自由都市
「へぇ、じゃああなた達はゴルドから来たのね」
「ああ。冒険者になって色々見て回りたくてな」
ビルの町の宿屋の一室、四人用の大きな部屋で私達は荷物を下ろした。
ちなみにヒロは一人部屋だ。
内装は中の下ってところ。
まあD級冒険者らしいし、少し奮発してくれた方だろう。
四人部屋なんてどれくらいしたんだろう。
私はこの手の宿には慣れているが、良いところのお嬢様のジーナは平気だろうか、と一瞬考えたが杞憂だった。
ていうかここ数日は普通に野宿してたしな。
お嬢様にしては肝が座ってらっしゃる。
「でも何でこんな辺鄙なルートを通ったんですかぁ?」
「だから予行練習みたいなもんだって…」
「なぁんか納得いかないですねぇ……」
「メル!……事情をあんまり詮索するのは良くないわよ」
「えぇ……でもぉ」
「人には触れて欲しくない事の1つや2つあるものよ……」
なんかコソコソと喋っているが丸聞こえだ。
私達が止むに止まれぬ事情で森を通ってきたと勘違いしているようだ。
まぁ訂正するのも面倒なので放っておくが。
「よいしょっと」
ジーナは背中の長剣を下ろして手入れを始めた。
手入れの方法は祖父から習ったらしく、旅の間もまめに行っていた。
「ジーナ、あなたの剣凄いわね……少し触っても良い?」
「あ、はい。どうぞ」
戦士として気になるのだろうか、アイリスがジーナの長剣に興味を示した。
ジーナも特に嫌がる様子は見せずに長剣を手渡す。
「うっ……重い!こんなのよく持てるわね……」
「そうですか?もう少し重量が欲しいくらいですが」
「そういえばさっきヒロ君を縛っていた縄もすっごく固かったですぅ。あれもジーナさんが?」
「はい……咄嗟に身体が動いてしまいました……」
「ジーナは凄い力なのね……もしかして魔族?」
「はい」
あ、言っちゃった。
私は視線だけ動かしてアイリスとメルの動きに注目した。
目や顔の筋肉の動き、発汗の兆し、手の挙動。
全てに異常は見られなかった。
ふぅ、と一息吐く。
「リースも?」
「ん?ああ、そうだ」
ジーナがバラしてしまったので私も正直に言う事にしたが、あまり魔族だとかは言わない方が身のためではある。
聖神教をはじめとして、人族には魔族をよく思わない人間が少なからずいる。
そんな中、魔族である事をバラしてしまうのは、余計な諍いに巻き込まれてしまうだけだ。
まぁこの辺りはゴルドに近いので、そんな奴も滅多にいないだろうが、私やジーナは見た目は人族とそう変わらないので、紛れ込むに越したことはない。
また後でジーナに注意しておこう。
「だからそんなに力が強いのね」
アイリスは長剣をジーナに返した。
彼女が両手でやっと持っている長大な剣をジーナが片手で受け取る、なんか滑稽だなぁ。
まぁジーナは年の割には大人っぽいので同い年くらいに見えるが。
話を聞いてみると、ヒロを含めたこの3人は11歳らしい。
ミラと同い年だ。
「私はまだまだですが、リースさんはすっごくお強いんですよ」
「ふふ、そうなの。でも森に入るとか、あんまり無茶はしちゃいけないわよ。2人とも可愛いんだから悪い人に狙われる事もあるわ」
「お2人は本当に可愛いですよねぇ!ジーナさんの黒髪はサラサラですし、リースさんの銀髪はツヤツヤですぅ」
「あっ!ちょっ!触るな!」
「良いじゃないですかぁ〜減るもんじゃああるまいしぃ」
メルが私に抱きつき、髪をさわさわと撫でてくる。
頭を押さえて引き剥がそうとしたが、離れそうにない。
ていうかコイツすっげぇ力だぞ!
「へへへぇ。逃がしません」
「ちょっ……!つよ……!」
「諦めなさい。そうなったメルは止められないわ」
「はっ!?いや、ちょっ!?助けて!!」
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前世のレジスタンス時代、数多の酷い宿に宿泊してきた私からすれば、この宿は快適な方だった。
飯も不味くないし、ベッドも最低限には清潔だ。
すぐ近くには集会浴場があるから風呂にも困らない。
ジーナもそれなりに満足していたようだ。
そしてビルの町で一晩明かし、大陸横断街道を西に向かった。
きちんと整備された街道なので、昨日までの森よりかは遥かに歩きやすい。
金さえあれば馬車に乗ってもっと楽にベルルに向かえるのだが、これ以上の贅沢は言うまい。
母さんから貰った路銀にも限りがあるし。
そして朝一から日暮れ近くまで街道を進んで、やっと自由都市ベルルにまでたどり着いた。
自由都市ベルルは西部、北部、東部、中央部への続く街道の交差する場所に位置しており、中央大陸の交易の要である。
また、広い平野に位置し土地も肥沃なので、周囲の村々では麦が大量に栽培され、ベルルから大陸中に行き渡る。
大陸の大穀倉地帯なのだ。
また、どこの王国にも属さない自治都市である。
その独立性を守るため独自の軍事力も持っているらしい。
外壁も立派なものだ。
門では身分確認をされる。
D級冒険者であるヒロ達はそれを見せるだけでパスできるが、私達は身分証を持っていない。
入るのに1人銅貨1枚を払わなければならなかった。
大きな門をくぐり都市に入ると、その活気に驚かされた。
日没間際にも関わらず、露店が並び、大通りは賑わっていた。
ゴルドも人は多いが、ベルルはそれよりももっと雑多な感じがする。
だがこういう雰囲気も悪くないな。
「私達は今日中にギルドに戻って報告をするけど、あなた達はどうする?一緒に来る?」
「どうしますか、リースさん?」
「まぁ急ぐものではないし、日も落ちそうだから今日は宿を取る事にするよ」
「今日中に登録すればギルドの宿が使えるぞ?」
「まぁ多少は金もあるし。明日も色々見て回りたいからな」
「そうですかぁ。残念ですねぇ」
「リースがそう言うなら仕方ないわ。また何処かで会いましょう」
「ああ。世話になったな」
「お世話になりました」
「何か困った事があったら俺に相談してくれよ!」
「そうですよぉ。遠慮しなくてもいいんですからね」
そう言ってヒロ達と別れた。
私達はその後宿屋街を探して、昨日と同じくらいのランクの宿で二人部屋をとった。
「何もかもゴルドとは雰囲気が違いますねぇ」
「人族領の方が人口が多いからな。こういう街も沢山あるから慣れないとな」
「そうですね。人混みで少しだけ疲れました」
ジーナはゴルドから出た事ないから無理もないな。
私は慣れたものだが。
「今日ギルドに行かなかった理由というのは本当にさっきのとおりなんですか?」
「ああ。色々見て回りたいってのは本当だ。それと、私は母さんからベルルの冒険者ギルドマスターに紹介状を貰ってる」
私は荷物から封筒を取り出した。
表には母さんの署名がしてある。
わざわざこんなの書いてくれなくても良かったのになぁ。
まぁ親として子を思っての事だろう。
「ギルドの業務終了間近に行くのも失礼だろう。明日の昼ごろに行こう」
「私もお父様から書いてもらえば良かったかもしれませんね」
「そういうの書きそうな性格じゃなさそうだがなぁ」
「リースさん、会った事があるんですか?」
「ああ、まあな……」
あのおっさんが私にザリに嫁いで欲しいとか言ってきたせいで、ミラとの話が変な方向にいったんだよな……
まぁ別にいいんだが……
「疲れただろう。もう寝よう。あ、鍵はきちんとかけておけよ。こういう街は治安が悪いから」
「はい、わかりました」




