D級冒険者
「ウチのバカが本っ当にごめんなさい!」
「ヒロ君はやんちゃそうに見えるけど、正義感の強い良い子なんですぅ。だからきっと誤解なんですぅ」
突然現れた金髪の少女と黒髪の少女は事情を知るとひたすら頭を下げて謝罪してくれた。
「よしてくれよ……まぁ警戒を怠ってた私にも非はあるし……」
「私も少し頭に血が上ってました……」
事情を説明している間に私とジーナも頭を冷やす事が出来た。
落ち着いて考えてみれば、さっきの少年の慌てた反応からは故意を感じない。
まぁ故意があれば本気で八つ裂きにしているが。
「ほら、アンタも頭下げなさい!」
「いや、だからこれは事故なんだって!」
「事故だろうが何だろうが、悪いのはアンタよ!謝りなさい!」
金髪の少女は、まだ木に括り付けられているヒロと呼ばれた少年の頭を押さえつける。
「えっと、ヒロ…さん?はどうしてここに?」
「こんな危ない森の中で女の子の声が聞こえたんだ。冒険者として放ってはおけないだろ?」
ほう、冒険者なのか。
それにしては幼……いのは私達も同じか。
少女達にも話を聞いて状況を整理してみた。
このヒロという少年は少女達とはぐれてしまい、森の中を彷徨っていた。
その時、森の中で女の子の声を聞いた。
私達の声だ。
この森はキラーベアー等の獰猛な魔物が多数生息する危険な森だ。
そんな森に女の子がいるなど、危険すぎると思ったヒロは正義感に突き動かされて声のする方に向かってきたというわけだ。
その後は私達の見た通り。
「確かに事故っぽいなぁ」
「そうなんだ!俺はアンタらを心配して……!」
「でもアンタが覗いちゃったのは事実でしょうが!謝りなさい!」
少女が一段と強くヒロの頭を押さえつける。
ヒロは木に括り付けられているため力を逃せず首が辛そうだ。
「痛い痛い!分かったよ!………ごめんなさい」
「ねぇ、コイツもこう言ってるし、ここはどうか許してくれないかしら?私達も謝るわ。この通りよ」
「あ、頭を上げてくれよ!……はぁ、分かったよ。今回は水に流すから!ジーナ、縄を解いてやってくれ」
「はい」
ジーナがヒロを縛る縄を解いてやる。
解放されたヒロはヒイヒイ言いながら首を押さえている。
「恩にきるわ。私はアイリス。こっちのおっとりとしたのはメル。で、このバカがヒロよ。全員D級冒険者よ」
「私はリーシアだ。リースと呼んでくれ」
「ジーニスタです。ジーナと呼んでください」
自己紹介の流れなので私達も名を名乗る。
金髪の少女がアイリス、黒髪の少女がメル。
んで、この少年がヒロか。
「ところで、あなた達はどうしてこんな所に?ここは魔物も出る危険な森よ」
「はわわ。何か陰謀的なものに巻き込まれたのですかぁ?」
メルは口調とは裏腹に目を輝かせながらそう言ってきた。
「いや、ゴルドからベルルに向かう途中だ」
「でも普通ゴルドからなら北の街道を北上した後、大陸横断街道を使いませんかぁ?やっぱり街道を使えない深い理由が……」
メルはさらに目を輝かせ、鼻息荒く顔を近づけてきた。
見かけによらずこういった陰謀的な話が好きなのだろうか。
「いや、本当にそういうのじゃなく。ベルルで冒険者登録をするから、それまでの腕試しというか予行練習というか、本当にその程度なんだ。なぁジーナ」
「はい」
「むむむ……怪しいですぅ」
「止めなさい。メル」
アイリスがさらに追求しようとしてくるメルの首根っこを掴み制止してくれた。
やましい事は何もないのだが、助かった。
「あなた達の言葉を信じるけど、それでも無謀すぎないかしら?冒険者になるって言うのなら最低限武術の心得があるんでしょうけど、この森にはダガーウルフやキラーベアーとか危険な魔物がうじゃうじゃいるわ。それに出くわしたらどういうつもりだったの?」
「いや、さっき大きな熊に……」
私はジーナを小突いて言葉を遮る。
多分「キラーベアーなら倒した」って言おうとしたんだろうが、今それを言っては話がこじれそうだ。
「さっきすぐ近くでキラーベアーの死体があったわ。キラーベアーを倒せるような強い魔物がいるに違いないわ」
「キラーベアーが!?マジで!?」
「そうなんですよぉ、ヒロさん!キラーベアーなんてC級冒険者ですら倒せるか分からないくらい強いのに、それが無惨に殺されてたんですよぉ」
あ、それ私達です。
なんて言えるわけないよな。
ていうかこの感じだと信じてもらえないだろ。
まぁキラーベアーは一般的に化け物の部類だからそれがまともな反応か。
「一刻も早くこの森から出るべきだわ。そして、帰ってこの事をベルルのギルドに報告しないと。あなた達もベルルに来るのよね?私達が送り届けてあげる。一緒に来なさい」
「え、ああ……私達は……」
「それがいいな!迷惑かけちまった詫びだ!絶対無事にお前たちを送り届けてやるぜ!」
私はジーナと顔を見合わせた。
(話が妙な方向に進んでますね……)
(はぁ…仕方ないな。ここは流れに任せよう)
まぁ私達に損はないしな。
「ああ。じゃあお願いするよ」
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「下がっていて!私達が片付けるわ!」
「任せとけ!」
「あ、あの……」
「ジーナ、任せよう」
ヒロ達と合流してベルルを目指して数時間。
もうすぐ森を出るというところで巨大な蛇、ヴァイパーに出くわした。
ヴァイパーは鋭い牙に毒を持っている魔物だ。
強さ的には、単体のダガーウルフより強く、群のダガーウルフより弱いくらい。
ヒロ達がどれくらいの実力かは知らないが、まぁ3人もいれば大丈夫だろう。
危なくなったら助けに入るし。
3人の陣形はヒロとアイリスが前衛、メルが後衛だ。
得物はヒロが両手剣、アイリスが片手剣と小盾、メルが杖だ。
バランスがいい構成だな。
「メル!魔法をお願い!ヒロ、行くわよ!」
「おう!」
「シャーーー!!」
ヴァイパーが鋭い息を吐きながら前衛のアイリスに牙を剥き襲いかかる。
アイリスはそれを盾で受け止めた。
そして左手にもった片手剣で斬りつける。
「てやぁ!」
「シャッ!!」
だがヴァイパーは身を翻してそれを避ける。
ヴァイパーは動きが機敏で独特だから攻撃を当てにくいんだよなぁ。
「メル!」
「…………水の精霊よ、その力を解き放ち、清廉なる水の力で敵を弾き飛ばせ!『水弾』!」
メルの杖から『水弾』が飛ぶ。
だがその速さはそう速くはない。
ヴァイパーは軽々と避けてしまった。
だがそれも計算づくらしい
「今よ!ヒロ!」
「たぁぁぁぁ!!」
水弾を避けた先で待っていたのは、両手剣を大上段に構えたヒロだった。
2人の攻撃はこの攻撃のための布石だったのだ。
ヴァイパーは避けれる体勢ではなかった。
「うおりゃ!」
「ギャッ!!」
ヴァイパーは短い断末魔をあげ、首を飛ばされ絶命した。
見事な連携じゃないか。
「ふぅ。なんとか倒せたわね」
「よっしゃ、素材を剥ぎ取ろうぜ!」
「バカ!そんな暇ないでしょ!リース達を早く送り届けないと危険だわ!」
「えぇ〜でも勿体ねぇよ〜」
「人命最優先ですぅ!」
「待たせたわね、行きましょう!」
「あ、ああ」
アイリスが渋るヒロを引きずって先を目指す。
別に急ぐ必要ないんだけどなぁ。
言うタイミングを逃してしまった。
「ビルの町までもう少しよ!」
「ビルの町?そんなのあったか?」
私はこの辺りの地図を思い浮かべる。
家にあった世界地図にはこの辺りに町など書いてなかった。
「最近出来た小さな町ですからねぇ」
「でもビルが出来たおかげで、この森での依頼が楽になったんだぜ!」
森を抜けた先にあったのは小さな町だった。
大陸の中央を横断する大陸横断街道のほとりに出来たビルの町は南部を森と接する宿場町だった。
ここは自由都市ベルルと魔帝国の第2の港町、シタールのベルル寄りに位置しているようだ。
確かに2都市間には宿場町が少ないし、冒険者が森で素材を集めるのにも便利だ。
こんなところに新しい町が出来てたとはなぁ。
町の入り口の門をくぐる。
特に身分確認などもなく通過できた。
町は東西へ向かう行商人で溢れかえっていた。
シタールやゴルドで西の大陸から輸入された物、逆に輸出する物、両方が集まるのだ。
中には見た事のないものもあって、私とジーナは時々目を奪われてしまった。
「もうすぐ日没だわ。今日はこの町に泊まりましょう」
「ですねぇ」
「宿はいつもの所にするか!」
「リース達も一緒に来なさい。お代は気にしなくていいわ」
「そんな、悪いです……」
「いいのよ。お詫びの意味もあるし、何よりもあなた達も冒険者になるんでしょう?少し話を聞いてみたいわ」
「そうですぅ。お2人の秘密を暴いてやりますぅ!」
「そういうこのならお言葉に甘えさせてもらおう、ジーナ」
「リースさんがそう言うのなら……」
「じゃあヒロ!大部屋を1つと小部屋を1つ、いつもの宿で先に取ってきて」
「な、なんで俺が……」
「つべこべ言わない!」
「分かったよ……」
ヒロは渋々と言った様子で走っていった。
ヒロはアイリスに頭が上がらないみたいだなぁ。




