急な出発
「そうなの。皆はしばらくこの街で観光するのね」
「はい。母さんによろしくお願いします」
「シーベルさん、ベルルに帰ったら魔法を教えてくださいですぅ」
「私にも剣術を教えて下さい」
「うーん。受付のお仕事の合間でいいなら……」
「やったですぅ!」
私達はゾディアスの正面門までシーベルを見送りに来ていた。
私達はもうしばらくこの街に残るが、シーベルは受付嬢としての仕事があるので先に帰るというのだ。
「あれ、そういやボレアスは?」
あの大男の姿が見えない。
いれば目立つはずなんだが……
「ああ、あいつね。あいつならもうどこかへ行っちゃったわ」
「どこかへ?」
「ええ。フラリと現れてフラリといなくなるの。すぐには見つからないわ」
まぁ私がベルルのギルドにいた間も一度も見た事なかったしな。
話を聞いてる限り、ギルドの仕事もせず諸国をフラフラとしているようだが……
よくA級から降格されないよな。
「ツルギ君たちはセリーアに行く前に一度ベルルに戻るのよね?」
「ええ。母さんに入学の報告をしないといけませんから」
「ギルドマスターもきっと喜ぶわ。じゃあ、またその時まで」
そしてシーベルは1人で旅立った。
ここからベルルまではまあまあ距離があるが、あれ程の腕前なら問題ないのだろう。
「よし!じゃあ早速観光だ!」
「リース達が魔法学園に行ったらしばらく会えないから、沢山遊びましょう」
「実はこの前可愛い服屋さんを見つけたんですぅ!皆で行きましょう!」
「服屋なんて行っても面白くねぇよ、なぁツルギ」
「ヒロさん、僕たちは別の店に行きましょう」
そして私達6人は振り返って街の中心部に向かって歩き出す。
私もヒロやツルギ達と行動するかな……
服屋を回るといつもジーナが「リースさんにはきっとこれが似合います!こちらも如何ですか?」と、服を取っ替え引っ替え着せてくる。
まるで着せ替え人形だ。
あまり服には興味ないから退屈なんだよなぁ。
「む。おお、お主らか」
「ミリアーナ様!?」
「ジーナ、同じ街にいるんだしそんなに驚くところじゃあないでしょ」
「す、すみません……急でびっくりしまして……」
「ミラ、何してんだ?」
そこにいたのはミラとアンナだった。
先日のメイヤーという女教師はいないようだ。
「少し買い物をな。ところでお主ら、そんなに悠長にしていて良いのか?」
「ん?何がだ?」
「んー。はて、言ってなかったかのぅ」
私は見逃さなかった。
ミラの口元が少しつり上がったのを。
「セリーアで行われる特待生の入学試験までもう1週間も無いぞ」
「1週間!?」
「急ですね!?」
「え……1週間ですか……?それって短いですか?」
「バカ、ジーナ!ここからセリーアまで普通に行ったら10日はかかるぞ!」
「えーーー!!??」
セリーアはゾディアスの南西だが、その間にはギルド連盟に加入していない小さな国々があり、そこを突っ切っては時間がかかる。
だから一度西のベルル辺りまで戻り、そこから南下するのが最も早い。
だがそのルートで普通に歩いて10日。
1週間後には間に合わない!
「メイヤー女史はそのために急いで学園に帰ったのじゃ。妾はその必要が無いのでこうしてここにおるわけじゃ」
「その特待生の入学試験って受けないとやっぱり……」
「学園に入学出来んな」
この野郎!!
絶対分かって黙ってやがった!!
特待生の話を貰ったのは3日前。
その日からだったら少し急げば十分間に合った。
でも今からだと相当急がないと間に合わない。
こいつ、ギリギリに明かして私達がうろたえるのを楽しむつもりだったんだ!
決勝での当てつけか!?
「クソ!覚えてろよミラ!」
「待って下さい、リースさん!」
「今から行くの!?……ってそうするしかないよね……」
「当たり前だ!」
「お、おい!?リース!?」
「3人とも行っちゃうの!?」
「別れはいつも突然ですぅ〜!!」
「道中気をつけるんじゃぞ〜」
そして私達は街を見て回る事もせぬまま、慌ただしくゾディアスの街を去るのだった。
振り向かなかったから分からないが、ミラのやつ、さぞや清々しい顔してただろうな……




