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外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
第二章 幼少期編
14/327

弟子と物語

2話連続投稿

1投目

「なんで発動しないかなぁ〜」

「すみません……」

「いや、きちんと出来てるから分からないんだ」


 オレは他に人のいない練兵場でジーナに魔法を教えていた。

 ジーナを弟子にしてから、オレは毎日彼女の魔法の訓練に付き合っていた。

 詠唱も間違っていないし、魔力の迸りも感じるのでイメージも悪くはないと思う。

 なのに魔法が発動の直前に掻き消えてしまうのだ。

 適性が高いのにも関わらず魔法が発動しない現象にオレたちは首を傾げていた。


「詠唱、イメージ、魔力は問題無いとして……他の要因か……」

「うう……」

「気にすることないぞ。ジーナもオレと同じ3歳だろ。もしかしたら時間が解決してくれるタイプの問題なのかもしれない。ゆっくりやろう」

「あ、ありがとうございます、リースさん!」


 ジーナは目の端に涙を溜めながらお礼を言う。

 ジーナのオレに対する呼称はリースさんにした。

 ずっとリーシア様とか言われるのも気恥ずかしいしな。


「おお、やっておるのぅ」

「ん?ミラじゃないか」

「おはようございます、ミリアーナ様」


 アンナを連れだって練兵場を訪れたミラにジーナはあの丁寧なお辞儀をする。

 こういう仕草を見ていると、良いところのお嬢様なのかな、と思う。

 聞いてみるか。


「そういえば、ジーナってお嬢様かなんかなのか?」

「お嬢様なんかでは……」

「ロールクレイン家じゃからな。魔界の重鎮の家系ではあるぞ」


 ジーナは否定するが、ミラ曰く魔界の名家の出らしい。


「そういえばロールクレインって名乗ってたな。どんな家系なんだ?」

「ロールクレインも知らないとは、リーシア様の無知もここに極まれりですね」

「手厳しいな、アンナ。そんなに有名な家なのか」

「ええ。魔王軍の軍団長を数多く輩出しています。現当主……ジーニスタ様やロザリエルト様のお父上は第一軍団長兼総司令官、魔王軍の武を司る人物です」


 ということは、大将軍の家系なのか。

 というか何故オレが無知扱いされるんだ。

 普通3歳児がそんなこと知るわけなかろうが。

 母さんも魔界情勢については殆ど教えてくれないし。


「ジーナは凄いんだな」

「凄いのは父であり、ご先祖様達です。私は下級魔法も碌に発動できない出来損ないですよ」

「まだ魔法は発動できんのか?」

「ああ、基礎的な事や魔法の詠唱も完璧だ。だが発動の直前に掻き消えてしまうというか……ミラ、お前の天眼で何かわからないのか?」

「分かったらとうにしておるわ。天眼では潜在能力しか分からんからな」

「そうか……」


 能力は申し分ないのに魔法が発動しない、というより発動の直前に掻き消えてしまう……か………

 ん、こんな話どこかで……


「………なぁミラ。ここに書庫のような場所はあるか?」

「うーむ本が読みたいのか?城の書庫に入るには特別な許可がいるからの。街には図書館があるが」

「図書館でいい。場所はどこだ?」

「妾も行こう。何か分かったんじゃな?」

「解決の糸口になるかは分からないけどな……」


 オレの記憶が正しければ、あの本に似たような記述があったはずだ。

 信頼性のある情報が手に入る可能性は低いが、探してみる価値はある。


「ていうか魔王陛下の娘が勝手に街に出ていいのか?」

「街で妾に手を出す輩なぞおらんよ。それに護衛ならばお主らがおるじゃろう?」

「ザリには声をかけるか?」

「お兄様は先日リースさんに完敗した事がお祖父様にバレて、今頃は何処かの山奥でお祖父様に扱かれています」

「そうか……」


 全然見ないと思ったら………

 御愁傷様だな。

 まぁ次会うときはもっと強くなっているだろう。



--------------------



 オレ達は魔帝都ゴルドの図書館に来た。

 ここに来る途中、すれ違う人全員がミラに気づき「おはようございます」とか「いい天気ですね」など、気軽に挨拶してきた。

 本人も「うむ、おはよう」と堂々としたものだ。

 普通一国の姫が街に出るなどお忍びになると思うのだが、全く隠そうともしなかった。


 誘拐とか大丈夫なのか?とジーナに聞くと「魔帝都の住民がミリアーナ様を襲う事はありえないですし、余所者は近づけないようにしてくれます。人通りの多いところならば誘拐は至難の業ですよ」と答えてくれた。

 随分と慕われているんだな。


 そして図書館に到着すると、オレは迷う事なくとあるコーナーに近づいた。


「ここは……物語コーナーかの?」


 そう、ここは古今東西の物語が置かれたコーナーである。

 英雄の伝記や勇者の冒険譚をはじめとして、魔帝都らしく魔王を主人公としたものまである。


「ていうか魔族の都の図書館に、魔王を倒す勇者の物語があっていいのか?」


 その辺を魔王の娘であるミラに聞いてみた。


「大抵はそういった物語の魔王は極悪非道の輩である故、そういった魔王になってはいけないという戒めだと思っておるのじゃ」


 なんと懐が深いことで。


「ここにリースさんの探しているその本があるのでしょうか…」

「ああ。ちょっと待っててくれ」


 オレはお目当ての本の著者の名前を思い出しながらそれを探す。

 そして見覚えのある分厚いハードカバーの本を見つけた。


「これだこれだ」


 オレが手に取ったそれは『賢者ニーバス伝』。

 ニーバスという実際にいた有名な魔術師の伝記である。

 ニーバスは500年は前の人物なのだが、その伝承は各地に残っており、20年ほど前にそれを纏めた伝記がこの本だ。


 前世で小さい頃に何度も読んで魔術師に憧れた思い出がある。

 残念ながら、かつてのオレには魔法の才能が欠片もなかったが。

 オレたちはその本を持って机に座った。


「賢者ニーバス……名前だけならチラッと聞いたことがありますね」

「人族の賢者じゃから魔族にはあまり馴染みのない名前なんじゃな。妾は父上から少しだけ聞いたことがあるぞ。リースがこれを知ってるのは驚きじゃがな」

「まぁ細かいことはいいだろ」


 適当に話をしながら最初の目次でお目当ての章を探してそのページを開く。


「確かこの章だ」

「ふむ、『火門のアルストラエル』の登場する章じゃな。『十賢士』の一人の」


 『火門のアルストラエル』はニーバスの弟子、後世に伝わる『十賢士』の一人だ。

 火属性魔法では師であるニーバスですら凌駕するらしい。


「この章はニーバスとアルストラエルの出会いから修行の様子を描写しているんだ。これによると2人が出会ったのは『魔術師の街』と呼ばれるゼースという街だ」

「ゼースのぅ……アンナ、何処じゃったか」

「中央大陸の中央部です」

「ふむ。魔帝国は中央大陸の最西端であるから、随分と東なんじゃな」

「ゼースでは魔術師としての資質が全てとされているらしい。その街でアルストラエルは『無能』と呼ばれ蔑まれていた」

「『無能』のぅ。後の大魔術師が随分な呼び名じゃ」

「そうだな。当時のアルストラエルは火の魔法ですら人並み。水の魔法に関しては全く発動すらしなかったそうだ。ニーバスは彼の水魔法を見て『魔法の発動の寸前で掻き消えてしまっているようだ』と言っている」

「それって……」

「ああ。今のジーナと一緒だ」


 ただ、アルストラエルは水以外の魔法はなんとか発動出来たらしい。

 だが症状としては全く同じだ。

 ジーナは身を乗り出して本を覗き込む。


「そのニーバスさんはどうやってアルストラエルさんに魔法を教えたんですか?」

「ニーバスはアルストラエルの才能を一目で見抜いた。アルストラエルは………精霊に好かれていたんだ」

「精霊……?」


 ジーナがよく分からない、という顔をしている。

 そういえば魔族の冒険譚には精霊について書かれたものが全くなかった。

 もしかしたら魔族には馴染みの薄いものなのかもしれない。


「精霊ってのは普通は目には見えない純精神生命体の一種だ。魔法に長けているから、人族には精霊と契約して力を貸してもらう術があるらしい。アルストラエルはその精霊、特に火の精霊に好かれていた」

「それが魔法が発動しないのとどういう関係があるんですか?」

「ニーバス曰く、精霊というのはまるで子供だそうだ。フラフラと気まぐれに周囲を漂い、興味の赴くままに行動する。アルストラエルの周囲には常に火の精霊がいたそうなんだが、アルストラエルが水の魔法を使おうとした瞬間、嫉妬した火の精霊がそれを掻き消してしまうらしい。精霊に好かれすぎるのはまるで呪いだ、とまで彼は言っている」


 特定の属性の精霊に好かれてしまうと、周囲にその精霊が常に漂う。

 そしてその嫉妬深さ故に反対属性の魔法の発動に干渉して妨害するのだ。


「ここからはただの推論だが、ジーナは複数の属性の精霊に好かれているんじゃないか?おそらく、火、水、風、土の全属性だ」

「ぜ、全属性!?」

「なるほどのぅ。それならば適性の割に魔法が発動しないのも説明できる」


 突拍子もない話だしあくまで仮説にすぎないが、これなら全てが説明可能だ。


「そ、それで、どうやったら魔法を発動出来るんですか?」

「……えーと、実は……」

「ん?どうしたのじゃ?早く申してみよ」

「………伝記ではアルストラエルは火の精霊と対話することによって火属性魔法を補助してもらったらしいんだが、水属性魔法は諦めたらしいんだ」

「………え?」

「精霊にどれだけ頼んでも、妨害を止めてくれないらしい」

「つまりこういう事かの。精霊に好かれたら最後。もう反対属性は諦める他ない、と?」

「んー……そうなる」


 少なくとも賢者ニーバスにすら解決方法は無く、アルストラエルには火属性魔法のみを極めるように、と教えたらしい。

 ジーナの顔がどんどん絶望に染まっていく。


「そんな……」

「だから言っただろ。精霊に好かれている事は、呪いと一緒だって」


 こればかりはオレにどうしようもない。

 だがジーナにそれを告げるのは酷だったかもしれない。

 目端に涙を溜め、今にも泣き出しそうだ。


「いや、そうでもないのではないか?」


 オレがどうやってジーナを慰めようかと考えていると、ミラがそう言った。


「方法があるんですか、ミリアーナ様!?」

「精霊に好かれておるんじゃろ?だったら先程リースが申しておった、精霊との契約魔法はどうなんじゃ?」

「………確かにそれならいけるかもしれないな」

「本当ですかリースさん!?」

「いや、精霊契約魔法には詳しくないから分からないが、可能性はある」


 契約魔法自体はおそらく無属性魔法だ。

 属性に関する魔法のみ妨害されるのであれば抜け道となる。


「でもオレは精霊契約魔法なんて知らないから教えられないんだよなぁ」


 精霊自体、魔族には縁遠いものらしい。

 多分この様子では精霊契約魔法を使う者自体、魔族には殆どいないだろう。


「魔術書で独学するしかないな。まずそれ以前に魔術書自体あるかどうか……」

「それに関しては詳しい者に聞くしかなかろう。妾に考えがある。アンナよ」

「はっ」

「グリモワールにアポイントメントを取ってきてくれぬか」

「仰せのままに」


 ミラの言葉に、アンナは席を立った。


「一体誰に……」

「なに、少しばかり魔法に関する知識の深い、隠居の爺じゃよ。大船に乗ったつとりでいるがよい」


 ミラはそう言ってウィンクをした。

 可愛いな、畜生。

 ちょっと顔が熱くなった。

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