一悶着?
「ああ〜今日もお美しいな」
「確かに、それには同意だ。だが今のお前、相当怪しいぞ」
「仕方ないだろ。隠れないと怪しまれる」
俺は建物の影に隠れて魔法学園の校門を覗き見ていた。
別に校門マニアとか校門フェチだとかそんなではない。
校門の前にいる女性を見ているのだ。
セリーア魔法学園生徒会副会長ミリアーナ・スカーレットさん。
見目麗しいそのルックスと、誰にでも優しいその性格から、生徒の間で絶大な人気を誇る。
「高嶺の花だからな。俺の情報によるとこの前5年生のアレックス先輩をフったらしいぜ」
「アレックス先輩って、あの貴族出身のイケメン?ヤベェなそれ」
フられた男の数は優に3桁に届くだろうな。
俺なんかが突撃したところでその数が1つ増えるだけなのは目に見えている。
だから俺はこうして影からお慕い申し上げるのだ。
「ショージ、お前も諦めろよな〜」
「うるせぇよビエル」
俺は横にいる目深に帽子を被った男子生徒を振り返る。
ビエルは手帳をペラペラとめくっている。
びっしりと文字が書かれた手帳だ。
「見ろよあのナイスバディ。あんなの中々いないって」
「お前も巨乳が好きだよなー。まぁ学園の情報屋である俺は情報にしか興味が無いから。あと可愛らしい幼女」
「黙れよロリコン」
ビエルは真性のロリコンだからな。
ミリアーナさんの大人の魅力が分からないとは可哀想な奴。
「ミリアーナ・スカーレット。生徒会副会長として毎朝校門前で生徒に挨拶してるが故にその知名度は高い。彼女のファンクラブは魔法学園一の規模を誇る。会員は1000人にのぼるという」
「そして俺はその会員番号No8だ」
「お前、それだけが自慢だよな。毎晩そのファンクラブ会員カードを枕の下に敷いて寝やがって」
「こうしたら夢にミリアーナさんが出てくるんだよ」
「だからお前毎朝パンツ洗ってんのか、ショージ」
「何でお前知ってんだよ」
「俺は情報屋だからな。ルームメイトとはいえ情報を集める。それが情報屋だ」
なんて油断ならない奴なんだ。
コイツは敵に出来ないな。
「そろそろ行こうぜ。授業が始まる」
「ああ。ミリアーナさんをたっぷり見て今日の活力は十分補給した。あとはあの眩しい笑顔と挨拶でフィニッシュだ」
「ん……!ちょっと待て!」
「ぐぇ!?」
いきなり首元を掴まれ息が詰まる。
「な、何すんだ!?」
「あれ見ろ……!」
ビエルの指差した方向には3人の生徒がいた。
いや、4人か……?
黒髪の女生徒に緑髪の生徒が背負われていた。
全員見覚えのない顔だ。
新入生か?
「あいつらがどうかしたのか?」
「あいつらは……今年の特待生だ!緑の奴は知らないが」
「何!?特待生だと!?」
特待生といえば、かなり厳重な入学試験をパスした本当に一部のエリートだ。
今の2年、3年にはいなかったんじゃないか?
「……で、特待生がどうした?」
「あいつらは生徒会副会長と因縁があるんだ……」
「因縁……?」
「ああ。まずはあの鬼人族の少年」
彼らの中で唯一の男子である黒髪の少年。
頭には角が一本生えている。
あれが鬼人族か。
初めて見たわ。
優しげな笑みを浮かべて優男的な印象を受ける。
「奴はこの前行われたゾディアス闘技大会の決勝進出者、通称『鬼の子』ツルギ!優しげな見た目に惑わされるな。仲間ですら笑いながら切り刻もうとするほどの戦闘狂だ!」
「マジかよ……ホント見た目によらないな」
「次はあの黒髪ポニテの少女!」
黒髪ポニテの方か。
身長が高く、多分俺くらいある。
長身の女性は嫌いではないが……胸がな……
惜しい。
「彼女もまた闘技大会決勝進出者、しかもベスト4まで残った、通称『虹彩の魔女』ジーニスタ・ロールクレイン!凄まじい魔法の構築速度と槍術、そして見慣れぬ虹色魔法を得意とする!」
「ベスト4……!強いな……!」
「そして最後のあの銀髪の少女!」
最後にビエルが指差したのは銀髪の小柄な少女。
先ほどのジーニスタという少女とは正反対で、身長が低い。
あれ本当に10歳に達してるのか?
ちなみに正反対というのは身長だけではない。
とある身体の一部分は……大きい……
「彼女こそ、ゾディアス闘技大会準優勝、『鉄の銀姫』リーシア・シルフェリオン・ジルド!剣や魔銃を駆使した臨機応変な戦法、見たこともない魔法を駆使する大会一のダークホース!何よりその見た目が点数高い!」
「出たなロリコン」
「だが胸の駄肉がいただけない。アレはお前の領分だろ」
「いや、俺は確かに巨乳が好きだが、どちらかというと身体全体の肉感というか……こう、包み込まれるような……」
「まぁお前の性癖は至極どうでもいい」
お前が話振ってきたんだろうが……
「で、その特待生が何なんだ?」
「……これは事件の香りだ!」
「事件?」
「ああ。彼ら3人は全員ゾディアス闘技大会に出場しており、特にジルドは決勝で惜しくも敗北した。彼女を下したのは……」
「ミリアーナさんか!」
ミリアーナさんはその闘技大会で優勝したという。
さすが才色兼備の完璧人間だ。
だが負けた方はどう思っているのだろう。
ジルドの方はミリアーナさんに対して何かネガティブな感情を抱いているかもしれない。
敵対心とか……
「ジルドと生徒会副会長の闘いにより、闘技場は未だに使えない状況らしい。さらにジルドは先週の入学試験で第2修練場を吹き飛ばしたとの情報もある。ここにいたら巻き込まれるかも……!離れよう!」
「……いや、ダメだ。ミリアーナさんが心配だ。俺は……見守る」
俺に介入は無理だ。
話を聞いてるだけでもレベルが違いすぎる。
だがミリアーナさんを放っておく事はできない!
「フッ……ショージがそう言うなら俺も残るぜ」
「ビエル……」
「勘違いすんなよ。俺は情報屋として今朝の校門前での事件の情報を得る義務がある」
「へっ……素直じゃねぇな……」
さすが俺の親友だ……
そう言ってる間にも新入生4人は校門に近づいていく。
ミリアーナさん……
怪我だけはしないでくれ!
俺は何もできないが頑張ってくれ!
そして彼らは校門に差し掛かる。
自然と耳を澄ましてしまう。
「あらリーシアさん、ジーニスタさん、ツルギさん。ご入学おめでとうございます、そしておはようございます」
ミリアーナさんは他の生徒に対するのと同様に女神のような微笑みを浮かべて挨拶をする。
ジルドはどうする……!?
いきなり殴りかかるか……?
それとも魔法……?
「あれ、ミラじゃん。おっす」
「ミリアーナ様……さん、おはようございます」
「ミリアーナさん、お久しぶりですね。おはようございます」
ミ、ミラ!?
え!?
ドユコト!?
「随分ギリギリですね。授業に遅れないようにしましょうね」
「やっぱギリギリだったか……急ごうジーナ」
「はい。ニアさん、そろそろ起きて下さい」
「ジーナ、疲れてない?やっぱり僕が背負った方が……」
「お前、またお姫様抱っこするつもりじゃないのか?」
軽口を叩きながら、彼ら4人は何事もなく校門を過ぎ去っていった。
「な、何だったんだ……?」
「まさか、特待生3人と生徒会副会長は仲が良いのか……?」
「お話中の所失礼しますが」
「!?」
その時、背後から声をかけられた。
後ろを見ると、金髪のメイドが立っていた。
「あ、あんたはミリアーナさんのお付きのメイドの……!」
「ミリアーナ様をコソコソ嗅ぎまわるのは別に構いませんが、随分と余裕ですね。もう始業間際ですよ」
「なっ!?」
「ヤバい!行くぞ!ショージ!」




