旅の始まり
第三章始動!
「じゃ行ってくるよ」
「きちんとお手紙を書くのよ。リース」
「分かってるよ」
「お兄様そんなに泣かないでください」
「な、泣いてなんかない!ジーナがあれだけ行きたいって言ったんだ、止めるような事しないぞ!」
「ロザリエルト様、こちらのハンカチで涙をお拭きください」
「だから泣いてない!」
時は早朝。
日が昇ろうかという時間故に、私の屋敷の外の森は随分静かだ。
だがそんな中でも私の屋敷の前は騒がしい。
「ザリはミラとアンナと一緒に学園に行くんだったな。ミラのこと頼んだぞ」
「当然だ!君に言われるまでもない!僕はミリアーナ様の護衛だぞ!」
「アンナ」
「はい。ミリアーナ様の事は私にお任せください」
「おい!僕の話を聞け!」
私の旅立ちの見送りをしてくれるのは母さん、ザリ、アンナ、そして……
「ミラ、行ってくる」
「む。妾には何も言わないかと思ったぞ」
「そんなわけないだろ」
「うむ。分かっておる。それだけ妾を特別に考えてくれておるのだと受け取ろう。だが少し寂しくもある故、次からは最初と最後に挨拶せよ」
「2回もする必要ないだろ」
本当に訳わからない奴だな。
「妾の妹として家臣として、しっかり見聞を広めてくるのだぞ」
ミラはすくすくと成長中の胸を張ってそういう。
「家臣」という言葉に私はピンときた。
ここは少しからかってやろう。
「承りました。姫様の家臣の名に恥じぬよう、存分に精進して参ります」
私はミラの前に跪き、その白い美しい手を取り、甲にキスした。
前世でこういう礼がある事は知っていたが、実際にしてみたのは初めてだ。
さぁどんな顔をしているか……
「うむ」
急に仰々しい事をして困らせるつもりだったのだが、彼女は案外平気な顔をしていた。
やっぱり姫様だからこういった扱いには慣れているのだろうか。
私は内心ため息をつきながらも立ち上がる。
「じゃあ!また向こうについたら連絡するよ」
「皆様、行って参ります」
「……アンナ、しばらくは手を洗わんぞ」
「そうはいきません」
「あっ!止めろ!ハンカチで拭くではない!」
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「それにしても本当に良かったのか、ジーナ?ザリのあの様子を見ると随分大変だったように思えるけど」
「全く問題ありません。まだまだリースさんに教えていただきたい事もありますから」
「そうか。まぁそこまで言われたら仕方ないな」
「ところで、確か目的地は自由都市ベルルでしたよね?」
「ああ。そうだ」
「このまま森を行くんですか?」
私達は皆に見送られた後、まっすぐ北東の方角の森に足を踏み入れた。
時間も時間だし、魔物の気配も薄い。
「まぁ普通はゴルドから北に向かってから東に向かう街道に出るよな」
「ええ。ベルルに向かうと聞いて私もてっきりそうなのかと……」
「ゴルドから北東真っ直ぐ森を突っ切っても行けるぞ。しかも最短距離だ」
特に急ぐ旅ではないから最短距離を行く必要は全くないんだが、ジーナもいるしせっかくだからサバイバル術についても教えておきたいってのも理由の一つだ。
前世では森に潜伏なんて普通だったからその辺りの知識も豊富だ。
でも1つ前世と違う事があるな。
スカートで森は歩きにくいという事だ。
私は今膝まで見えるような短いスカートだ。
母さんにこれが最後だから、とこれをはかされたのだ。
いつもスカートなんてはかないから歩きにくい事この上ない。
ジーナも同様にスカートだが、歩きにくくはないのだろうか?
まぁ些細な事だ。
「私に任せてくれ」
「はい!」
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その後はゆっくり歩きながらも順調に旅は進んだ。
食料に最適な魔物やその捌き方、野営の仕方、その他色々な事をジーナに教えた。
ただ料理だけはジーナの方がはるかに上だった。
私の料理はいわば男の料理。
肉を焼くだけ。
旅でわざわざ手間をかけることないからな。
それを見たジーナが何処からか調味料と調理器具、そして途中で採取したハーブなどを取り出し、調理を始めた。
「時間がかかるからいい」って言っておいたのだが、ジーナは驚くべき手際の良さであっというまに肉に味付けをし、野菜も取り入れたスープを作ってしまった。
しかもこれがまた美味いのだ。
この環境でこれほどのものを作り出すとは……これが女子力というものか。
私もジーナから料理を学んだ方がいいのか?
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「来るぞ」
「えっ……あ、はい!」
仕方のない事なのだが、ジーナはまだ敵の気配に鈍感である。
前に迷宮に潜った時はアンナがいたから全然苦でもなかったが、今回はそうはいかない。
少しずつ感覚を養っていかなければな。
「グワァァ!!」
現れたのは大人の男より大きい熊。
キラーベアーだ。
人を見たらすぐに襲いかかってくるほどに凶暴な性格で、強靭な肉体を持つ。
この辺りの森では間違いなく一番強い部類の種族だろう。
「ジーナ!」
「はい!」
ジーナは腰から長剣を抜いてキラーベアーの爪振り下ろしを受け止める。
旅の間は何が起こるか分からない。
だから出来るだけ魔力を温存して戦う訓練をしている。
……ていうかあの攻撃受け止めれるのか……
キラーベアーの攻撃って人族の男でも受け切れたものではなかったはず。
それをこんな少女が……
ゴルドで色々教えている時から薄々感じてはいたのだが、ジーナは物凄い膂力を持っている。
私自身も、既に前世の時と同じくらいの膂力はある。
魔族自体が人族より肉体的に強く出来ている。
だがジーナは私よりさらに力がある。
まぁ家系ってのもあるだろうが。
ジーナの父や祖父の様子を見るに、戦士系の家系だし。
私は多分魔術師系だから力が弱い方なのだろう。
それと、あの長剣も気になる点ではある。
ザリが使っているような、王道の長剣なのだが、よく壊れないよな……
丈夫だなぁ。
「てやぁ!」
ジーナは掛け声と共にキラーベアーの腕を弾き返し、返す刃で斬りつける。
だがキラーベアーは恐ろしく俊敏な動きでそれを避ける。
「グォォ!!」
キラーベアーの動きは巨体の割に機敏である。
中々攻撃が当たるものではない。
それに加え、ジーナは力は強くても剣術は未熟だ。
多分私の教え方が悪いだけなのだと思うが、いつかきちんとした人に教えてもらうしかないか。
「くっ!」
「グォォ!」
キラーベアーが雄叫びを上げて突進をする。
対するジーナは長剣を空振り、少し体勢が崩れていて避けれそうにない。
助けに入るか。
私は2人の間にスッと滑り込んだ。
「『空絶』!」
少しタイムラグと共に私の周囲の空気が揺らめく。
そして私の5倍はあろうかという重さのキラーベアーの巨体を見えない壁が受け止める。
効果はきちんと出るようだが、やはり発動までにラグがある。
母さんとの時みたいにはいかない。
「ジーナ!」
「はい!」
私の合図とともに、ジーナが背後から飛び出し袈裟型に長剣でキラーベアーを切り裂き、血しぶきが舞った。
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「魔力を温存しろって言ったけど、使わずに死んだら意味ないぞ」
「はい……すみません」
「まぁ使い方をゆっくり覚えていこう。それにしても……」
ジーナの全身を見る。
キラーベアーの返り血だらけだ。
服にはあまりかかっていないが、髪や顔がベトベトだ。
「返り血がすごいな。向こうに行ったところに水場があったからそこで水浴びでもするか」
「この死体はどうしますか?」
ジーナがキラーベアーの骸を指差す。
「ああ、こいつはダメだ。肉に臭みが強くて食えたもんじゃない。ほっとけ」
「分かりました」
本当にキラーベアーの肉は不味かったなぁ……




