルフェリオン・ジルドだ」
「ツルギです」
「おお……鬼人族……ってことは、ベルルのツバキってギルドマスターの親族か?」
「母です」
「ほぉ!あの鬼姫の息子!これは面白ぇ!」
オーガスは豪快に笑った。
気持ちのいい人だな。
良い意味で冒険者って感じだ。
「リース達はしばらくジリルに滞在するんだよね?オーガスさんは面倒見がいいから色々頼るといいよ」
「ニミルは?マインに戻るのか?」
「えっと……そうだね。そうなる」
「まーた女か?」
「……オーガスさんにはバレバレですね」
オーガスがニヤリと笑ってズバリと言い当てる。
「てめぇ、あちこちに女作りやがって。羨ましいったらねぇよ」
「オーガスさんも男前じゃないですか」
「バッカお前。俺が妻帯者だって知ってんだろうが」
やり取りから察するに、2人はかなり長い付き合いなんだろうなぁ。
「リーシアとジーニスタの嬢ちゃんもこいつみてぇな悪い男に惚れるんじゃねぇぞ」
「いや、ない」
「ほ、惚れるなんてないです!」
「うわぁ手厳しい……」




