女子寮
「地図によると、ここだな」
「綺麗な所ですね」
中立都市セリーアはいわば学園都市だ。
セリーア魔法学園を中心として、周囲に街が広がっている。
学園によって運営されている街というのは世界広しといえどもここだけだ。
私達は入学試験から一週間泊まっていた宿屋から荷物を持って、セリーア魔法学園の女子寮に辿り着いた。
学園の寮だがきちんと管理が行き届いているようで、清潔な印象を受ける。
周りには私達と同じように荷物を持った新入生がたくさんいた。
「ねぇ……あの子って……」
「あの噂の特待生?」
「小さくて可愛い〜」
「もう1人も凛々しくてかっこいいわ」
コソコソと周囲からそんな声が聞こえる。
女ってのは噂好きだな〜。
ってか「噂の」って何だ。
私はまだ何もしてないんだが。
「でもあの銀髪の子が……例のアレでしょ?」
「ああ、あの第2修練場を吹き飛ばしたっていう……」
「え!?あんな小さい子が?」
「冒険者だから見かけによらず気性が荒いそうよ……」
「きゃっ!?こっち見た!?」
「目を合わせちゃ駄目よ」
駄目だ。
初日からこんな仕打ち、悲しすぎる。
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「寮の説明は以上だったかな〜。ま、いいや。ではビスカちゃん、あとはよろしく〜」
「はい。寮長先生」
随分と緩い寮長先生から寮の利用について緩く説明を受けた後、学園の生徒と思しき人物に引き継がれた。
「私は4年生のビスカです。まずは皆さん、ご入学おめでとうございます。今日から卒業までの5年間、ここが皆さんの家となります。何か分からないことがあったら私たち上級生に何でも聞いてくださいね」
腰まで届くような長い金髪の女生徒だ。
柔和な笑みを浮かべ、優しそうな雰囲気を受ける。
淑女って感じだなぁ。
女性らしい。
その後、ビスカから部屋割りが配られ、各自部屋に荷物を置いてくる運びとなった。
「ジーナとは別部屋だな」
「ええ、残念ですね……」
寮では2人に一部屋があてられる。
私のルームメイトは知らない女生徒だった。
まぁこうして残念がってくれるのは嬉しいが、ジーナもいい加減独立しなきゃならないしな。
良い機会なんじゃないか?
「リーシア……さんですね?」
「ん?」
名前を呼ばれて振り返ると、声をかけてきたのはビスカだった。
「すみません、驚かせてしまいましたか?」
「いや、別に。何で私の名前を?」
「貴女は今年度の特待生の1人ですから。そちらの方はジーニスタさんですね?」
「は、はい……よろしくお願いします……」
「ふふ。よろしくお願いします。2人とも分からないことがあったら気軽に私に聞いてくださいね」
「えーっと、じゃあ早速。ミリアーナって生徒知ってる?」
その時、空気が凍りつくのを感じた。
急に体感温度が下がった気がする。
な、なんだ!?
ビスカは微笑んだまま眉一つ動かさないが、何やら尋常でない雰囲気だ。
同じ4年生だから知ってると思ったんだが……
「……ええ、もちろん。有名ですから。ミリアーナさんがどうしましたか?」
「い、いや……えーっと……この寮にいないのかな、って思って……」
「いえ、彼女は貴族の出身らしいので、こことは別の貴族寮です」
貴族寮もあるのか……
まぁ貴族なんてのはプライドばかりが高い連中だ。
平民と同じ寮に住むのが嫌だから別々にしているのだろう。
「そ、そうなのか……ありがとう。じゃ、また今度……」
「ちょっと待ってくださいなリーシアさん」
逃げようと踵を返した私の肩に、ビスカがポンと手を乗せる。
冷たっ!?
何この手!?
冷たい!?
「確か貴女は闘技大会に出場して、決勝で惜しくも彼女に敗北したのでしたね?」
「あ、ああ……そうだが……」
「その歳で準優勝とは素晴らしいですわ。私、風紀委員の副委員長をしているのですが、興味がありませんこと?」
「いや、特に……」
「まぁそう仰らず。その力を学園のために生かそうじゃありませんか。放課後でしたら風紀委員室には人がおりますので、必ず……」
「分かった!今度行かせてもらうから!ジーナ!行くぞ!」
「あ!リースさん!」
私はビスカの手を振りほどいて走り出した。
寮の中はよく分からないが、とにかく走った。
一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
風紀副委員長、ビスカ……
訳が分からんが怖ろしい奴だ……!!
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寮内を走り回ったせいか、自分の部屋に来るまでにかなり時間がかかってしまった。
既にルームメイトは荷物を下ろしているだろう。
部屋番号を確認する。
126……間違いないな。
「失礼するぞー」
念のためコンコンとノックをしてから中に入る。
相手は一応年頃の女の子だろうしな。
特に返事も無かったので中に入る。
中は2人で使うには十分な広さの部屋だった。
机、クローゼット、ベッド……生活に必要なものは全て2組ずつ揃っていた。
確か風呂と便所は共用だったな。
後で場所を確認しておくか。
「ん……誰だ……?」
部屋の両端に置かれた2つのベッド、その片方で彼女は寝ていたようだ。
寝癖でボサボサだが、栗色の瞳とマッチするきれいな色の茶髪。
つけたまま寝ていたからか銀縁の眼鏡が少し歪んでいる。
ふわぁ、と欠伸をした時に八重歯がチラリと見えた。
「起こしちゃったか。すまないな」
「いや、大丈夫。アンタがルームメイトか。これからよろしく」
その少女はベッドから立ち上がり快活に笑うと握手を求めてきた。
私もそれに応じる。
身長はジーナより少し低いくらいだ。
何歳だろうな。
「ん……アンタの顔……どっかで見たこと……」
「……言われてみれば、お前の顔……何か見覚えが……」
目の前の少女、どっかで会ったことあるぞ?
どこだ?
んーーー???
「あっ!?思い出した!アンタ、リーデルさんの娘のリーシアじゃないか!?」
「こっちも思い出した!お前、ガルシア工房の娘だろ!モズの妹の!」
名前は知らんが。
ガルシア工房は昔、ダースがたまに手伝って小遣いをもらっていた魔帝都ゴルドの工房だ。
息子のモズとは何回か喋ったことがある。
工房にも2回くらい行ったことあるが、その時にいた娘だ。
「いやぁ!こんな所でリーデルさんの娘と会えるとはなぁ!世界ってのは狭い」
「本当にそうだな。えーと……」
「ラズ。ラズ・ガルシア。アンタ、旅に出たって聞いたけど?」
「ああ。冒険者登録したんだけど、学園に入学出来る歳になったから入学したんだ」
「もしかして冒険者上がりの特待生ってのはアンタ?」
「おう、それだそれだ」
「へー。確かアタシより1つ歳下だっただろ?すげぇんだな。あ、悪いけどこっちのベッドはアタシが取っちまったから、そっち使ってくれるかい?」
「ああ。大丈夫だ」
私はもう1つのベッドの上に手荷物を置いた。
着替えなんて必要最低限のものしか入ってない。
「それにしても良かったー。アタシ、こんなガサツな性格だから女子寮じゃ絶対浮くって親父や兄貴に言われてたんだよ。でも知り合いがいるって分かると気が楽になるもんだね」
「私はラズくらいの口調の方が喋りやすいぞ」
「アタシもリーシアは何だか喋りやすいよ」
「リースでいいよ」
「そう?んじゃ、リース」
ラズみたいに砕けた口調の方が男友達に接するみたいで私は接しやすいな。
ツルギとはまた違う……それこそダースと喋るみたいな……
あいつ、何やってるかな……
手紙を寄越す甲斐性無いからなあいつには。
「さっき兄貴って言ってたけど、モズもこの学園に?」
「いや。兄貴は商売に興味があるみたいで、商売の学校に通ってるよ。ここにはいない」
「へー。そうなんだ」
「リースの方も、3年くらい前に旅に出たって聞いたけど、そこから何してたんだ?」
「お、私の冒険譚が聞きたいか?」
「何それ!面白そう!」
こんな感じで私とラズの会話は弾み、そのまま夜まで話し込んでしまった。
お互いの事を全て喋り尽くした頃には消灯時刻間際で、慌てて風呂に入ったら遅すぎると怒られた。
何はともあれ、良いルームメイトが出来た。




