新しい仲間
「いや、だからそこはこう身体を捻ってだな」
「こ、こうか……?」
「おお、そうだそうだ!」
ヒロは私が実演して見せた動きを真似て動く。
少しぎこちないが悪くない。
運動センスは悪くないな。
今私はギルドの一階で、ヒロに剣術の基礎的な動きを教えていた。
何でこんな場所かというと、他の冒険者達も見学したいと言い出したからだ。
ヒロはとある農村の出らしく、闘気の練り方は先輩冒険者に教えてもらったらしいが、剣術は完全な我流だった。
だから無駄な動きが多すぎる。
私はいくつかの基本的な動きを一つずつ彼にレクチャーしていた。
もちろん型にはまりすぎると最初のザリのような柔軟性の無い剣になってしまうが最低限の剣術は必要だ。
「リースの剣術、かなり自己流にアレンジしているがベースは人族のものか?誰かに習ったのか?」
「うーん、まぁ色々あったんだよ」
私達を見ていた額に傷のある冒険者がそう聞いてきた。
随分と目が利く冒険者だ。
確かに私の剣術は、前世で学んだウェーリア王国の剣術に基礎を置き、その後のレジスタンス生活で磨き上げたものを、さらにこの身体に馴染むように改良したものだ。
だがそれを話すつもりはない。
実際私がはぐらかすと、追求してくる者もいなかった。
無理に過去を聞き出してはいけない事は、脛に傷を持つ者も多い冒険者の暗黙のルールだ。
「その動きを身体にきっちり馴染ませろよ」
「わ、分かったよリース。ちょっと動きにくいが」
ちなみにヒロ達は地竜の一件以降、私やジーナに教えを請う事が多くなった。
最初は私達を年下扱いしていたが、今では冒険者としてのリスペクトのような物を感じる。
彼ら3人も私の弟子だ。
「うーっす。リーシアとジーナはいるかい?」
「ギルドマスター、おはようございます!」
「おはようございます!」
ツバキさんが現れた瞬間、周りにいた冒険者達が一斉に挨拶をする。
これでも、ギルドマスターとしてきちんと慕われてるんだよなぁ。
「何ですか?」
「1人かい、珍しい。ジーニスタはどうしたんだい?」
「ジーナは今日は市場ですよ」
ジーナは休暇には1人で街の中央市場に出かけたりする。
特別何かを買うわけではなく、主に小物を見に行くだけなのだが、いくらでも時間が潰せるらしい。
「そうかい。まぁいい。こっちに来な」
と言って私はカウンターに呼ばれた。
「あれを」
「はい」
確かシーベルという名前のギルドの受付嬢が机の下から何かを取り出す。
「これは……私のギルドカード?」
あれ?
気づかない間に落としたのか?
懐をさぐってみると、ちゃんとあった。
「よく見てみな」
ツバキさんに言われて2つのギルドカードを見比べる。
全く同じように見え……
ん?
これは……
「C級になってる!?」
「え、マジか!?見せてくれ!」
ヒロがカードを覗き込んでくる。
確かにランクがC級に上がっていた。
「他の奴らからの苦情が凄くてね。『あんな強い奴がD級だったら、俺たちの立つ瀬がない!』ってね。あんたのギルドへの貢献を考えれば、C級に上げても大丈夫だと判断した」
「おお……頑張った甲斐があったぜ……」
ギルドに加入してはや半年。
一生懸命依頼をこなしてきた努力が報われた。
「やったな!リース!」
「半年でC級なんて異例じゃねぇの?」
「お前は2年かかったしな」
「てめぇは2年半だったろうが!」
「リースならB級でもいけるんじゃないか?」
「みんな、ありがとうな!」
ギルドにいた冒険者の面々が祝福の言葉をくれる。
冒険者達は揃いも揃って強面だが根は良い奴だ。
「リース、おめでとう。先を越されちまったな…」
「ああ。ありがとう」
ヒロは少し悔しそうだ。
まぁ私より年上だし、冒険者歴も長いから複雑なんだろうな。
私から慰めの言葉を言っても逆効果かもしれない。
ここは素直にありがとうとだけ言っておこう。
「ジーナも一緒にC級に上げといてやったから、新しいギルドカードを渡してきてくれないか?」
「こちらです」
ジーナの新しいギルドカードにもC級と書かれていた。
こうなれば善は急げだ。
「よし、早速渡してくるよ!」
「あ、ちょっと待ちな!古いギルドカードを返しな!」
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といっても中央市場は広い。
1人でジーナを探してすぐに見つかるものではない。
いつも市場の何処に行ってるんだろうな?
「やぁ、リースじゃないか」
「ん?お、ツルギ。依頼の帰りか?」
中央市場に向かう途中でツルギと出くわした。
ツルギは人の頼みを断れない性質で、人の依頼をよく手伝っている。
今日もその予定だったはずだ。
「まあね。君は今から市場かい?珍しいね」
「ああ、ジーナを探しにな。実はな……ほら!C級になったんだぜ!」
私は新しいギルドカードをツルギに見せた。
「え!?C級に!?おめでとう!」
「ああ!これでまた旅に出れるぜ!」
「旅……もう行くのかい?」
「ん?ああ。そうなる」
C級の資格さえ貰えれば、他の街に入るための身分証になる。
さらにツバキさんに割りの良い仕事を回してもらっていたので路銀も十分だ。
旅立つのならすぐにでも旅立てる。
「そうか……寂しくなるね」
「……」
ツルギは少し表情を曇らせた。
私達との別れを悲しんでくれているのだ。
「……前から言おうと思ってたんだけどさ」
「何かな?」
「お前さえ良ければ一緒に来ないか?」
「え……」
「いや、まぁ……何だ。お前がいれば何かと心強いし」
改めて言うと少し照れ臭いな。
ここ最近はツルギとジーナと私の3人で依頼を受けていたから、その戦い方に慣れてしまっている。
今からジーナと2人態勢に戻るのもなぁ。
「嫌か?」
「いや……そんな事ない。嬉しいよ……」
「……じゃあ」
「……母さんが何度も言うんだ。街の外に出ろ。こんな街に閉じこもって世界を狭くするんじゃないって……」
それは一理どころか二理も三理もあるな。
私自身、前世で故郷を離れてから色々あった。
あのまま故郷にいたら絶対に体験出来ないような事もあったし、仲間にも出会った。
「これまでは外に出るのが怖かった。特に何が、とかそういったのじゃなく、漠然と……ね。でもリース達となら、そういうのも乗り越えていける気がする。地竜の時みたいに」
「……ということは?」
ツルギは手を差し出して、
「よろしくお願いします」
「ああ!」
私はその手をとった。
「じゃあまずはジーナを探さないとな」
「市場の方にいるのかい?」
「いや、あいつはああ見えて方向音痴だし、自由庁あたりかも……」
「正反対の方向じゃないか……」




