蹂躙
「力づくと言ったか、アンナ」
「ええ。確かにそう仰いました」
「魔帝国では力こそ全てじゃ。確かにそっちの方が分かりやすいしスッキリするのぅ」
「ええ。姫様」
「妾に仇なした事、あの世で後悔するが良い」
「あ、あの……リースさん?」
その時、事態についていけず、オレに隠れるように後ろにいたジーナが口を開いた。
隠れようとしてもオレの方が小さいから隠れられ無いんだがな……
「あの……これは……」
「ミラを狙った賊だ。これから戦闘になるが……出来るか…?」
「せ、戦闘……」
ジーナがゴクリと唾を飲み込む。
先程までの戦闘は魔物を相手にしていたが、これから起こるであろう戦闘は人を相手にする。
やはりまだジーナには早いか……
「で……でき……!」
「無理しなくていい。安全な場所にいてくれ。アンナ」
「はい」
「前はオレとミラ。お前は一歩下がってジーナを守りながら支援だ。全体を見渡せるお前が適任だ。数は負けてるから囲まれないように牽制してくれ」
「……ハァ。分かりました。姫様をお願いしますよ」
「おうよ」
「リ……リースさん……」
オレはアンナと交代してミラの隣に立ち、剣を右手に構える。
「ふふふ。頼もしい家臣じゃのう」
「前に出過ぎないでくれよ。囲まれたら流石のミラでもキツい。このまま囲まれないように立ち回りながら撃破していく」
「了解した。此度はお主の指示に従おう」
入り口は押さえられているが、今はオレたちは最深部の広い空間で向かい合っている状態だ。
横を抜かせないように視野の広いアンナに牽制してもらいつつ、オレとアンナで撃破していく作戦だ。
「お嬢ちゃんたち、作戦準備は済んだか?」
「今更、許してーって泣き叫んでも遅えんだぜー?」
盗賊たちは相変わらず余裕そうな下品な笑みを浮かべている。
「ペラペラ喋ってないでさっさと来いよクズども。口が臭くてかなわない」
「っ…!!てめぇ!!」
「ガキが!思い知らせてやる!」
盗賊たちは一斉に得物を振り上げ、オレたちに襲いかかる。
だが怒りに任せたバラバラの行動だ。
「おらぁぁ!」
1番先頭で突っ込んできた男がオレに向かって剣を振り下ろす。
だがその太刀筋はお粗末の一言で、思考加速を使わずとも止まって見える。
攻撃を避けながら腰を屈めて懐に入り、剣を逆袈裟に斬り上げる。
「ぐわぁぁ!!!」
ここ数年では感じる事のなかった感覚。
前世では幾度となく感じてきた感覚。
人を斬る感覚だ。
それはただ肉を斬る感覚とは違う。
肉と共に人の命を、そのそれまでの人生を斬るのだ。
だがオレの手は迷わない。
真っ直ぐ振り抜くと、鮮血が迸った。
オレは返り血を浴びないために一歩下がる。
「ボンゴ!!」
「てめぇ!クソガキが!!」
盗賊たちは更に逆上する。
その眼には今、仲間を斬った白銀の髪を持つ少女しか写っていない。
「余所見をするではない」
だから、すぐ側まで迫った紅い破壊の波動に気づかなかった。
ミラが大剣を横に一閃すると、一番近くにいた盗賊の上半身と下半身が分離した。
あの硬い巨大サソリまで一刀両断した剛剣だ。
人の体に放ったらどうなるかなど、言うに及ばないだろう。
「カム!!」
「ちくしょう!ふざけん……っ!!」
パァン!!
「ふざけてんのはそっちだろ」
また盗賊が一人、乾いた音と共に額から血を噴水のように吐き出しながら倒れる。
オレは挑発するように左手の魔銃をクルクルと回して弄ぶ。
「戦場に立った以上、自分の全てを背負い、敵の全てを斬る覚悟を持てよ。それが出来ないなら帰ってママのおっぱいでも飲んでな」
「皆落ち着け!数ではまだこっちが上だ!囲んじまえば……ぐっ!」
多少は冷静なやつもいるようで、オレたちを取り囲もうと広がるが、アンナが投げるナイフにより行動を阻まれる。
盗賊達は高速で飛来するナイフをなんとか捌ける程度の実力はあるようだが、それではオレとミラに対する警戒が疎かになる。
「はぁぁ!!」
ミラがまた大剣を振るい、敵を真っ二つにする。
鮮血が飛び散る中、10歳ほどの少女が舞うように大剣を振るう。
異常な光景だが、今のミラは随分と絵になっていた。
「リーシア様、10時の方向、弓です」
おっと、少し見惚れていたようだ。
アンナに言われた方向を見ると確かに盗賊の1人がミラに向かって弓を引き絞っていた。
「業火の槍に貫かれ、灼熱に身を焦がせ!『業火槍』!」
火属性中級魔法『業火槍』はオレの手から発されると真っ直ぐに弓を持った盗賊に向かって飛び、弾着した瞬間爆発した。
その盗賊は悲鳴をあげる暇もなく全身に火傷を負った。
戦闘続行は不可能だろう。
「てめぇら落ち着け!連携をとるんだ!」
さっき立派な鎧の男と喋っていた盗賊のリーダー格らしき男が声を上げる。
もう盗賊達の表情に怒りはなく、代わりに恐怖の色が見え始めていた。
無理もない。
幼い少女達に瞬く間に半数の仲間を殺されたのだから。
「ん………そうだ、鎧の男は……!」
「……っ!!リーシア様、ミラ様、右です!」
切羽詰まったアンナの声に振り返ると、壁を蹴って高速でミラに接近する鎧の男の姿が眼に入った。
速い!
オレは反射的にその間に入り、剣を両手で構える。
オレに気づいた鎧の男の剣撃を剣で受け止める。
その一撃は重く、両腕が小さく悲鳴をあげる。
やはりこの男だけ只者ではない。
だが……
「ノースエルに比べれば……軽い!」
剣を弾き飛ばし、思考加速を発動してカウンターを加える。
男はオレのカウンターを捌き、一歩下がる。
「リース!」
一瞬対応が遅れていたミラもオレの横を過ぎて男に必殺の一撃を加えようと大剣を振りかぶる。
その時、思考を加速してやっと認識できるか出来ないかという速度で男が左手をかざし……ニヤリと笑った。
「……っ!?目を閉じろ!」
次の瞬間、あたりが閃光に包まれた。




