森での戦い
「リース、森に行こうぜ!」
ダースと遊ぼうと素材屋に行くと、急にそんな事を言われた。
デートじゃないよね?
ダースは友達だけど、付き合うとなるとちょっと……
「こら!ダース!お前の仕事にリースちゃんを巻き込むんじゃねえ!」
「いってぇ!なんだよ、良いだろ!?なぁ、リース!」
ダーリさんがダースに拳骨を食らわせる。
ダースは涙目で頭を抑える。
なんだ、ダースの仕事か。
多分キノコなどの素材を取りに行くのだろう。
ピクニックみたいで楽しいかもしれない。
あんまり森の奥には行ったことないし。
「オレは行ってもいいよ」
「ほら!リースなら来てくれると思ったぜ!」
「うーむ……リースちゃんがそう言うなら強く言えねぇんだが……リースちゃんに何かあったらリーデルさんに顔向けできねぇよ」
「じゃあ母さんに許可を取ってから行きますよ」
「うーん。それならいいか。ダースを頼んだぞ、リースちゃん」
「こらバカ親父!俺の方がリースより年上だぞ!」
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「森に?良いわよ。晩ご飯までには帰ってきなさいね」
母さんに事情を話すと随分あっさりと許可をもらえた。
いや……普通に走り回ったり木剣を振り回したりしてるけど、一応オレは二歳児なんで森とか危ないと思うんですが……
2年以上過ごしてみて気づいたのだが、基本的に魔族の人たちは放任主義だ。
さすがに死んでも仕方ないとかは思ってないんだと思うが、必要以上に束縛はしてこない。
オレとしては都合が良いんだが、何か大事にされていない気がして寂しいんだよなぁ。
母さんはダースの分も含めたお昼ご飯と、1本の剣をくれた。
これで戦えって事なんだろうが……
「リースはいつも木の剣を振っているからこれが良いわよね?長さは大丈夫?」
母さんはオレに剣を持たせて振れるかどうか確認する。
短めの剣なので、幼女のオレにとっては少し長い程度で十分振れる範囲なんだが……
「なんで戦う前提なんだ?」
「え?ダース君が森に行くってことはダガーウルフの素材じゃないの?」
「ああ!そうだぞ!」
魔物の討伐だったのか!
止めろよ!
親として!
「リースは冒険者に憧れてるんでしょう?それだったらダガーウルフも一人で倒せないとね」
「リースは冒険者になりたいのか!すごいな!」
いやいや、そんな事一度も言った記憶ないんですが。
まぁ思い当たる節も無くはない。
オレは今みたいに動き回れるまで屋敷の書庫で色々な本を読んでた。
多くは英雄と呼ばれる冒険者の冒険譚だ。
こういう男っぽい口調や日々の鍛錬も冒険者に憧れてるから、と納得してたのだろう。
冒険譚は好きで読んでいたのだが、冒険者になりたいのかと聞かれると別にそうでもない。
第一オレには聖神教の奴らに一泡吹かせるという目的がある。
まぁそういう勘違いをしてくれる分には構わないので、オレは愛想笑いでその場を誤魔化しておいた。
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母さんに許可を取った後オレたちはゴルドの南、ファーの森にきた。
「で、ダガーウルフの素材が必要なのか?」
「ああ、牙を20体分親父に頼まれたんだ」
20体分……って多っ!?
ダガーウルフってあれだろ、割とどこにでもいる家畜とかを襲う魔物。
冒険者ギルドの魔物図鑑には、単体ではさほど強い方ではないが群れで行動するため注意が必要、って書いてある奴だ。
単体ではさほど強くないって書いてあるが、一般人では勝てない程度には強い。
こいつを一対一で倒す事が駆け出し冒険者最初の壁になるとか。
「オレら二人で大丈夫なのか?」
オレたちは獣人の子供と魔族の幼女、たつた2人のパーティなのだ。
獣人も魔族も肉体的には人族を上回るが、少々無謀なんじゃなかろうか。
「大丈夫大丈夫。怖かったら俺の後ろに隠れてろよ」
「そういえばダースはダガーウルフを倒した事あるのか?」
ここにいるダースは素材屋の息子。
これだけ自信満々なんだ。
きっと今まで何体もダガーウルフを屠ってき……
「今日が初めてだけど牙の剥ぎ取り方は教わってきたかは大丈夫だ!」
大丈夫じゃねー!
倒した後の事を心配してんじゃねーよ!
危なくなったらすぐにダースを引きずってでも逃げよう。
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「オラー!ダガーウルフー!出てこーい!」
「馬鹿!あんまりデカい声出すな!」
森の中を進んでいる途中、ダースはダガーウルフを集めようとデカい声を出すが、オレがその頭をはたく。
「いって…!だって全然出てこねーじゃん」
「ダガーウルフの群れが来たらどうするんだよ!先に見つかったら不利に決まってるだろ!」
ただでさえ戦力に不安があるんだ。
ダガーウルフの群れと戦うのは勘弁してもらいたい。
「ていうかダースは迷いも無く進んでいくけど帰り道は分かるんだよな?」
「ん?リースの匂いを辿って帰れば大丈夫だぞ。リースは良い匂いがするからな」
「ばっ……!お前!」
「いって……!な、なんで叩くんだよ!」
「うるさい!馬鹿野郎!」
そんな無邪気な笑みで人の匂いがどうのこうの言うんじゃねえよ!
ダースに下心がないということは分かってるが恥ずかしいだろ!
多分今のオレは耳まで真っ赤だ。
と、その時ダースの狼の耳がピンと立った。
「リース!」
「……分かってる」
オレもほぼ同時に気配を察知した。
繁みの向こうに複数の気配だ。
案の定、既に囲まれている。
「1、2………5体か…」
「いや、6体だ。奥にもう一匹強いのがいる」
オレの気配察知には何もかからないが……
だが獣人の五感はとても敏感だ。
彼がいると言ったのなら間違いない。
おそらく奥の強い個体が群れのリーダーなのだろう。
「囲まれてるから仕方ない。お互いの背後を守りながら……」
「行っくぜー!」
「あ、こら!」
オレの指示も聞かずに、ダースは気配の方に走り出した。
同時に遠くからダガーウルフの遠吠えが聞こえて、繁みから複数の影が同時に飛び出してきた。
飛び出したダースに2体のダガーウルフが襲いかかる。
「てりゃあ!」
そのうちの1体にダースは拳を振り抜く。
いくら獣人とはいえ子供の拳だ。
普通ならダガーウルフに致命傷を与える事は出来ないだろう。
だが、ダースの拳は違った。
「キャン!」
拳がヒットする瞬間鈍い音が響き、空中でダースに迎撃されたダガーウルフが悲鳴をあげて吹き飛ばされる。
骨の何本かは折れたのだろう。
「闘気を纏えるのか…!」
ダースの拳が闘気を纏っていたのは一目で分かる。
今も僅かだが闘気が漏れ出ているからだ。
闘気を纏う事による身体強化は戦士の必須技能である。
獣人は闘気の扱いが上手いと聞くが、それでもこの年でこれだけ使いこなせるなど天才の部類だろう。
だが……
「油断すんな!荒ぶる火炎よ、敵を焼き尽くせ!『火弾』!」
オレはダースに迫るもう1体のダガーウルフに左手をかざし、限界まで詠唱を短縮した呪文を唱える。
手のひらで火の玉が形成され、ダースに牙を剥くダガーウルフに向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「キャイン!」
火弾はダガーウルフに直撃すると爆発してダガーウルフを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたダガーウルフは黒焦げになり、地面に打ち付けられるとすぐに動かなくなった。
……つえー
初めて実戦で魔法を使ったが、一撃で魔物を屠る威力があるとは……
初級魔法だったから心配だったんだけどな……
「サンキュー、リース!」
「だから突っ込むな!」
そのままダースはもう1体のダガーウルフを殴り飛ばすと繁みの奥に飛び込んでいった。
追いかけて文句の一つも言ってやりたい所だが、そんな場合ではない。
オレは振り返り、背後の2つの気配に意識を向ける。
2体のダガーウルフがこちらを伺うように立っていた。
その目には仲間を殺された怒りのようなものを感じる。
魔法が想像以上に有用な事は分かったし、この機会に剣技の方も確認しておこう。
オレは腰の鞘から母さんにもらった剣を抜き片手で構える。
「グルルルル……ウォン!」
オレが臨戦態勢を取るとダガーウルフが2体とも同時に突っ込んできた。
だがオレは余裕を持って左手をかざして対応する。
「剛胆なる大地よ、敵を穿て!『土弾』!」
オレが片手で剣を構えるのには理由がある。
左手で魔法を使うためだ。
今は手が小さくて使えないが、魔銃が使えるようになったらそちらを使うつもりだ。
オレから向かって左側のダガーウルフに向かって土の塊が飛んでいく。
形成の際に形を少し弄り、土の弾丸に加工し、さらに回転も加えて貫通力を増大させた一撃だ。
「ウォン!」
だが正面から真っ直ぐ撃たれた魔法など避けるのは容易い。
ダガーウルフは跳躍して土弾を避ける。
だが、そこはまだオレの手のひらの上だ。
オレはそこに先回りしており、あとはまんまと誘導されたダガーウルフの喉を剣で掻っ切るだけで事足りた。
ダガーウルフは魔物の中では頭は良い方ではあるが、それでも動きは読みやすい。
特にこの戦法は、前世でもダガーウルフに襲われた際仲間の魔術師と連携して行っていた戦法なので、再現も簡単だった。
喉を掻っ切られたダガーウルフは断末魔の叫びをあげることさえなく血だまりに伏した。
しかしそれで終わりではない。
オレがすぐに横に跳ぶと、オレが元いた場所の地面がもう1体のダガーウルフの爪で抉られる。
ダガーウルフはそのまま急激に方向転換し、オレに向かって飛びかかる。
オレは深く息を吐き闘気を練り、体中を駆け巡らせる。
その間にもダガーウルフの爪はオレを八つ裂きにしようと風を切りながら迫ってくる。
オレは少し体を捻り、その攻撃を避けつつすれ違いざまに剣撃を加えた。
1体目同様、喉を切り裂かれたダガーウルフは鮮血を迸らせながら即死した。
遠距離攻撃としての魔法は詠唱短縮によって発動時間も短く、使い勝手が良かった。
それに体も思った通りに動いてくれる。
子供ながらに前世のオレよりも強い。
そう確信した。
魔族、スペックたけー。
オレは剣を一振りし血糊を飛ばして鞘に収め、ダースの消えていった方向に向かった。
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「おう、リース!向こうは終わったか?」
ダースは絶命している巨大なダガーウルフの牙を剥ぎ取りナイフで剥ぎ取り終わった所だった。
体中に切り傷を作っていたが、特に大事には至らなさそうだ。
「いや、お前……二歳児に魔物を任せるなよ」
まぁ中身は二歳児じゃない上に、魔族の高スペック肉体を持っているので簡単に退けれた。
だがダガーウルフの大人の体長はオレよりデカい。
こんなか弱い幼女にそんなもん3体も任せるかね……
「あのリーデルさんの娘なんだからそんぐらい大丈夫だろ?」
「いや、大丈夫だったけど…」
話が噛み合わない。
根本に存在する常識から違うんだろうな。
「そうだ。オレにも牙の剥ぎ取り方教えてくれよ」
「よし!じゃあさっきの所に戻るか!」
「おい!不用意に走るな!また囲まれたら……」
その後オレたちはダガーウルフを狩り続けたが、ダースが騒々しく走り回るために20体より多くのダガーウルフを引き寄せ、オレは彼のフォローに追われるのだった。




