試験対策
少し時間は戻ります
ザリ視点
「ぐっ……!」
「はっはっは!どうしたザリ!こんなもんかよぉ〜」
僕は目の前の銀髪の少女を見上げる角度で睨む。
「い、今のは少し油断しただけだ!まさか足下を土魔法で崩してくるなんて……!」
「はっはっはー!それも実力だ!これでオレの286勝だな!」
リーシアは僕より年は下だ。
背も低いし、力も弱い。
近接戦では僕の方がポテンシャルは明らかに高い。
だが未だに彼女に勝ち越す事は出来ない。
僕なりにその動きを研究するが、未だに攻撃のバリエーションの底が見えないのだ。
ある時はフェイントで嵌められたし、ある時は急に懐から取り出した魔銃で魔弾を撃ち込まれた。
そして今日は、剣の踏み込みの瞬間に地面を土魔法で変化させ、態勢を崩された。
彼女は毎回違うとっておきを用意している。
完全に手玉に取られていた。
「で、でもここ1ヶ月では僕の19戦8勝11敗だ!あともう少しで勝ち越せるんだ!」
「そ……それは……そういうのは総合で勝ち越してから言えや!」
「何!?それならもう一度……!」
「お主らずっとそればっかりじゃの〜もう日暮れじゃぞ」
「お兄様、これぐらいで……」
「ミ、ミリアーナ様!?」
いつの間にいらっしゃったんだ!?
全く気づかなかった!
「おうミラ!オレの魔法どうだった?」
「うむ。素晴らしいタイミングじゃったぞ。しかし心なしか少し遅かったの」
「うーん。これ以上は中々詠唱が速くならないんだよな〜」
この少女はミリアーナ様に対して、かなりフランクに話す。
最初の方は一々注意していたが、もう止めた。
全く改善の兆しが見えないからだ。
ミリアーナ様もこういうリーシアの態度が気に入っているのもあると思うし、僕が口を出すものではない。
「確かに少し暗くなってきたな。今日はこれぐらいで終わるか。ザリ、ちゃんと鍛錬しとけよ」
「き、君に言われなくても!」
--------------------
「のうザリ」
「はっ、何でしょうか?」
城への帰り道、ミリアーナ様に話しかけられた。
リーシアとは方向が違うので別れた。
今はミリアーナ様と僕とジーナの3人だ。
「妾は来年から学園に行くことになったのじゃ」
「おお!おめでとうございます!」
ミリアーナ様は魔帝国の未来を背負って立つお方。
予想していた事とはいえ、喜ばしい事だ。
「お主はどうする?」
「そ、それはもちろん、護衛としてお供いたします!」
「うむうむ。お主ならそう言うと思っておったぞ」
「ミリアーナ様……」
僕にそこまでの信頼を置いてくださっていたとは……
護衛としてこれほど嬉しい事はない。
「お兄様、良かったですね」
「ああ!ありがとうジーナ!」
あまりの感動に涙が出てしまいそうだ。
だがミリアーナ様の御前、ここは耐えねばなるまい。
「む……そこまで喜ぶとは……してザリ」
「はっ!」
「お主、学園の入学試験の魔法は大丈夫なのかの?」
「………は?」
--------------------
セリーア魔法学園は魔法学園と名がついてはいるが武術の授業もある。
設立当初は魔法の学校だったのだが、次第にそれ以外の要素も取り入れて総合的な学園となった。
今は魔法学園とは名前だけだ。
しかしその入学試験では魔法の試験が残っている。
とはいっても初級魔法が使えるかどうかというものだ。
詠唱の長さは基準ではないのでどれだけ長い詠唱を使っても構わない。
これで落ちる受験生はほとんどいない……のだが
「どうしよう……」
僕はゴルドの図書館のテーブルで頭を抱える。
テーブルにはいくつもの魔法の入門書が置かれている。
どれもごくごく初歩的なものだ。
だがこれですら僕には難しい。
そう、僕は全く魔法が使えないのだ。
もちろん詠唱が覚えられないとか理論が分からないとかそういう類のものではない。
魔法が発動しないのだ。
発動しないだけならかつてのジーナと同じだ。
だがミリアーナ様の天眼によると、僕には魔法の才能がゼロらしいのだ。
全くの、ゼロ。
これでは……
「入学試験をパス出来ない……」
それはマズい。
ミリアーナ様が入学試験で落ちる訳ない。
護衛である僕が落ちる訳にはいかないのだ……!
でも発動出来ないものは出来ない。
どれだけ本を読んでも、どれだけ詠唱を覚えても、発動出来ないのだ。
思わず脱力して机に突っ伏してしまう。
はぁ……どうしたら……
「何してんだ?」
「はっ!?」
「痛っ!?」
咄嗟に頭を上げると、後頭部が何かに当たった。
声のした方を見ると、リーシアが鼻を押さえて涙目になっていた。
「痛ぇ……オレのきれいなお顔に傷でもついたらどうしてくれんだ、ザリ!」
「……くそ」
普段ならあんな事絶対にしないのに……
無様な姿を見られてしまった……
よりにもよって、この少女に……
「何でもないよ」
「ふーん……ん?この本は……初級魔法書?」
「ちょっ……!見ないでくれ!」
さらにマズイものを見られてしまった!
僕はリーシアの手から本をひったくる。
「な、何なんだよ……そういやザリって魔法使えたのか?見た事ないな」
「うっ……」
どう答えたものか……
嘘をつくわけにはいかない。
仮にも将来はミリアーナ様に仕える騎士だ。
そんな真似出来るわけない。
だがリーシアに弱みを握られるのも……
いや、これは……丁度いいのかもしれない。
妹のジーナは彼女の助けもあって魔法を使う事が出来るようになった。
彼女自身の魔法のセンスも相当だ。
ここは恥を忍んで……
「君に!」
「ふぁ!?」
「頼みがある!」
僕は思わず彼女の両手を掴んで言い寄ってしまっていた。
--------------------
「なーるほどな。だから魔法を一度も使わなかったのか」
僕の正面の椅子に座って、魔法書をペラペラと捲りながら彼女はそう言う。
「くっ…!笑うなら笑え……だが」
「いや、笑わねぇよ?」
「……は?」
彼女は麗しい見た目に反して性格が悪い。
笑い飛ばされるのを覚悟でカミングアウトをしたのだが……
「言っても信じないかもだけど……オレも魔法が使いたいのに使えない気持ちは分かるんだよ。だから笑ったりしない」
「リーシア……」
「困った時に手を差し伸べてやるのが友達ってもんだろ?」
そこでリーシアは立ち上がり、微笑んで手を差し伸べてくれた。
その表情に裏表はない。
心からのものだと分かる。
思わず僕は手を伸ばし、彼女の手を取ってしまっていた。
「くっ……だが君は僕のライバルだ!これは借りにしておく」
僕にそんな彼女を真っ直ぐ見つめる事など出来なかった。
やはり気恥ずかしい。
「ははは。好きにしろよ」
「くっ……」
この笑顔だ。
ミリアーナ様と話す時などに見せるこの笑顔。
太陽のように眩しい笑顔だ。
僕はこの笑顔を一度も直視できた事がない。




