異名
「リースの決勝進出に……」
「「かんぱーい!」」
その夜、私達は宿の食堂で宴を催していた。
私の決勝進出祝いだ。
ちなみに乾杯といっても杯の中身はジュースだ。
私達の誰もまだ飲める歳ではないからな。
だが料理はすごく豪華だ。
宿の女将さんがサービスだと言ってタダで出してくれた。
気前のいい人だ。
「祝うのは優勝してからでいいんじゃないか?」
「何言ってるのよリース。その歳で闘技大会の決勝に行く事がどれだけ凄い事か分かってるの?」
「ふぉうふぁふぉ!ふぉまえはふふぉい!」
「ヒロさん、飲み込んでから喋るですぅ」
そういうメルの口元にもソースがついてるぞ。
「ジーナも……ツルギも、結果は残念だったけど凄かったわ」
「きょ、恐縮です……」
「ありがとうございます。あ、メルさん、ソースがついてますよ」
「あ、ありがとうですぅ……」
アイリスもメルも、やはりツルギに対してだけは少しぎこちない。
いつも通り振舞おうとしてくれているが。
まぁ仕方ないな。
存分にドン引きされろ。
「お、おいリース」
「ん?なんだ?」
ヒロが小さな声で話しかけてきた。
「なんつーか……ツルギは本当に大丈夫なのか?」
「ん、大丈夫だと思うぞ」
「思うってなぁ……俺はあいつと同じ部屋なんだぞ……」
「大丈夫だ。確かに試合では少し怖かったかもしれんが、いつも通りのツルギだよ」
「ならいいんだが……」
「2人で何話してるの?」
「あ、いや!何でもない、ツルギ……」
ヒロはツルギに対して必要以上にビクビクしてる。
まぁ寝首をかかれる事はないから安心しろ。
お前がアビリティ持ってたら分からなかったけど。
「リースさん」
「どうした、ジーナ」
「ミリアーナ様から何かお言葉がありましたか?」
「いや、ない」
ミラならすぐにでも飛んできて「明日は存分に戦おうぞ!」とか言ってきそうな物だが。
「今ミラはややこしい立場だからな。私達に頻繁に接触するわけにはいかないんだろう」
ミラは身分を隠して学園生活を送っているらしい。
私達と接触してしまうと私達から足がついてしまい、姫様だとバレる可能性がある。
2日目に会ったのも大分無理をしたんだろう。
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少し料理が多すぎるかと思ったが、驚くことに全て私達の腹の中におさまった。
私やツルギ、ヒロが沢山食べたのが大きい。
今日は力を使いすぎて、めちゃくちゃ腹が減ったからな。
ヒロは食いしん坊なだけだ。
そして明日に備えて寝ようと宴はお開きになった。
別の部屋に別れる時のヒロの顔には悲壮感が漂っていたが気にしないでおこう。
まぁどうせ明日には慣れてるだろ。
「で、ツルギは大丈夫なの?」
「お前ら、本当にツルギ怖がりすぎだろ……」
「だってぇ!観客席で見てても怖かったんですよぉ〜!」
部屋に戻るなりアイリスにそう聞かれてしまった。
「ちょっとエキサイトしすぎただけだって。さっきも普通だっただろ?」
「そうですけどぉ……」
「……思うところがない訳じゃないけど、戦ったリースがそう言うなら信じましょう、メル」
「あー。まぁなんだ。特にツルギが変になったとかは無いから、いつも通りに接してやってくれ」
「努力するわ」
「うぅ……がんばりますぅ」
ここまで怖がられてると気の毒だから、私からもフォローしてやる。
まぁ私にも遠因があるらしいし……
いや、巻き込まれただけとも言えるけども。
「それはそれとして、リース。あなたとツルギってそういう関係だったの?」
「は?」
「そうです!リースさん!ツルギさんとそういう関係なんですか!?」
ジーナに肩を掴まれる。
ちょっと待て!
そういう関係!?
何の話だ!?
てかジーナ、肩痛い!
ギリギリいってる!
試合の時より殺気が凄いぞ!?
「な、何の話だ!?」
「とぼけたってダメです!ツルギさんとの試合の後、ツルギさんがリースさんを……」
「私を……」
ジーナが顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。
「お姫様抱っこで医務室まで連れてったんですぅ」
「はぁ!?お姫様抱っこぉ!?」
初耳なんですがそれは!?
「試合終わった後、気を失ってるリースをツルギがお姫様抱っこで連れて行ったのよ」
「2人はデキてるんじゃないかってもっぱらの噂ですぅ!」
「デキててたまるか!」
「デキてないんですね!?」
「だから痛ぇよジーナ!」
肩がもぎとられそうだ!
なんとか数分かけてジーナを落ち着け、詳しい話を聞いた。
と言っても言葉以上の意味はなく、大衆監視の下、ツルギが私をお姫様抱っこで連れて行ったってだけだった。
何してんだよアイツ……
いや、別に減るもんじゃないんだが……
大衆の面前だとそりゃ恥ずかしいだろ……
「最初はおんぶだったんですけどねぇ。何で持ち替えたのでしょうか?」
「何でかしらね」
「まさか私を辱めようと……」
いや、そんな事してあいつに何の得が……?
「そのせいでリースに妙な異名までついちゃったしねぇ」
「異名!?」
「やっぱり知らなかったのですぅ」
ちょっと待て!
異名!?
それって前世のアレみたいな!?
アレは初めて聞いた時も赤面ものだった。
もう思い出したくもない。
「あちこちで言われてるわよ。『鉄の銀姫』だって」
「『鉄の銀姫』……ですか……」
「うわぁ!聞きたくない聞きたくない!」
「かっこいいですぅ!」
やめろぉ!
やめてくれ!
恥ずかしさで顔が爆発しそうだ!
案の定、また小っ恥ずかしい名前がついてるじゃねぇか!
『剣王』とか『聖域』みたいなシンプルなやつでいいじゃねぇかよぉ!
何が姫だ!
「姫っていうのはお姫様抱っこから来ているのでしょうか……銀は神だとして……鉄ってのはどこから?」
「『鉄の女』とかそういう異名もあるんだし、純粋に強い事の表現じゃないかしら」
「やめろよ!もう寝る!」
私はベッドに飛び込み頭から布団を被った。
もう聞きたくないよ。
「気にすることないわよ。闘技場の決勝進出者って全員ほぼ例外なく異名がつくんだから」
「ていうことはミリアーナ様にも」
「『暴君』って異名がついてますぅ!全試合ほぼ一撃でケリをつけますから!」
『暴君』……
なんだろうなぁ……
似合ってる。




