防具
「どーもー」
「ただいま戻りました」
「も、戻りました」
私はギルドの扉を開け放って挨拶する。
中の冒険者達が「なんだ?」とこっちを見るが、私達に気づくと……
「お、リースじゃねぇか!依頼終わらせてきやがったのか?」
「ジーナちゃん、今日も可愛いね!おじさんにお酌してくれない?」
「バッカじゃねぇのお前?ジーナちゃん、こんな馬鹿ほっといて俺に頼む」
「てめ!抜け駆けはずるいぞ!」
「ツルギ!今度俺たちの依頼手伝ってくれよ!」
と気さくに声をかけてくれた。
初めてこの門をくぐってから2ヶ月……
最初は皆押し黙って静かだったのに。
まぁ私が闘気を垂れ流していたのが原因だが。
「すみません、報告があるので……アノンさん、後で伺いますね」
「お、お酌なんて……そんな…出来ません」
「おーい、おっさん共。ジーナに手を出したら私がタダじゃ済まさねぇからな?」
「はっはっは!こええ!」
「リーシアお姉様がいる限りジーナちゃんには手ェ出せねぇな」
私の対応に冒険者達は笑って応える。
いや、冗談じゃないけどな?
私の可愛い弟子に手出すような奴、八つ裂きにしちまうかもしれない、
「お、お姉様だなんて……そんな……」
で、なんでこの子も顔を赤くしてんの?
こんな酔っ払い共の戯言なんて聞き流せばいいのになぁ。
「お2人とも行きますよ。ギルドマスターに報告しないと……」
ツルギに急かされて私達はカウンターに向かう。
カウンターでツバキさんに話があると言うと、すぐに通してくれた。
息子パワーだな。
「ギルドマスター、ツルギです」
「入りな」
ツルギがギルドマスターの部屋をノックすると、すぐに返事が返ってきた。
扉を開くと少し煙たい空気が肺に入ってきた。
「ケホッ!」
「……ギルドマスター、仕事中にキセルは如何なものかと。吸うなら換気してください」
「別にいいじゃないか。少しくらい。休憩中だよ」
そう言ってツバキさんはキセルを消す。
この人本当にギルドマスターか?ってくらい自由だ。
私達は順に部屋に入った。
「で、此処にいるって事は、依頼は終わったのかい?」
「それです、ギルドマスター」
ツルギは依頼書と報告書を取り出してツバキさんの前の机に置いた。
「今回の依頼は小麦畑に現れた魔物の討伐との事でしたが、先方が申告してきた魔物の種類と数、それと実際値に無視できない誤差がありました。聞いてみると『申告の時点では申告の通りだった』……と」
「誤差ってのはどっちだい?良い方?悪い方?」
「悪い方です。仕事量はざっと倍ですよ。報酬の増額を要請しましたが、取り合ってくれませんでした」
本当に酷い依頼だった。
小麦畑に魔物が現れから討伐してほしいといった内容だったのだが、依頼主の申告より強い魔物が多くいたのだ。
おかげで思ったより時間がかかってしまった。
「ま、んなこったろうと思ったんだよねぇ。他の地域と比べてここだけ被害が小さいし、あそこの地主はケチだ」
「ああ〜。つまり報酬をケチるために申告量を減らして、簡単な依頼に見せかけたのか」
「そうさ。リース。たまにあるんだよねぇ。こっちは依頼者の申告に応じて依頼料を決めるからね」
ツバキさんはハァとため息をつく。
そして報告書を読みながら…
「危険度に応じて冒険者に依頼を割り振るから、こういう事されると困るんだよねぇ。こっちにまで損害が及ぶし」
「ギルドマスター、どうしてそんな仕事を僕達に?」
「だってあんた達が適任だろう?ランクに不相応な実力持ってるから、魔物が多すぎても大丈夫だし。ツルギは報告書がしっかりしてるからねぇ」
ツバキさんは報告書をヒラヒラと振りながらそういう。
ちゃっかりしてんなぁ。
あと身内だから押し付けやすいってのもあるだろうな。
「事前に説明していただければ、こちらも相応の準備をしました。次からそういった辺りも説明してください。それと報酬のけんですが……」
「はいはい。私の方からあそこの地主には話を通しておくよ。迷惑料も搾り取って多めに渡すから少し待っておいてくれ」
「お、報酬増えるのか?よかった」
「たんまりぶんどってきてやるよ」
「リースさん、はしたないですよ…」
そうは言われてもなぁ。
今私はお金を貯めているのだ。
そりゃあ報酬UPは嬉しい。
私もいつまでもこの町にはいない。
C級冒険者の資格を貰ったらすぐにでも次の町に行こうと思っている。
だからそのために今はお金を貯めるのだ。
「そうだ、あんた達が2ヶ月前に倒した地竜。あの素材を使った防具が完成したらしいから取りに行くといいよ」
「地竜って……あいつか!随分時間かかったんだな」
「竜種の素材は加工に時間がかかるんだよ」
私達は2ヶ月前、地竜を倒した後、その素材で防具を作るように依頼していた。
3人とも武器に関してはあまり不自由してなかったしな。
「そういえばあの初めての依頼から2ヶ月も経ったんだな。早いなぁ」
「結局のところ、どうして地竜があそこに現れたのかってのは分かったんですか?」
「まだ詳しい事は分かっていないらしいけど、それまで確認されなかった魔物が各地で目撃されてるようだよ。ベルル地方での一例として、今は他の情報と照らし合わせてる段階だそうだ」
私達が関わった最初の依頼、未確認の魔物が出没するビルの森の調査。
あれは結局、どこからか迷い込んだ地竜がその魔物だった。
地竜は地属性魔法を使い、地面に潜む。
全く目撃情報が無かったのはそのためだ。
足跡が残っていたのは、その前日に降った雨の影響で地面が濡れ、さらにあの地点は木々が生い茂り水はけも悪いため、地面が吸った水が土魔法を阻害して潜れなかったから地上を歩いていたのだと考えられる。
条件が重なりたまたま運良く見つけられたのだ。
「まぁ小さい事はどうでもいいじゃないか。工房に取りに行ってくるといいよ」
「よし、じゃあツルギ行くか」
「僕は報告がまだ残っていますので、お2人で先に行って下さい」
「えー?まだするのかい?」
「当たり前ですよ」
「そういうキッチリした所はあの人に似たんだねぇ」
「ふーん。じゃあ先に行くな」
「失礼いたしました」
ジーナと私は母子の、少し形式ばってはいるが、親しげな会話を背中に、部屋を出た。
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「うーん」
「どうですか?」
そして私達は工房に来た。
地竜で作った防具をうけとるためだ。
ちなみに防具といっても、全身鎧とかそう言う感じではない。
胸当てや小手など、あくまで軽量装備だ。
スピード戦闘は私の戦術であるからだ。
そして今、完成した胸当てを装備しているのだが……
「少し……きついな」
「もしかして、2ヶ月で胸が成長しました?」
「はぅあ!!」
何故かジーナが胸を押さえてショックを受ける。
確かに、また少し大きくなったかもしれない。
女性の鍛治職人は、一度胸当てを外し、メジャーを持ってきて胸のサイズを測った。
「……少し大きくなってますね」
「そうか……調節とかは出来るか?」
「はい。えっと……ここを弄れば……」
「うう……」
胸当ての調節の仕方をレクチャーしている間、ジーナは「なぜリースさんだけ……」「牛乳も飲んでるのに……」「身長ばかり伸びてしまいます……」と嘆いていた。
ちなみにその後ジーナも自分の胸当てを試着してみたが、2ヶ月前と寸分違わずピッタリだった。
ド、ドンマイ。
胸当てを調節し、さらに小手も装備して完成だ。
地竜はゴツゴツしていたのでそんな感じの見た目になるのかと思いきや、鉄製の防具のように、案外ツルツルしていた。
なんでも表面ではなく内部の方の皮を使ったらしい。
そして、薄く、重い。
どうやら地竜の皮は重すぎるようで、軽量化のためには薄くせざるを得なかったようだ。
だがそれでも防御力に関しては問題がないという。
実際、竜種の素材だから他の防具なんて比べものにならないらしい。
これは良いものを貰ったなぁ。




