表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
第五章 闘技大会編
103/327

煉獄山にて

「煉獄山と聞いて、どんな怖ろしい場所なのかと思ってたけど、案外のどかな場所だね」


 辺りには花が咲き、小動物が動き回っている。

 僕の聖域魔法により向こうから逃げるというのもあるが、さっきから魔物には1体も遭遇していない。


 僕は今煉獄山にいる。

 さっきまでは割と険しい山道だったのだが、先程からは視界が開け、草原が広がっている。

 地図上ではもうすぐ頂上のはずだ。


 それにしても、老後に住む場所としては良さそうだな〜。


「ていうかこれじゃあ僕が独り言を言っているみたいじゃないか。偶には返事してくれてもいいんじゃないのかい、キール。いるんだろう?」


 僕はそう語りかけるが、相棒は答えてはくれない。


 僕、ニミル・インゴルズはA級冒険者だ。

 主に魔法陣を使った聖域魔法を得意とする。

 しかし僕単体に戦闘能力は殆どない。

 だから必ずパートナーと一緒に依頼に当たる。


 今のパートナー、キールという人は一言で言うならばとてもシャイだ。

 全身黒ずくめで、顔まで布で隠しているのでその素顔を見たことはない。

 2人きりの時でも僕に姿を見せない。


 まぁ悪い人では無いのだ。

 仕事ではきちんと頼りになる。


 でも、彼と組んで5年くらいになる。

 パートナーの事をもっと知りたい。

 それにはまず会話をしなければ。


「本当に本部も人使いが荒いよね。ジリルまで依頼に行かせて、依頼達成次第とんぼ返りで本部に戻れって。しかも帰ったらまた依頼だよ。嫌になるよね」


 返事は無い。


「そろそろゾディアスでは闘技大会の時期だね。まぁ僕達A級は忙しいから出られないんだけど……」


 返事は無い。


「そういえばマインの町周辺の様子はどう?もう2年近く経つし成果は無いかもだけど」


 目の前に黒服の長身の男がスッと現れ、紙を渡してまた消えた。

 ……仕事の話にしか反応してくれないんだから。


 その紙には『異常なし』と丸い字で書かれていた。

 彼、あんな見た目だけど字は随分と可愛い。

 ギャップってやつだね。


 このマインの町というのは山脈街道の町で、2年ほど前に妙な魔物が確認された。

 あの魔物はどうもキナ臭い。

 どうも人為的な事件に思えるのだ。

 僕の推理が正しければ多分あの組織が……


 だから今でもこうしてキールに網を張ってもらっている。

 2年前の調査では確証は得られなかった。

 だが犯人は犯行現場に戻る可能性が高い。


 2年間何も無いけどね。


 僕の推理が外れたかな…?

 それとも……?


「はぁ……仕事の話は止めよう」



--------------------



 そして煉獄山の山頂に差し掛かった頃、妙な物を見つけた。

 あれは……小屋の残骸?


 近づいてみると、それは小屋が燃えた跡だった。

 こんな所に人が住んでいたのか?


 飛竜は出ないにしろ、少なからず魔物が出現するこんな場所に?

 今は誰もいない廃墟のようだ。


 その小屋の側には苔に包まれた四角い石が置かれていた。

 鋭利な刃物で斬ったかのような断面だ。

 そしてそこには『ゴッチ ここに眠る』と書かれていることから、墓なのだと推測される。

 手入れもされてないな……


 つまり……ゴッチという人がここで死んだ。

 火事か何かかな?

 そして第三者が彼(?)を弔い、ここから去った……ってとこか。


「まぁ見ず知らずの人だけど、お祈りくらいはしていっても罰は当たらないよね……」


 僕は墓石の周りに簡単な魔法陣を描いた。

 その魔法陣に魔力を流し込むと苔がみるみるうちに消えていく。

 僕にはこれくらいしか出来ないけど……


「安らかに眠ってください」


 僕は墓石に手を合わせた。



-------------------



「よし、じゃあ行く……ん?」


 小屋から離れて山を下ろうという時、何か違和感を感じた。

 それは小屋の正面。

 只の地面のようだが……


「んーー?」


 僕はそこに近づいて目を凝らした。

 ここに……何かある……?


「触るな!」


 それに手を触れようとした時、背後からそう声がした。

 次の瞬間、黒い影とともに金属音が響く。

 その声と僕の間にキールが短刀を手に立っていた。

 地面には短剣が転がっている。


 キールの視線の先、そこには若い男がいた。

 高価そうな鎧を着込んだ青年だ。

 野党には見えない。

 まず、その鎧のエンブレムには見覚えがある。


 聖神教だ。


「それに……触るな!」

「それってのは……これかい?」


 僕は手に持った物を青年に見せつける。

 見せつけるといってもそこには何もないように見える。

 だが僕の手は確かに何かを持っている。


 何だろうなこれ。

 剣……っぽい?

 不可視の魔法がかかった剣とか?


「随分と大事な物みたいだから返してあげたいのは山々なんだけど……聖神教の聖騎士さんがこんな所で何してるの?」

「お前に……言う必要はない!」


 身なりからして聖騎士だと思ったけど、当たりっぽいね。

 でも聖騎士さんはかなり頭に血が上っている様子。

 剣を抜いて斬りかかってくる。

 でもね。


カキィン!


「………」


 キールが彼の剣を受け止めて守ってくれる。

 僕はここまで近づかれると殆ど何も出来ないからね。

 彼がいてくれて本当に助かった。


「くっ!おま……ぐふっ!」


 聖騎士はもう一度斬りかかろうと剣を振りかぶるが、ガラ空きになった腹部にキールが蹴りを入れて吹き飛ばす。

 見たところ若い聖騎士のようだし、キールとは経験が違うな。


「質問に答えてくれたら、返答によってはきちんと返す。だから教えてくれないかな?聖神教にとってこの辺りは勢力圏外のはずだ。何してるの?」

「言う必要は……ない!」


 その時、聖騎士の鎧が赤く輝いた。

 そして次の瞬間、驚くべき事が起きた。


 キールの長身が一瞬で吹き飛ばされ、聖騎士が僕に肉薄して剣を構えていた。


「なっ……!」

「死ね!」


 一体何が……っ!

 振り下ろされる白刃に、僕は思わず目を閉じた。


 ………


 ………


 何か柔らかい感触を感じる。

 それに心なしか良い匂い……?


 目を開けてみると、目に飛び込んできたのは黒い服。

 僕はキールに抱きかかえられていた。


 辺りに聖騎士の姿はない。

 僕が手に握っていた剣もいつの間にか取り落としてしまったようだ。

 彼が回収していったに違いない。


 だが今はそんな事どうでもいい。


「あっ……」

「あ………」


 キールの頭を覆っていた布がパサリと落ちた。

 僕を庇った時に聖騎士に斬られたのかもしれない。


 だがそんな事どうでもいい。


 キールと目が合った。


 眩しい真っ白な肌と切れ長の黒い瞳のコントラスト。

 鼻はすらっと高く。

 唇もプックリと健康的。

 そしてサラサラとした肌触りの良さそうな黒髪に、そこからチョコンと覗く猫の耳。


「キール……女の子だったの……?」

「………っ!」



--------------------



「はぁ……はぁ……」


 僕は林の中、木の影に座り込んだ。

 身体がバラバラになりそうな程痛い。

 まだ試作中の強化魔法陣だったらしいから仕方ない。

 でも……これを取り戻せた。


 僕の手の中には不可視の剣。

 紛れもない。

 あの人の剣だ。


 音信不通になって2年。

 あの人の最後の任務の地で見つけたこの剣。

 つまりはそういう事なのだろう。


 許さない……

 対象は確かに死んでいたはずだ。

 あの人を殺した別の奴がいる。


 そいつを見つけ出さねば……


 僕は懐から1枚の紙を取り出した。

 ここには僕が麓の村で調べた、ここ2年ほどで煉獄山から下りてきた人物の特徴が書かれている。

 煉獄山を通ってくる者なんて、2年の間でも片方の手で足りるほどだ。

 調べるのは容易かった。


 まずはこれから当たってみる。


 待っていて下さい。

 仇は絶対に取ります。

 師匠。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ