弱い自分
「メル!お前だけでも逃げて町に知らせろ!」
「そうよ!ここは私達に任せて!」
「お2人を置いて行けるわけないじゃないですかぁ!」
そう言うメルの声は若干震えている。
無理もない。
俺だって今すぐに逃げ出したい気分だ。
「何でこんな所にゴブリンの群れが!?」
「俺だって文句言いてぇよ!」
襲いかかってきたゴブリンの棍棒をアイリスが盾で受け止めた。
隙ありだ。
「これでどう……!」
「ッ!ヒロッ!左よ!」
アイリスの声で俺は咄嗟に左を向く。
また別のゴブリンが棍棒を振り上げてくる所だった。
なんとか剣で襲いくる棍棒を弾く。
だが次の瞬間には次のゴブリンが襲いかかってきた。
「やべっ!」
「ヒロさん!」
俺は全身に闘気を巡らせる。
何も無いよりかマシだ。
「ごめんなさい!『火弾』!」
その時、『火弾』が俺の目の前のゴブリンに炸裂した。
俺はその熱い爆風で吹き飛ばされる。
「いっ……て……」
「ヒロ!大丈夫!?」
尻餅をついた俺にアイリスが駆け寄ってきた。
「ヒロさん、ごめんなさい!ああするしかなくて……」
「いや、助かった。メル」
きちんとした詠唱付きのメルの魔法なら俺を巻き込むような事は無いのだが、彼女は詠唱を破棄すると魔法の制御が甘くなる。
だがそのおかげで俺は軽く火傷を負いつつも離脱できた。
「こいつら……普通のゴブリンじゃないの?」
目の前のゴブリン達を睨みながらアイリスが言う。
ゴブリンは全部で5体。
先程から前にいる4体が代わる代わる連携して攻撃をしてきていた。
「多分奥にいるのはゴブリンエースですぅ!ゴブリン達を取りまとめているんですぅ!」
「ゴブリンエース……」
確かに奥のゴブリンだけ体格が他のゴブリンより良いな。
ゴブリンエースといえば、キラーベアーと並ぶ危険度の魔物だったな。
単体では強くないが、複数のゴブリンを従える事でキラーベアーを超える戦闘力を発揮する。
「勝てる訳無いわ!撤退しないと!」
「今町には冒険者はほとんどいねぇだろ!その状態でこいつらを行かせたら……」
B級冒険者の行方不明事件の煽りを受けて、今ビルの町には冒険者がほとんどいない。
俺たちだって、町の近くでの採取の依頼を終えたらすぐに立ち去るつもりだったんだ。
だがその最中、このゴブリン達に出くわしてしまった。
ツイてるのかツイてないのか……
「2人は早く逃げて危険を知らせろ!準備さえすれば町の狩人達でなんとか追い払えるだろ!」
「あんたはどうするつもりよ!?」
「俺は……時間を稼ぐ」
「馬鹿じゃないの!?無理に決まってんでしょ!?」
「ヒロさんも逃げましょうよぉ!」
「うるせぇ!さっさと行けって言って……」
「グォォ!!」
その時、奥にいるゴブリンエースが咆哮し、4台のゴブリンが同時に襲いかかってきた。
「ちっ……ちくしょう!!」
覚悟を決めて両手剣を構えたその瞬間、左の方向から黒い何かが飛来した。
「てやぁっ!!」
その何かは持っていた刀を振るうと2体のゴブリンの首が飛んだ。
断末魔をあげる隙さえなかった。
「皆さん、無事ですか!?」
「お前は……ツルギ!」
俺たちを助けてくれたのはギルドマスターの息子、ツルギだった。
「無理しないでください!」
「て、撤退なんて出来ねぇよ!今町には冒険者なんてほとんどいねぇ!」
「だからと言って皆さんが死んでしまっては……後にしましょう」
「グォォ!」
ツルギが刀を構えると、またもやゴブリンエースの号令により、2体のゴブリンが襲いかかってくる。
パァン!
だがそれ遮るように乾いた音が鳴る。
「グギ……!」
「オォ!」
1体は頭を何かが貫通し、もう1体は頭が吹き飛んでいた。
2体ともやられた!?
「ったく!ツルギ、足が速すぎるぞ!」
「間に合いました……」
ツルギが来た方向の草叢をかき分けて現れたのは、銃を持った銀髪の少女と身の丈ほどもある長剣を背負った黒髪の少女の2人。
あいつらは……
「リース!?」
「ふえ!?ジーナさん!?」
なんと現れたのはつい数日前ベルルまで送った少女、リースとジーナだった。
「い、今のはお前らが……?」
「危ないところだったなぁ、ヒロ」
「ツルギさんが戦闘の音を聞きつけて走って行ったのでついてきました」
そして2人はツルギの横に並んでゴブリンエースに向き直る。
「グ……グゥ…」
手下を全て失ったゴブリンエースは少し後ずさりしながらもこちらを睨み続けている。
「ちょっと、ヒロ!?大丈夫!?」
「えっ……あ……」
俺はいつの間にかその場にへたり込んでいた。
体に力が入らない。
「ははは……」
「ど、どうしたのよ……」
「いや…俺は弱えなって……」
「あんた……」
今俺たちを守ってゴブリンエースに立ち向かってくれている3人はすべて年下だ。
ツルギはギルドマスターの息子で、年下にも関わらず俺たちより冒険者歴は長い。
C級冒険者でもあるので戦闘力で負けるのは仕方ない。
しかしリースとジーナはどうだ…?
この前会った時はまだギルドに入っていなかった。
多分ツルギと行動を共にしている事から、ギルドに加入できたのは間違いないのだが……
いくら不意打ちとはいえ、あんなに的確にゴブリンを倒す事は不可能だ。
差って物を思い知らされてしまった。
「馬ッ鹿じゃないの!?」
「ぐわっ!?」
その時、左の頬をアイリスに殴られた。
平手じゃなくてグーでだ。
「な、何すんだ!?」
「あんたが弱いのは知ってるわよ!D級でしょ!弱いくせに逃げずに立ち向かっといて、打ちひしがれるなんて馬鹿じゃないの!?」
「……ア、アイリス?」
「あんたは寂れた村のどこにでもいる農民の子供でしょ!それが急に村を飛び出して、冒険者になって、たった1年で強くなるわけないでしょ!」
「はぁ!?ちょっ!?」
「私は知ってんのよ!メルだって知ってる!分かってないのはあんただけなの!」
「お前……言わせておけば……!」
「……信じてんのよ……」
「……は?」
「私は……信じてるんだから…あの時の言葉を……」
「お前……」
アイリスは俯いて肩を震わせている。
「信じてるんだから……そんな事言わないでよ……」
「……すまねぇ」




