鬼のギルドマスター
「リディの娘……ね。確かにあの子の小さい時にそっくりだ」
母さんからの紹介状を読んだギルドマスターはニヤリと笑ってそう言う。
通されたのはギルドマスターの部屋だ。
色々重要そうな書類がたくさんあるのは今まで会った偉い人の部屋と全く同じだが、この部屋の壁には立派な剣や斧が飾られていた。
ギルドマスターは自分の椅子に座り、私たちはその机の前に立つ。
「あまりにも似過ぎていたから、あの子が小さくなったのかと思ったよ」
「そんなバカな」
「いいや。あんたらジルド族は得体が知れないからねぇ。あり得ると思ったんだよ」
酷い言われようだな。
「そっちの子は?」
「ご、ご挨拶が遅れました!ジーニスタ・ロールクレインです!」
「ロールクレインっていうと……ゾルドの血族かい?」
「はい。祖父です」
「祖父!……くっくっくっ。あいつも孫が出来てるのか……まぁ100歳は超えてるからねぇ」
「あの……えっと……」
急に笑い出したギルドマスターに対して、どうしたらいいのか分からないジーナはオロオロする。
「ああ、まだ名乗ってなかったね。ベルルの冒険者ギルドのギルドマスター、ツバキだ。見ての通り鬼人族だから苗字はない。よろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
「ちなみにこの人はあの第七軍団長クサナギさんの奥さんだったりする」
「ク、クサナギ様!?」
「ウチの旦那を知っているのかい?」
「そ、それはもう!」
私は母さんから聞いていたが、初めて聞いたジーナの驚きっぷりとらいったら。
まぁゴルドに住んでて『羅刹のクサナギ』を知らない方がおかしいだろう。
特にジーナの場合、彼女の父も軍団長の1人なので聞いた事ないはずがない。
「ははは。まぁ年に数回しか家族に顔を見せない仕事人間だがねぇ」
「そういや、私の母とはどういった関係なんですか?」
「なんて言ったらいいだろうねぇ……喧嘩仲間、悪友、腐れ縁……そんなところかね?ま、色々あったんだよ。100年以上も生きてるとね」
鬼人族の平均的な寿命は300年と言われる。
ツバキさんも見た目は美しい女性だが母さんと同世代らしいので100年以上は生きてるはずだ。
大体人族に換算すると30歳くらいかな?
それでもまだ若く見えるなぁ
「で、この手紙に書いてある通りだと、あんたは冒険者になりたいわけだ。ジーニスタも一緒かい?」
「はい!」
「いいよ。D級としてすぐに登録しよう」
「えー。D級ですか?」
「なんだい、不服かい?」
「早いうちにC級になっておきたいんですが?」
「それは言ってる意味分かってるんだろうね?」
もちろん、百も承知だ。
「リ、リースさん一体?」
「あ、ジーナは知らないか?冒険者にはランクがあってな」
「冒険者のランクはD級からS級まで。それぞれのランク毎に権限があるんだ。あんた、街に入る時に身分証を見せろと言われなかったかい?」
「はい。無かったのでお金を払いましたが…」
「ウチは金さえ払えば入れるんだけど、街によっては身分証が無いと入れないんだ」
「でも冒険者証さえあれば……」
「残念ながらD級じゃ発行した街、または国でしか身分証としては役に立たないんだよ。他の地域でも通用させるにはC級以上じゃないといけないね」
「そうなんですか……」
冒険者ギルドカードはギルドで登録さえすれば簡単に入手できる。
流石にそんなに審査が緩いものがどこの街でも身分証として通用するなんてうまい話はない。
「確かにアタシにはランクを引き上げる権限があるけどねぇ。ギルドの信用に関わるからそう簡単にホイホイと上げるわけにはいかないね。実力に加え実績が必要なんだ。ゆっくり上げるしかないよ」
冒険者ギルドカードを持った者がある街で何か問題を起こせば、そのままギルドの信用問題に発展し、身分証として成り立たなくなる可能性がある。
だからギルド側もランク上げには慎重になる。
「そうか。聞いてみただけです。全く問題ない」
「そんなに早く実績が欲しいのなら仕事を紹介してあげないこともないけどねぇ。ちょっと待ちな」
ツバキさんは机の傍らに置いてある通信水晶に手を伸ばした。
魔力さえあれば誰でも使える魔法具の1つ、通信水晶だ。
「すまないが、2人分のD級ギルドカードの発行の用意を。それと昨日の案件の書類をツルギに持って来させてくれないかい」
『承りました』
水晶からさっきの受付嬢の声がした。
受付と繋がっているらしい。
「サービスだ。発行費用は免除してあげるよ」
「ありがとうございます」
「その代わりと言うわけでもないんだが、1つ頼まれてくれないかい?」
「頼みですか?」
「あんた達、ある程度腕は立つんだろう?」
「まあな。少なくとも今下にいた奴らよりかは」
「はは。直球だねぇ」
その時コンコンと扉がノックされた。
ツバキさんが返事をすると、さっきのツルギと呼ばれた少年が1束の資料を持って現れた。
「ギルドマスター、お持ちしました」
「ご苦労さん」
ツルギは机の上にその資料を置いた。
私と目が合うと軽く会釈をしてきたので私も会釈で返した。
「では僕はこれで……」
「ツルギ、あんたにも話があるから残りな」
「僕もですか?」
ツルギは怪訝そうな顔をする。
対照的にツバキさんは面白そうな表情だ。
「ツルギ、リーシア、ジーニスタ、あんたら3人でパーティを組みな」




