妹と家臣
「だからここはプロモ公式を使って……こうなるのよ。分かった?リースちゃん」
「うーん。まぁ多分……」
オレは今魔王城の一室で悪魔族の美女と2人っきりだ。
まぁバリスさんに魔法陣を教えてもらってるだけなんだけど。
魔法陣って精密でデリケートなものだから実戦には向いてない気がしていたのだが、学んでいて損は無いから教えてもらうことにした。
バリスさんは最初に概論を教えてくれたのだが、想像以上に実戦に使われている事を知った。
強力な魔法陣は罠や城の防御に使うことが出来るらしい。
これでかなりモチベーションが上がった。
今は一つ一つの式を暗記して、魔法を魔法陣へと直す方法を学んでいる。
圧縮とかはまだ出来ないので、ただの『火弾』の魔法ですら直径1メートル程の魔法陣になった。
所々歪んでいたが、「初めてにしては上出来よ!さすがリースちゃん!」とバリスさんに褒められて嬉しくなった。
今日もバリスさんの私室で授業を受けていると、扉がコンコンとノックされた。
「あら、誰かしら?」
「王妃様失礼いたします。クサナギでございます。ご挨拶に伺いました」
「入っていいわよ」
扉を開けて部屋に入ってきたのは、黒髪の男性だった。
白髪混じりの髪、顔に刻まれた皺が大人の男の渋みを感じるアクセントになっている。
そして頭には1本の角。
亜人族の一種、鬼人族だ。
男性は机に座っているバリスさんの前まで進み、そこに跪く。
オレはバリスさんのすぐ隣にいたので、少し悪い気になる。
「お元気そうで何よりです」
「久しぶりね〜クサナギ。こういう生真面目な所は変わらないわね。ゼルシアは1度も挨拶になんて来たことないわよ」
「……なぁ、オレは席を外した方がいいか?」
「ああ、気を遣わせてごめんなさいね。リースちゃん。そうしてくれると助かるわ」
オレはそそくさと部屋から退出する。
2人は今から大事な話をすると思ったからだ。
あのクサナギと呼ばれた男性の胸の階級章、それは紛れもなく軍団長クラスのものだった。
おそらくあれが噂に聞く第七軍団長『羅刹のクサナギ』だろう。
普段は物静かだが、いざ戦闘ともなると一騎当千の鬼となる恐るべき人物だという。
そんな人と王妃であるバリスさんの会話だ。
オレなんかが聞いていい会話ではないだろう。
予定より少し早いが帰ろう。
--------------------
帰宅するために城内を歩く。
「ん?あれはミラか」
城の中を自由に歩き回れる子供も少ない上に、彼女の美しい赤い髪は遠くからでも目立つ。
彼女の隣にはガタイのいい中年ぐらいの男と、これまたガタイのいい老人がいた。
2人とも鎧に身を包んでいる。
「お、リースではないか。母上殿の所からの帰りかの?」
「ああ」
ミラは先日8歳になった。
2年前にすでに大人っぽさを滲み出させていた少女は、さらに妖艶になった。
本人から聞くところによると胸も少し大きくなってきたらしい。
バリスさんに似てきたなぁ。
そういや、母さんも胸は大きい。
オレのは今のところ真っ平らだが、いつか膨らんでくるのだろうか。
胸は大きい方が好きだったが、自分の胸が大きいのは、邪魔そうだなとしか思えないのは不思議だな。
「ミリアーナ様、この子は?」
「この子がリースじゃ」
「おお!リーデルさんの!」
「リーデルじゃと!?」
オレの正体を知った中年の方は嬉しそうにオレの手をとる。
「いやぁ、可愛い子だとは聞いてたが、こんなちっこい子にザリは負けやがったのかぁ」
「……あ、あの?」
「ああ、悪い悪い。挨拶がまだだったな。俺はゼルシア・ロールクレイン!ザリとジーナがいつも世話になってるな!」
と、いうとこのデカい男がロールクレイン家の現当主、魔王軍第一軍団長ゼルシア・ロールクレインなのか。
よく見れば胸に軍団長の階級章をつけている。
ロールクレインという名家の当主、さらにあのザリの父親だから厳格そうな男をイメージしていたが随分気さくだな。
「ほら、親父も挨拶しろよ」
「ふん。リーデルの娘に話すことなどないわ。それでは姫様。失礼いたします」
そう言って老人は不機嫌な顔で足早に去っていった。
オレは何か怒らせるような事しただろうか?
「いやーすまねぇな。アレは俺の親父なんだが、見ての通りの偏屈ジジイでな。昔リーデルさんと少しあってからずっと根に持ってやがるんだ。ザリがリーデルさんの娘に負けたって聞いたときはすげぇ剣幕で怒り狂って、半年ザリを山奥で特訓したくらいだ」
嫌われているのは母さんか。
母さんを悪く言う人に初めて会ったな。
何があったのかすごく気になる。
「お前のおかげでザリも鍛錬にさらに励むようになったし、ジーナも毎日が楽しそうだ。俺は勿論、親父もああ見えて実は感謝しているんだぜ」
「いや。オレも2人からは色々教えてもらってますよ」
最近は剣術ではザリに勝てなくなったので、魔法を絡めた近接戦を彼相手に研究している。
それをジーナに教える事でさらにオレの中で整理され洗練される。
2人との時間はオレにはなくてはならないものだ。
「お前さえ良ければ、将来的にザリの嫁にでもと俺は考えてるんだが、どうだ?」
「は!?嫁!?何言ってるんだ!?」
「はっはっは。お前くらいの年頃ならそういう反応も仕方ないかもな。でも俺は本気だぞ」
「あ、ありえない!ザリの嫁だなんて…!!ていうかオレは嫁いでもあいつの子供なんて産めないぞ!」
ジルド族に生殖器官はない。
謎の方法で1人で子供を産むのらしい。
後継やら何やらが重要な貴族の家に嫁げる訳がない。
ていうかザリの子供って……自分でも言ってて耳が熱くなるのが分かる。
「あ、そうか。まぁ別にそこはどうにでもなるだろ。考えておいてくれ。じゃ、姫様。俺は行かなきゃなんないから」
「ちょっ!?あんた!?」
「うむ。ではまたな、ゼルシア」
ゼルシアはカッカッカと笑い、手をヒラヒラ振りながら去っていった。
あのオッサン、雰囲気を微妙にするだけして帰って行きやがった!
子供がどうとか、誰と結婚するとかこんな所で話すなよ!
ミラがオレをジーッと見ているのが凄くつらい。
「のう、リースよ」
「な、なんだミラ?」
「リースはザリと結婚したくないのか?」
「い、嫌に決まってんだろ。オレは見た目はこんなだけど、心は男に近いんだ」
「ならの……」
そこでミラはオレに顔をグッと近づけてきた。
そして一言
「妾ならどうじゃ?」
……
………
…………
……………可愛すぎる!!
なんだこの娘!
可愛すぎる!
本当に8歳なのか!
今オレとミラの顔の距離はキス出来るんじゃないかってくらい近い。
だからミラの吐息や匂いなどを間近に感じ、もうヤバいどころではない。
オレの中で転生した際に失われたスイッチがオンになってしまいそうだ!
押し倒したい!!
脳内がオーバーヒートしていくが、そんな中でもオレの頭の中には冷静な部分が残っていた。
オレ、今男じゃないよ?
股の間に手を置いてよく考えてみろよ。
もうお前に男としての機能はないんだ。
そんな声でオレの頭は冷めていく。
そうだ。
さっきも自分で言ったはずだ。
オレがどんなに頑張ろうともミラに子供を与える事は不可能だ。
やっぱそれは魔王の家系としてまずいだろ。
「オレはさっきも言った通り子供とか……」
「妾は子なぞ気にせんぞ。兄貴殿や姉貴殿もおるし。せっかく契りを交わすのならばおもしろい相手の方が良かろう。お主は見ていて飽きぬ」
「いや……でも」
「妾は嫌か?」
「嫌じゃないです!」
あっさり落とされてしまった……
だがミラが可愛い事は会った時から思っていたし、結婚出来るならしたい。
これはこれで…いいのか?
「そうかそうか妾は嫌じゃないか。なるほどのぅ。素直に嬉しいぞ」
「ちょっ…忘れてくれよ……」
「可愛い妹の告白を忘れるわけなかろう?」
ミラはそこでぎゅーっと抱きしめてきた。
いちいちスキンシップが過激すぎる!
こんな風に育てたのは誰だ!
……絶対バリスさんだろ。
「苦しい!ミラ!」
「お姉ちゃんと呼んでみよ。そうしたら離してやろう」
「は!?何言ってんだ!?」
「1度だけじゃ。1度だけで良いから言うてみよ」
ミラはそう言いながらも拘束を緩めない。
8歳の華奢な腕からは想像できない力だ。
早く言わないと骨の2本や3本折られそうだ!
「分かった分かった!……お姉……ちゃん」
「うむ。よく言えたのう」
ミラはニッコリと微笑むとオレを解放した。
このやり取りに何の意味があるんだ……
「よし、ではお主は今日から妾の妹兼家臣じゃ!」
「何が『では』なのか分からないんだが!?」
論理的飛躍があったぞ!?
「実はな。母上殿は元々親父殿の家臣だったらしいのじゃ。だから恋人候補のお主は妾の家臣じゃ。これは決定事項じゃ」
「は?だから意味が……」
「決まった事じゃ。諦めよ。これからリーデル殿にお主を家臣にした事について挨拶に行くぞ」
「ちょっと!?腕がもげる!引っぱんな!!」
どうしてこうなった……




