表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
終わり
4/327

新しい生命

初投稿

4話連続投稿

4投目

 目を開けてみると、白い天井が目に入った。

 先ほどまで邪神の使徒を名乗る男と話していた部屋から移動していないのかと一瞬思ったが、視線を動かしてみるとベージュ色の壁紙が張られた清潔そうな壁が目に入る。

 手を動かそうとするが、上手く動いてくれない。

 まるで血管に鉛を詰められたように重いのだ。


 その時、体を浮遊感が襲った。

 首を支えられながら、俺は自分の体を視界に入れる。

 小さな体、まんまるとした手足。

 そう、俺は赤ん坊になったのだ。


『あの司教への復讐もかねて、聖神への嫌がらせに加担する気はありませんか?』


 邪神の使徒にそう言われた瞬間、その申し出を予測していた俺は頷いていた。

 俺は諦めが悪い。

 悪徳司教が何のために俺をこんな目にあわせたのかは分からないが、人の人生を弄んでおいてお咎めなしなんて虫の良すぎる話だ。

 なんとしても後悔させてやる。

 そのために俺は転生した。

 この新しい体で何十年かかろうが必ず奴を追い詰めてやる。


 因みに、赤ん坊の体を見た瞬間、何か違和感を感じたが、それがなんなのかはよくわからないので気にしないことにした。


 抱え上げられた俺はあっという間に清潔な布にくるまれ、抱きかかえられる。

 生まれて初めて感じる人の温もりに思わず目を細めてしまう。

 思考は成熟した大人のものでも、そういった本能的なものには逆らえない。

 口から言葉にならない声が出る。

 まあ生まれたての赤ん坊の口で発する時点で言葉にはならないのだが。


「まあ。可愛らしい」


 耳に入ってきたのは聞きなれた言語。

 確か俺の生まれた国のある大陸では全ての国で同じ言語が使われていたはずだ。

 また一から言葉を覚えなおす必要はなかったようだな。

 そう思いながら俺は視線を動かす。


 目に入ったのは美しい女性の顔である。

 目にするだけで絹のようななめらかさが感じられる銀髪は肩まで伸び、その深紅の瞳には吸い込まれそうになる。

 目鼻立ちも端正で、どこか神秘的な雰囲気を感じさせる美人であった。

 俺は内心少しドキッとしてしまう。

 生前、というか前世ではこんな美人に話しかけられたことなどなかったのだ。

 おそらく挨拶でもしようものなら最初の一言目でどもってしまっていただろう。


 女性はベッドに座っており、部屋には他に人の気配はない。

 となると状況的にこの人が俺の母親なのだろうか。

 ていうか、俺は生まれたばかりのはずだ。

 部屋に助産婦や医者がいないなどあり得るのだろうか。

 違和感が……ぐぬぬ。


 その時、部屋に控えめなノックの音が鳴り響いた。


「失礼するわよ。リディ」


 いやに色っぽい、ハスキーな声が扉の向こうからしたと思うと、扉が開き一人の女性が入ってきた。

 入ってきたのはスタイル抜群で女性らしい体つきをした赤い髪の女性だ。

 仕草の一つ一つから色気やフェロモンがあふれ出しており、人間離れした妖艶さを感じる。

 いや、実際に人間ではないのだろう。

 その女性の背中からは小さな羽が生え、腰からは先がとがった尻尾が見えている。


 俺は一瞬ギョッとしたが、母さんと思しき女性が平然としている事から、その容姿はさほど問題ではないのだろう。

 まあ当たり前のことである。

 俺が転生したのはいわゆる魔族、人族の敵陣営なのだから。


「いくら昔からの友人だからって貴女に身の回りの世話をしてもらって良かったのかしら」

「いいのよ。親友の出産だもの。それにしても本当にジルド族は一人で出産できるのね。変な種族だわ。あ、私にも抱かせてー」


 赤髪の女性がそう言いながら俺の母さんに駆け寄ると俺を受け取った。

 抱きかかえられた瞬間、鼻孔を甘い香りが駆け抜け頭がボーッとした。

 ていうか、この人ヤバい!!

 母さんに抱かれていた時も安心感でフワフワしていた思考が、さらに天にも昇りそうなまでに朦朧としてくる。

 この人、悪魔族っぽい見た目だし、何か魅惑の魔法か何かでも使っているのかもしれない。

 それと、さっきから体にあたる柔らかい感触がたまらない。

 母さんも胸はある方だし、腕も柔らかいのだが、赤髪の女性の方はもっとムチムチ感がヤバく、理性が崩壊してしまいそうになる。

 いや、理性が崩壊したところで赤ん坊なんだから何もできないのだが…

 女ってこんなに柔らかくて良い匂いがするんだな。

 前世でも味わっておきたかった。


「気持ちよさそうにしてて可愛い~!流石はリディの子ね!」

「ふふ…ありがとう。それで、何か用?」

「ああ、そうそう忘れるところだった」


 そう言って赤髪の女性は俺を母さんに返す。

 うーむ、もう少し堪能しておきたかった気もするが…


「実はついさっき、あの人がいらっしゃったのよ」

「まあ!それを早く言ってよ!早くお迎えしなきゃ」

「その必要はない」


 そう言って母さんは立ち上がろうとするが、同時に開きっぱなしの扉の方向から声が聞こえた。

 その声はまるで魂にまで響いているのではないかと思うほど重量感に満ち、俺の小さな体を震わせた。


 扉の横に立っていたのは豪華な服に身を包んだ長身の男性だった。

 なぜそれまで気づかなかったのだろうという存在感。

 俺はその圧倒的なオーラに身震いまで感じた。


 男性は母さんの動きを手で制しながらこちらに歩いてきた。


「楽にしていろ。体に障るぞ」

「まあ、陛下。お構いできませんで申し訳ありません」

「堅苦しい呼び方も無しだ。ここには一人の友人として来ている」

 

 陛下。

 魔族領でそう呼ばれる人物は一人しかいない。

 五百年もの間、魔族をまとめ上げ人族に脅威を与え続ける人物。

 『憤怒の魔王』ゴーシュ・ヴェルヘルムだ。



 人族最古の歴史書にすら人族と魔族の戦争の描写はある。

 その戦いの歴史は少なくとも三千年以上続いている。

 人族は英雄とも呼ばれる王のもとに団結し、魔族は魔王に統率されて長年戦ってきた。

 その長い歴史の中でも100年もの長きにわたり魔王の座に君臨し続け、人族に甚大な被害を与えてきた歴代最凶の魔王、それがゴーシュ・ヴェルヘルムだ。

 『憤怒の魔王』という異名はゴーシュの鬼神のごとき強さに由来がある。

 魔王になったばかりの頃、彼は人族領の奥深くにまで進攻してきた事がある。

 その際の戦全てで先陣を切り、人族に大打撃を与えた。

 ちなみにその時は人族の数々の英雄の犠牲により、なんとか魔族領まで押し返せたと聞いたが、その圧倒的な強さは今でも人族の畏怖の対象となっている。

 しかしここ20年ほどは大きな動きを見せず、自分から戦争をふっかける事は無かった。

 中には死亡説まであった。



 だが、俺は邪神の使徒からその生存は聞かされていた。

 まず、俺が『外道転生』等という術を使われた遠因もこの男なのだ。

 邪神の使徒いわく、ゴーシュの存在は聖神にとって目障りらしい。

 だから俺を聖神の使徒として転生させ魔族領に潜り込ませ、隙あらば排してしまおうとしたらしい。

 まあ「計画のいたるところに綻びが見えますので、出来れば儲けものといった認識なんでしょうが」と邪神の使徒は分析していたがな。


 それにしてもこんなに早く会えるとは思わなかった。

 転生して1時間も経っていないぞ。

 会話から察するに俺の母さんは魔王の友人らしい。

 てか、母さんは何者なんだろう。

 綺麗な人だから……まさか魔王の側室とか!?

 俺まさかの魔王の息子コース!?


 ていうか魔王、見た目若すぎだろ。

 100年間魔王しているって聞いたから白髪の爺さんとか思い浮かべていたんだが、髪は黒々としていてハリがあるし、顔も30代くらいにしか見えない。

 魔族は人族と比べて数は少ないが、一般的に寿命は長い。

 見た目から年齢が判断できない良い例だなあ。


「もう、あなたったら外で待っててって言ったでしょー?」

「すまないバリス。楽しそうな声が聞こえてきて我慢できなかったんだ」


 バリスと呼ばれた赤髪の女性は親しそうに魔王と話す。

 彼女は自らの腕を魔王の腕にからめ、少々過激なスキンシップをとっている。

 魔王の何事もないような反応から、それほど珍しい事ではないのかも。

 なんてうらやま……まあ魔王だからモテるのは当然か。


「それよりリーデル、良ければその子を抱かせてもらえないか?」

「ええ、もちろん」


 そして俺が魔王に手渡される。

 さっきまでの女性の柔らかさと違い、男性特有の力強さを腕から感じる。

 ううむ……これはこれで…


(これはこれで……なんだ?)


 ッ!!!!???

 今脳内に声が響いたぞ!?

 思わずビクッとしてしまった。


 女性陣は「あら、この子怖がってるんじゃない?」「ゴーシュさん、もう少しにこやかにした方がいいんじゃないですか?」とか楽しそうに話しているあたり、聞こえていないようだ。

 でも、今の声どこかで聞いたことあるような……


(急に話しかけてすまないな。驚かせてしまったようだ)


 いや、ホントまったくだよ。

 あれ……ていうかこの、腹の底にまで響いてくるような力強い声……


(私だ。今お前を抱いている男だ)


 そこで、俺は視線を動かし魔王と目が合う。

 え、マジ?


(マジだ。今は直接念話で話している)


 あ、そうですか。

 いやー本日はお日柄もよく……

 ってええ!?


(その様子では私のことを知っているようだが、まずは自己紹介だな。私はゴーシュ・ヴェルヘルム。魔王だ)


 あ、はい……はじめまして。


(一応、古き友から此度の経緯やお前の状況を聞いている。我々の戦いに巻き込んでしまったようだな)


 古き友……もしかして邪神の使徒?

 

(ふむ、奴はそう名乗ったのか。確かに言いえて妙だな)


 え、えと……魔王…陛下は俺にどういったご用件で?


(別に無理して陛下と呼ぶ必要はない。古き友から外道転生の話を聞き、友人が子を産んだということで、もしかしたら…と思っただけだ)


 えっと……ここに来たっていう事は、俺が転生者で記憶を持っていることをここの…母さん?には話すんですか?


(私からは特にそういった事をするつもりはない。前世の記憶があるからといって子の扱いを変えるような女性ではないが、無用な心配をかけるやもしれぬからな。ここに来たのは単純にお前に会ってみたかったからだ)


 そこで陛下は俺をその大きな手で撫でてくれる。

 少しごつごつしているが気持ちいい。


(お前は私の友人の子であるし、私からも出来るだけ目をかけよう)


 それじゃあ、一つ聞きたいことがあるんですが…


(なんだ。言ってみよ)


 邪神の使徒は俺にこう言いました。

 「ミリアーナという人物が鍵だ」と。

 探そうにも名前だけじゃあ人違いすることもあるし、何か心当たりはありませんか?


(………)


 ……陛下?


(なるほど。古き友も面白いことをしてくれる……)


 陛下はニヤリと口端を上げる。


(確かにその名前には心当たりがある。いつか、必ず会わせると約束しよう)


 本当ですか!?

 お願いします!!


(ああ。)

「ねえ、あなた。そろそろ私にも抱かせてよ」

「うむ。もう少し待ってくれ」

「ずるいわー」


 バリスと呼ばれた赤髪の女性が俺を陛下の腕から奪い取ろうと手を伸ばすが、陛下はそれをヒョイっと避ける。


(そろそろ時間だな。妻が我慢できないようだ)


 まだいくつか聞きたい事があるんだがな。

 ていうか、この赤髪の人、やっぱ魔王のお妃さまだったのか。


(また時間を見つけて様子を見よう。それと、魔族の子供は成長が速い。一か月ほどで喋り始めても『頭のいい子』程度にしか思わないから覚えておくといい)


 そして魔王陛下は俺を奥さんに手渡す。

 一か月とはこれまた速いな。

 やはり人族の常識を魔族にそのまま当てはめるのはやめておいたほうが良いな。


 赤ん坊の本能に逆らえずバリスさんの腕の中で気持ちよさそうにする俺を魔王陛下は暖かい目で見つめると、

「私は公務もあるからこれで失礼しよう。最後にリーデル、この子に名前を授けさせてくれないか?」

とおっしゃった。

 母さんはパアッとまぶしい笑顔を咲かせた。


「まあ!魔王陛下直々に名前を授けてくださるなんて、この子もきっと喜ぶわ!」

「どういう名前にするか……」


 魔王陛下はチラッと窓の外を見る。

 窓の外は庭となっており、白い花が花壇に咲き誇っている。


「よし、シルフェリオンなんてどうだろうか」

「シルフェリオンの花にちなむのね。いいんじゃないかしら。確か花言葉は…」

「『不変の愛』……」


 母さんが呟く。

 シルフェリオンはこの大陸のごく一部に原生する不思議な花だ。

 一年中、どんな場所でもその白い花を咲かせる。

 だから花言葉は『不変の愛』。

 確かに良い花ではあるが、ちょっとくすぐったいし仰々しすぎないか。


「よし、あなたの名前はリーシア・シルフェリオン・ジルドよ。よろしくね。リース」


 そうしてリーシア・シルフェリオン・ジルドは誕生した。


 ……ん、リーシア?

 

 ここで俺は違和感の正体に気づく。


 『俺』って……『私』だった……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ