鬼の衝動
「どう攻略したもんかね……」
この黄金の体毛に覆われた化け物には魔法があまり効いてない様子だ。
「ていうかあの血……」
「うん。普通の血の吹き出し方じゃない。ある程度キマイラ本体が操作していると見た方がいいかもしれない」
近接で斬ったら斬ったで、こっちを狙ってくる溶解性の返り血かよ……
お手上げじゃん。
「地竜の時みたいに口の中に魔法や魔弾を撃ち込むのはどうでしょう?」
「やってみる価値はあるけど、地竜よりすばしっこいからな……」
「グルルル……」
「どうしますか!?」
「近接は危険すぎる。もう少し魔法で様子を見る。どこか効きやすい部分があるかもしれない」
「くっ……分かった」
水と風がどちらも効かない場合、理論的に火や土も効きにくいんだよなぁ。
まぁ魔物それぞれの特性というものがあるから、何か抜け道があるかもしれない。
それを探り探り戦うしか……
「オオオォォォォォォンンン!!!」
その時、キマイラが大気を震わせるような咆哮を放った。
少し体がビリビリする。
な、なんだ!?
「リースさん!キマイラの後ろ!」
「チッ……マジかよ!」
キマイラの背後の水路から、大量のアクアリザードとベクターフロッグ、アクアスライムが現れた。
どいつもこいつも目が爛々と光り、マトモな様子ではない。
「まさか……魔物の活性化の原因はコイツか……?」
「リースさん!」
「くそ……あの数はマズイな」
様子を見るとか悠長な事をしてたら物量差で押しつぶされてしまう。
「ジーナ、ぶっ放すぞ!ツルギ、退がれ!」
「……」
「……ツルギ?」
いつもなら直ぐに返事をするはずのツルギが返事をしない。
一体どう……
「あああぁぁぁァァァァアアアァァァァ!!」
私の耳を貫いたその咆哮は、さっきのキマイラのものに負けない音量で空間を響き渡った。
その中心はツルギだ。
ツルギはそのまま刀を両手に構え、最高速でキマイラに突撃していく。
「ツルギさん!?」
「ツルギ!?」
まさか、キマイラの咆哮に当てられたか!?
私やジーナとツルギは種族が大きく違う。
種族が違えば体質も変わる。
魔術的な耐性は言うまでもない。
さっきのキマイラの咆哮に魔物を活性化させる力があったとしたら、それに鬼人族の耐性が耐えきれなかったのか!?
「ジーナ!雑魚は任せた!」
「は、はい!」
私はキマイラに突っ込むツルギを追った。
しかし足はツルギの方が速い。
追いつけるはずがない。
「グォォ!!」
「アアアァァァァ!!」
ツルギに対してキマイラが爪を振り下ろす。
しかしツルギはそれを難なく躱し、懐に潜り込んで斬りつけた。
「グゥゥ!」
「危ない!」
斬りつけた場所から鮮血が、溶解液が飛び散る。
それがツルギに降りかかる瞬間……ツルギが消えた。
「グォ!?」
「アアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
ツルギは跳躍し、キマイラの背中を斬りつける。
そしてまたもや溶解液が襲いかかる寸前に地を蹴り、今度は後ろ足を斬りつける。
ツルギは溶解液が飛び散る速度より速くキマイラを斬り刻んでいた。
アクアリザードが複数体ツルギに襲いかかるが、その牙が、爪が、彼に到達するより前に切り刻まれる。
「なんて滅茶苦茶な……は!?あれは!?」
その時、キマイラの2つの口腔が光を放つ。
ブレスだ。
「そんなもんまで使えんのかよ……!」
私はそれを阻止しようと魔銃を引き抜き、キマイラの頭に照準を合わせる。
だが……
「アアアァァァァ!!!」
「グギャ……」
私の射線などお構いなしにツルギが飛び込み、刀を一閃、片方の首を斬り落とす。
舞い上がる血飛沫を避けるように一撃離脱する。
しかしその一瞬でキマイラのブレスの準備動作は終了していた。
「くそっ……射線が……!」
妨害しようと銃を構えるが、またもや射線をツルギがふさいでいる。
キマイラの残った口が一際輝く。
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体が思ったように動かない。
僕の意思とは裏腹に、自分の2本の腕は刀を振るい、目の前の敵を八つ裂きにしていく。
だが不思議と嫌な気分はしなかった。
おそらくこれは元々鬼人族の奥深くに眠る破壊衝動。
それがさっきのキマイラの咆哮によって刺激されたのだ。
僕の中にこんなモノがあったのかと内心驚いている。
身体の動きはさっきまでとは比べものにならないほど洗練されている。
今の僕は、ただ敵を屠るために、殲滅するために研ぎ澄まされた鋭利な刃物そのものだ。
あぁ、そっちに動いちゃダメだ。
リースの射線をふさいでしまう。
殺戮の鬼と化した僕には味方の存在など頭に無いのだ。
ただ自分の力のみを考慮し、最適な殲滅を実行する。
どうして今なんだろう?
どうして今、僕は暴発してしまったのだろう?
キマイラの咆哮は唯のトリガーに過ぎない。
僕は多分、焦っていたんだな。
彼女達と地竜を倒した時の高揚感は今でも覚えている。
だがあの戦闘では、僕は地竜の足止めしかできなかった。
地竜を吹き飛ばしたのはジーナだし、とどめをさしたのはリース。
僕の刃は地竜の表皮に阻まれて傷をつけることすらままならなかった。
リースに旅に誘われた時、嬉しかった。
でも「僕がリース達と一緒に旅が出来るのか?」とも思った。
彼女達は強い。
僕はついていけるのだろうか。
そして今回の迷宮だ。
この迷宮に入ってから、僕は全然思うように動けなかった。
それは仕方の無いこと。
魔法の方がこの迷宮の魔物とは相性が良かったんだから。
でも僕は焦った。
もっとリース達の役に立たねば、と。
もっと敵を殺さなければ、と。
その焦りが今の状況を生み出した。
そして今、僕は見事に群がるアクアリザードを殲滅し、キマイラに手傷を負わせている。
でも僕の心は晴れない。
キマイラの口が輝きを放つ。
ブレスだ。
僕はその片方の首を斬り落とす。
血飛沫を避けるために一度距離を取らされる。
その間にブレスの発射準備は完了してしまった。
今の僕の身体は着地したところだ。
動けない。
このままではブレスの直撃を食らってしまう。
目の前の光がさらに強くなる。
そして気づかされた。
僕は、リースやジーナという光に憧れたのだ。
僕は、彼女達と一緒に戦いたかったのだ。
光が僕を包み込んだ。




