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外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
第六章 魔法学園入学編
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風紀委員

「……報告は以上です」

「はぁ……ゾア・クロイツ君、あなたが言いたい事はこういう事ですね。リーシア・シルフェリオン・ジルドさんは不良達とつるんでいる。監視の目を増やすべきだ、と」

「そこまでは言っておりません。ただ、警戒を怠ってはいけない、とだけ」

「いえ、私にはそう聞こえましたわ」


 ビスカ・ロージス風紀委員副委員長は僕の提出した報告書を置いて、僕の目を真っ直ぐ見てくる。

 僕はその目に真正面から向き合う。


「………あなたが彼女を警戒する理由は不良が云々だけではないでしょう?」

「おっしゃっている意味が分かりかねますが」

「クロイツ君、あなたは先日のゾディアス闘技大会に参加しましたね?」


 表情を変えたつもりは無かった。

 今の僕の顔は鉄仮面のように無表情のはずだ。

 しかし副委員長は僕の顔を一瞥すると、


「やはり……ですね」

「はい。別に隠す事ではありません。ですがどうしてそれを?」

「あなたのプライバシーを侵害したわけではありません。先日の休暇の届けや、休暇中に向かった場所、その他諸々の推理の材料……最後は勘です」


 論理的なのか非論理的なのか分からない人だ。


 確かに僕は休暇届けを副委員長に提出し、ゾディアスへと旅立った。

 彼女に気づかれていても無理はない。


「しかしそれとこれとは関係が……」

「嫉妬……ね?」


 今回ばかりはポーカーフェイスを貫けなかったかもしれない。


 嫉妬。


 その一言が僕の胸に刺さったような気分だ。


「それとも羨望かしら?」

「………話が見えません」

「あなたはリーシア・シルフェリオン・ジルドという才能に嫉妬もしくは羨望の念を抱いているのでしょう?それは大会で彼女の試合を見て根付いたのか、それとも彼女と戦う事があったのか……」

「………そのような事は一切ありません」

「隠しても無駄です。今年度に入ってからのあなたの彼女に関する報告書には、これまでのあなたでは考えられないような主観的意見が織り交ぜられています」

「………」

「あなたらしくもありませんね……」

「………」


 そんなバカな、等、不思議とそんな感情は浮かばなかった。

 無意識下だったが、やはりか、というのが率直な感想だ。

 彼女は僕の中で『特別』になりすぎた。


「彼女は来る決戦の時にこちら側に引き込める可能性が高い生徒です。実力も申し分ない。必ずや戦力となってくれましょう」

「来る決戦……現生徒会副会長との決戦ですか」

「……ええ」


 副委員長も随分と生徒会副会長に執心している。

 それで僕の行動によく口が出せるものだ。


 副委員長と副会長の間に何があったのかは知らないが、副委員長は副会長を過剰に敵視している。

 だが彼女が副会長に勝利した事はない。

 彼女はいつも2番。

 4年生主席は副会長だ。


「何を考えているかは知りませんが……リーシア・シルフェリオン・ジルドはスカーレット副会長と仲が良いとの情報があります」

「そういえばとある情報屋がそんな事を言っていましたね」


 僕のこれは情報屋などという胡散臭い者からの情報ではない。

 リーシア・シルフェリオン・ジルドは毎朝校門で親しげに副会長と話している。

 これはこの目で確認した確かな情報だ。

 しかしこれは副委員長に言う必要はない。


「しかし彼女らは一度は矛を交えた仲、それもリーシアさんは敗北を喫しています。リベンジを理由に上手く口車に乗せればこちらにつく可能性は大いにあります」

「………」


 本当にそう上手くいくと考えているのか。

 いや、そう上手くいっては困る。


「あまり彼女を刺激するような真似は慎んでいただきたいものです」

「……善処します」



--------------------



 1ヶ月半ほど前になるだろうか。

 あの日を境に僕の人生は変わったと思う。

 それまで知らなかった物を知ったからだ。

 劣等感と挫折だ。


「ちょっといいか?」

「ん……」

「その腕章、風紀委員だよな。風紀委員室に用があるんだが、場所を教えてくれないか?」


 廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。

 振り向いた先にいたのは銀髪の件の少女、リーシア・シルフェリオン・ジルドだった。


「風紀委員室に何の用が?」

「いや、ビスカっていう風紀委員の副委員長に見学に誘われたんだ。半ば無理矢理にな」


 副委員長、既に根回しを始めていたとはな。


「風紀委員室はあちらに真っ直ぐだ」

「おう、ありがとう」


 風紀委員室の方向を指差すとリーシア・シルフェリオン・ジルドは礼を言って立ち去っていった。

 あの様子では僕の事など覚えていないのだろうな。


 僕は自分を『特別』だと思っていた。

 周囲の人間に僕に敵う者はいない。

 自分は凡夫共とは違うのだと。


 だがあの日、その幻想は打ち破られた。


 舞台の下から見上げた銀髪の少女は誰の目から見ても『特別』だった。

 彼女の前では僕ですら凡夫に成り下がる。


 彼女のさっきの様子はその証拠だ。

 彼女は僕の事を明らかに覚えていなかった。

 少なくとも闘技大会と入学式で顔を合わせたはずなのに。


 別に顔を覚えられていなくて拗ねている訳ではない。

 彼女にとって、僕がその程度の人間だという事だ。


 彼女を見る度に自分が『特別』ではない事を認識させられる。

 彼女がいる限り、僕は『凡庸』だ。


 だから『凡庸』は『凡庸』なりに出来る事をしてきた。

 彼女に敗北し、すぐに学校に戻って以来、剣や魔法の稽古を欠かした事はない。

 僕は闘技大会の時よりも強くなった。

 だが足りない。

 『特別』には程遠い。


 リーシア・シルフェリオン・ジルドは超えなければならない壁だ。

 彼女を超える事によって僕は再び『特別』になれるのだ。

 必ず超えてみせる。


 そのためには副委員長の動向にも気をつけなければならない。

 副委員長がどういった形で生徒会副会長と決着をつけるのかは知らないが、リーシア・シルフェリオン・ジルドにはあちら側に行ってもらわなければ困る。


 副委員長の動向には気をつけておこう。

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