魔法学園のとある朝
「ミリアーナ様、起きて下さい。お時間です」
「むうぅ……もう朝か」
目を開くとセリーア学園の女子寮の白い天井が目に入る。
身体を起こし伸びをすると、身体がパキパキと音を立てる。
最近は慣れない事ばかりじゃから疲れがとれんのぅ。
「ミリアーナ様、リーシア様からのお手紙が届きました」
「お、来たか。やはり早いのう。前の手紙を出してから1週間と経っておらん。それだけリースが妾の事を……」
「リーシア様が今いらっしゃるベルルは交易の中心地、手紙が早くつくのは当たり前です」
「ぬぅ……お主は……」
それぐらい妾も分かっておるわい。
アンナからリースからの手紙を受け取り、読む。
リースからの手紙は学園生活での楽しみの一つじゃ。
入学して間もない頃に受け取った、地竜との戦闘の内容を事細かに綴った手紙は今でも偶に読み返すほどじゃ。
「ふむふむ。なんと、冒険者は商人の護衛までするのか?」
「まぁ交易都市ならではの仕事かもしれませんね。盗賊にも狙われるでしょうし」
今回の手紙の内容は、とある商人の護衛依頼の話であった。
その商人は良心的な値段設定で民衆からは慕われておる一方同業者からは疎まれておった故、誰かが雇った盗賊に終始襲われっぱなしだったらしい。
だが、その辺のチンピラ風情などリースやジーナの相手にはならなかったそうじゃ。
それにしても、手紙によく名前の出てくる「ツルギ」という名の少年じゃが、リースはかなり信頼しておるらしい。
相当な剣の腕前とか。
地竜の一件以来、一緒によく仕事に行くようじゃ。
「いいのぅ。妾も冒険者になってみたいのぅ」
「アホな事言っている暇があったら、早く支度をして下さい。もうすぐ時間ですよ」
「ぬ!?誠か!?急がねば!」
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魔法学園の制服を着てアンナと共に一階に下りる。
「あらミリアーナさん、ご機嫌よう」
「ミリアーナさん、ご機嫌よう」
「レイさん、ニアさん、ご機嫌よう」
妾は出来るだけ上品にクラスメイト達に挨拶する。
ここは貴族用女子寮の食堂。
食堂には虫も殺した事無さそうな貴族の子女らがお付きのメイドを侍らせて続々と集合している。
妾はここでは、とある貴族の子女、ミリアーナ・スカーレットという設定じゃ。
いくら中立都市とはいえ、おいそれと魔王の名は出せんからの。
どうも妾の性格や口調は魔帝国に敵対する勢力に知れ渡っておるようじゃからな。
貴族寮ならば彼奴らもそう簡単に手出しは出来ん。
貴族を名乗る以上、貴族らしくロールプレイをせねばならぬ。
最初はそれも面白いと思っておったが、最近では面倒でしか無い。
疲れの原因といえる。
「ミリアーナさん、本日は魔法の実習でしてよ」
「また前回同様ミリアーナさんが一番かしら」
「そんな。先日のはまぐれですよ」
表向きは謙遜しておくが、あれは当然の結果じゃ。
正直、魔法の実習は欠伸が出るほど退屈じゃからの。
「ミリアーナさんは凄いですわ。クラス委員も務めてらっしゃって、貴族生徒はもちろん平民生徒からの信頼も厚く…」
「成績優秀で容姿も淡麗……非の打ちどころがありませんわ!」
「そんな……私などまだまだ……」
「噂ですと、ミリアーナさんのファンクラブも発足したようでしてよ」
「なぬ!?……ゴホン!」
「ミリアーナさん、お風邪?」
「まあ、お医者様を呼ばないと」
「し、心配ありませんわ……ホホホ……」
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「ファンクラブのぅ……そんなものができるんじゃなぁ」
学園までの道中、周囲に誰もいない事を確認してアンナにぼやく。
ちなみに妾はクラス委員である故早く学園に行かねばならぬ。
今は他に生徒の姿はない。
「まぁ実際こんなものではないでしょうか?このような学園ではミリアーナ様は目立ちますし」
「じゃからと言って……ファンクラブなど……」
「慣れるしかありませんよ」
「むぅ。そうか」
面白そう、という理由でクラス委員を務め、さらに授業でも能力を余す事なく発揮してきた。
しかし、少し目立ちすぎたのかもしれん……
「いいんじゃないですか?このままの万能美少女路線を突っ切れば」
「お主は他人事じゃのぅ」
「他人事ですから」
「ミリアーナ様!」
前方から少年がこちらに向かって走ってくるところじゃった。
ザリじゃ。
ザリは女子寮に入る事が出来ないため男子寮で寝ておるが、朝は必ず妾が登校するのに合わせて道で待っていてくれておる。
「おはようございますミリアーナ様」
「うむ、おはよう。妾にはリースから手紙が来たが、ジーナからの手紙は来たか?」
「はい!息災のようです!」
妾同様、ザリも妹からの手紙を心待ちにしておるからな。
今日はいつもより生き生きとしておるな。
「良かったの。では参ろうか」
「はっ」
「ちょっといいか?」
その時、背後から声をかけられた。
妾は思わずビクッと肩を震わせてしまう。
全く気配を感じなかったからじゃ。
後ろを振り向くと、帽子を被った女子生徒が立っておった。
黒髪を頭の後ろで束ね、凛とした雰囲気が出ておる。
おそらく上級生じゃ。
ジーナも成長したらこんな風になりそうじゃのう。
「ミリアーナ・スカーレットだな?」
「……はい。そうですが、あなたは……?」
妾は外行き用のスイッチに切り替えて対応する。
チラリとアンナを見てみると、彼女は肩をすくめた。
「気づいておりましたが、敵意がないので放っておきました」と言っているに違いない。
ぬう、此奴は……
「おっとそんなに警戒しないでくれ、私は生徒会の人間だ」
「生徒会……ですか?」
妾は心の中でため息をつき、天を仰いだ。
また面倒な事が増えそうじゃ、と。




