ダースの決意
オレは5歳になった。
体を鍛え、魔法を練習する日々だ。
最近、なんとか中級魔法を実戦で使えるレベルまで持ってこれた。
だがまだ詠唱が長すぎて、ノースエルのような達人と一対一は無理だ。
改良の余地あり、だな。
最近はこの身体の特性を戦闘に取り入れる練習をしている。
魔王陛下がいつだったか言っていたが、ジルド族は物質的精神生命体だという。
肉体を持った精神生命体だ。
故に、体のコントロールにかなり自由が利く。
例えば思考速度。
一般的に思考速度にはリミッターがかかっているという。
脳への極端な負担を防ぐためだ。
達人はそのリミッターを取り除く特殊な訓練をする事によって、思考速度を加速する事ができる。
だが物質的精神生命体のオレは少し意識すれば簡単にそのリミッターを外す事ができた。
初めてノースエルと戦った時に2撃目が遅く感じたのはそのせいだ。
まぁ頭が痛くなるし、体の方がついていけないので活かしきれていないのが現状だが。
他にも肉体的痛覚の遮断がある。
痛覚は肉体の危険信号であり、無くてはならないものだが、時に痛みは思考を鈍らせる。
ある程度は残すべきではあるが。
剣術の方はイマイチだ。
闘気を纏うのが周りほど上手く出来ない。
最近ではザリも強くなっており、近距離戦では遅れをとることも多くなってきた。
まぁ何もかも出来る必要はない。
オレの持ち味は魔法だ。
--------------------
そんなある日、オレはダースを探して街を歩いていた。
最近ダースは街のあちこちで手伝いをしてはお小遣いを稼いでいるらしい。
少し前まで暇さえあれば森に行こうと煩かったのだが、ここまで静かだと逆に寂しくもなってくる。
ダースは魔帝都ゴルドの一角にある職人街で見つかった。
ここは魔帝都の中でも工房が集中しており、大通り等と比べると、冒険者や戦士の姿を多く見る。
港が近いので海風に乗って潮の香りが鼻をくすぐる。
彼は1人の少年と話している所だったが、オレに気がつくとすぐにこちらに近づいてきた。
「おう、リース!久しぶりだな!最近遊んでやれなくて悪いな!」
いや、遊んでやってるのはこっちだよ。
まぁそこはどうでもいい。
「久しぶり。また小遣い稼ぎしてたのか?」
「今日はモズの所で材料を港から運ぶ仕事をしてたんだ」
ダースは横の少年を指差す。
眼鏡をかけた小柄な少年だ。
大人しそうな見た目だが、肌はダースに負けないぐらい健康的に焼けている。
「はじめまして!貴女がリーシアさんですね!?私は職人街のガルシア工房の息子、モズです!お会いできて光栄です!」
「お、おう。はじめまして……」
モズはオレの手を取りそう言った。
ちょっと馴れ馴れしくて、オレは少し引いてしまう。
馴れ馴れしいのはミラも一緒だったが、やはり可愛い女の子にされるのと男にされるのでは印象が違う。
「いやぁ、噂に違わずお美しい方ですね!そうだ!これはお近づきの印です。私は工房ではまだ武器等は打たせて貰えないのですが、こういった手芸品の様なものはちょっとした腕前で販売もしております。また職人街を訪れた際にはウチの工房にお立ち寄りください!」
そう言って、モズが少々強引に小さな宝石のはめられた首飾りを手渡してきた。
繊細な細工がしており、確かに見事なものだった。
初対面の相手にこんなもの送るなんて、普通なら「お前、オレのこと好きなの?」くらい思う所だが、モズの笑顔からはそういった性的な下心は感じられない。
多分ビジネスの一環なんだろう。
「こういう首飾りとかだけじゃなく武器とかも取り扱ってるのか?」
「勿論、武具は私の父が打っております。そちらの方に興味がおありで?」
「ああ。まぁこういうのよりはな」
ガルシア工房、覚えておく。
首飾りはオレはいらないので、今度ジーナにでもあげることにしよう。
「じゃあ、俺は行くよモズ。親父さんによろしくな!」
「ええ、本日はありがとうございました」
--------------------
そしてモズと別れたオレたちの足は自然とそのまま港の方に向かっていく。
そしてオレたちはとある船着場のベンチに腰をかけた。
そこは西のジーリオン大陸のとある都市との定期船の船着場のようで、時刻表によると便は3時間に一本ほどだ。
ジーリオン大陸は中央大陸よりもふた回りほど小さな大陸だ。
ジーリオン大陸は主に西部と東部に分けられる。
東部の国々は魔帝国をはじめとした中央大陸の様々な国と国交を結んでいる。
一方西部には排他的で、他国とあまり国交を結ばない小国が多数乱立している。
経済的にも東高西低らしい。
また、未開の地が数多く残っており、中央大陸の冒険者がロマンを求めてジーリオン大陸に数多く渡っているらしい。
次の便まであと1時間程であり、周囲には乗船を待つ人々で溢れている。
見た所、冒険者だったり、商人だったり、出稼ぎの労働者だったり様々だ。
少し場違いな気もするが、オレとダースはそんな中ベンチに座り、2人で海を見ていた。
前世のオレは内陸国で産まれたので、海を見たのは転生してからだったりする。
デカい湖くらいに思っていたが、その想像以上の広大さに最初は腰を抜かした。
「なぁリース、あの水平線の向こうに大陸があるんだぜ」
「知ってるよ」
なんか今日はダースの様子がおかしい。
海の向こうをじっと見ていて、心ここにあらずといった感じだ。
「帝都の警備兵のバレンシアさんを知ってるか?」
「ああ、あの元冒険者の」
ダースと2人で魔帝都の兵士詰所に行った時仲良くなった、よく喋る人族の男だ。
「バレンシアさんは若い頃ジーリオン大陸を冒険していたらしい」
「それも知ってる。あの人その話しかしないからな」
バレンシアさんはいつもジーリオン大陸での冒険譚を語って聞かせてくれる。
未開のジャングルで毒蛇に噛まれた話や、ダンジョンで罠を踏んで2週間中を彷徨った話。
まぁほとんどが失敗談だ。
「オレ、大きくなったら兵士になって、国を守るって思ってたんだけどよ。最近思ったんだ。冒険とか出来るのも若いうちだけなんだな〜って」
「そうだな」
そういうバレンシアさんもジーリオン大陸で今の奥さんと出会ったのをきっかけに安定した生活を求めてゴルドで兵士になったそうだ。
「俺、船代を貯めたらジーリオン大陸に渡る」
「……そっか」
「ああ。向こうに親戚がいるんだ。しばらくはそこで厄介になった後、冒険者になって大陸を冒険してこようと思うんだ」
「……いいんじゃないか」
「……止めないのか?」
「いや、寧ろいいんじゃないか。前みたいに魔王軍に入るって聞かないままよりかは、そっちの方が色々と見えるようになる。ただ……」
「ただ?」
「……やっぱ寂しいな」
すごく恥ずかしい。
多分顔は真っ赤だ。
友人の新たな目標を喜ばしく思うと同時に少し寂しい。
だが一生会えないわけではない。
「心配すんな!向こうを粗方周ったら帰ってきて軍に入るよ!」
「……ああ」
「リースはミリアーナ様と仲が良いからお前も軍に入ってるよな?オレはすぐに出世するから追い抜かれないように偉くなっておけよ!」
ダースが拳を差し出し、オレはそれに応えるように拳をコツンとぶつける。
10年先、20年先になるかは分からない。
だが、親友の成長を楽しみに帰りを待つとしよう。
その一ヶ月後、オレの親友ダースはジーリオン大陸に旅立った。




