北へ
「じゃあね。気をつけて行ってくるんだよ」
「はい。行ってきます。母さん」
「わざわざ見送りなんて良かったのに。ツバキさんってギルドマスターだから忙しいんじゃ?」
「いや、仕事なんてほとんど残ってな……」
「ギルドマスター、帰ったら書類に判を押してください。仕事はたんまりと残っています」
「げぇ……本当かい、シーベル」
受付嬢の鋭い視線にたじろぐツバキさん。
この受付嬢とはそこまで親しくないが、なんか怖いお姉さんだよなぁ。
「ジーナちゃん、元気でな!」
「健康には気をつけるんだぞ!」
「何か困った事があったら手紙くれ!どこにでも駆けつけるから」
「ジーナちゃん、大きくなったら結婚してくれ!」
「てめぇ!嫁さんいるだろうが!」
「ははは……み、皆さんありがとうございます」
ジーナは男連中に凄い人気だ。
本人は若干引いているようだが。
「……リース」
「ん?なんだ、ヒロ」
その時、ヒロが小さな声で話しかけてきた。
いつになく真剣な顔だ。
「……お前に先越されちまったが、俺もすぐにC級になって、外の世界を冒険して、次会った時はもっと強くなるから……お前も元気でな」
「………」
「どうした?」
「リースはあんたらしくないって言いたいのよ」
「なんだよアイリス……」
アイリスがヒロの頭を軽く叩く。
私も同じ事を思っていた。
「いつもみたいにバカみたいに『俺も頑張るから頑張れ!』みたいな事言ってるほうがヒロらしいよ」
「バカみたいにってひでぇな、リース…」
「笑って見送りなさいよ!」
「……ああ。頑張れよ!」
そこでようやくヒロは笑顔を見せた。
最後に見るこいつの顔が湿っぽい顔なんて嫌だからな。
調子が戻ったようで何より。
そうして私たちは、半年を過ごしたベルルの街を旅立った。
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「さて問題です。この道をどっちに行けばいいでしょう?」
ベルルを出て、十字路に差し掛かった際、試しにジーナに聞いてみた。
「えっと……確か北の山脈を越えてジリル公国に向かうんでしたよね?」
「ああ」
目的地は中央大陸の最北の都市、ジリル公国だ。
その首都、ジリルは中央大陸最強の海軍を擁する海港都市だ。
亜人が建設したという歴史から、亜人の権限が強く、人族と魔族の戦争の時にも中立を貫いた、中央大陸では珍しい亜人族国家だ。
「となると……左の道ですか?」
「そっちは魔帝国方面だよ」
「となると……右?」
「正解は真っ直ぐだ。お前中央大陸の地図が頭に入ってないのか?」
「あうう……」
方向音痴とかいう話じゃない気がしてきたな……
旅の間に地図の読み方をジーナに教えたほうがいいかもしれないな。
「ジリルは遠いからね。ゆっくり行こう」
大陸の北部と中部の間にはイェリデ山脈という険しい山脈が通っている。
ベルルからジリルまで伸びる山脈街道と呼ばれる街道沿いに行けば比較的楽に山を越えれるはずだ。
大体イェリデ山脈まで一週間ほど。
そこの関所でジリルへの入国審査があり、そこからは5日程だ。
2週間程の旅になるな。
「遠いといっても、街道沿いには沢山宿場町があるだろ。観光気分でゆっくり行こうぜ。金なら沢山あるし」
軍資金はたんまりある。
2週間、3週間くらいなら働かなくても問題ない。
地竜の素材が売れたおかげだ。
地竜様々だ。
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「はぁ〜行っちまったねぇ」
「ツルギ君が街から旅立ってしまうなんて、感慨深いものがありますね」
ベルルの街の入り口でツルギ達を見送ってアタシ達はギルドに戻ってきた。
あいつらは行っちまったけど、今日もギルドは営業中だからねぇ。
「シーベル。仕事しなきゃダメかい?息子の旅立ちに感じるものがあるから仕事なんて手につきそうにないんだけど」
「そんな柄じゃないでしょう」
そう言ってシーベルはアタシの机の上にドカッと書類の束を置いた。
「少し多くないかい?」
「昨日サボるからです」
あれ、アタシは昨日もサボったかね?
最近はサボりすぎていつサボったのかすら分からなくなってるよ。
「はぁ……ギルド連盟からの通知書……?」
面倒なのがあるね。
こういうのはロクな知らせじゃないんだよ。
アタシはその書類に目を通す。
「地竜の件の調査報告……イェリデ山脈付近で魔物の生態系が激変……」
「イェリデ山脈って……まさか」
「ツルギ達が行く方向だね。面倒事に巻き込まれなきゃいいが……」




