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外道ノ転生  作者: 西の雷鳥
終わり
1/327

序章

初投稿となります

ド緊張です

 暗闇だけが支配する空間。

 そこはとある建物の地下室だった。

 室内には家具などといった生活感のあるものは皆無。

 使われている形跡など無いに等しいのに、埃一つ落ちていない。

 定期的に人の出入りがある証拠だ。


 暗闇の中でもぼうっと浮かび上がる唯一の光源。

 それは床の中央に描かれた幾何学的な図形であった。

 見る者が見れば、計算されつくした見事な魔法陣だとウットリするだろう。

 その魔法陣が持つ効果は『治癒』。

 魔力が供給される限りその上に存在するものは治癒の魔法の恩恵に預かることが出来る、まさに『聖域』を作り出す魔法陣なのだ。

 一部の城や教会といった限られた建物にしか存在しない上級魔法陣の存在から、この建物もそうした建物なのだろうということがうかがえる。


 その魔法陣の上にその『人間』は横たわっていた。

 いや、『それ』の見た目はもはや人間と呼べる形状からあまりにもかけ離れている。

 両腕、両足は切り落とされ、達磨のような見た目となり、為すすべもなく床に転がっている。

 治癒の魔法陣のおかげか切断面の傷はふさがっているので失血死の心配はない。

 さらに言えば、治癒の魔法陣によって空腹による餓死すらも免れている。

 だが一週間水以外口にしていないその飢餓感からは解放されないし、魔法陣から出ると一時間もせずに餓死してしまうだろう。


 移動することも出来ず、餓死することすらも許されない。

 治癒の魔法陣は『聖域』を作り出すと述べたが、横たわっている『それ』にとっては忌々しい『牢獄』でしかない。

 脱出不可能、難攻不落の鉄壁の牢獄なのだ。


 一般人なら絶望のあまり発狂するような状況であるが、『それ』の眼は闇の中でギラギラと輝いていた。

 脱出する算段でもあるのか、それともただ無謀なだけか、絶望的な状況でも『それ』に諦めの色はなかった。



 するとその時、地下室唯一の扉が開き、一人の男が入ってくる。

 黒々とした髪や肌のハリから、20代程の青年のようだ。

 だが彼の纏うオーラはたかだか20年では得られない密度であり、その上等な法衣からも只者ではないことが分かる。


 青年は部屋に入ると部屋の中央の『それ』に目を向けた。

 歴戦の冒険者でも眉をひそめ、ただの成人男性なら卒倒してしまいそうな光景であるが、彼は人懐こそうな笑みを浮かべると

「すまない、待たせてしまったね」

と、まるで友人に話しかけるように穏やかな言葉をかけ、扉を閉める。


「うーん。暗いな」


 青年がそう呟くと、青年のすぐそばに光球が出現する。

 青年は「これでよし」と満足げに呟くと、ツカツカと歩を進め『それ』の目の前まで移動する。

 『それ』は地面に横たわっているので青年が見下ろす形になるが、そんな青年を『それ』は挑戦的な眼で見上げる。


「はじめまして…のはずなんだけど、なんでそんなに僕を睨むのかな?何か僕に恨みでもあるの?」


 青年が『それ』に言葉をかける。『それ』は面白くなさそうに睨みながら

「……お前が知らなくても俺はお前を知っているし、恨みもあるんだよ。レイブンハート司教」

「いやぁ。なるほどね。有名すぎるのも考え物だなぁ」


 だが青年は『それ』の敵意などどこ吹く風といった様子で受け流す。

 その様子からは慣れがうかがえる。


「でも君も十分有名だよ?聖教教会転覆を目論む神敵、とか。神をも恐れぬ異端者、とか。馬の糞ほどの価値もない背信者、とか」

「随分名誉な肩書だ。あの世への手土産にするぜ」

「ふふっ。そうだね。君のような人間には褒め言葉かもね」


 青年は心底楽しそうに会話をしているが、『それ』は敵意を隠そうともしない。

 それどころか殺気まで漏れ出している。


「僕はこんな立場だから君のような人と話せる機会も少ない。もう少しお喋りしていたいところなんだけど……残念ながら君にはもうあまり時間が残されていないんだ」

「……チッ」

「いや、本当に残念なんだよ?君に恨みはないし、会ってすぐにさよならというのも悲しいじゃないか」

 

 青年は大げさに残念そうな素振りを見せる。

 だがその表情にそういった感情は読み取れない。

 彼のおちょくるような言動に『それ』はさらに敵意を増大させる。


「……残された時間ねぇ。俺に何する気だ?普通に死なせる気は無いんだろう?」

「ん?なんでバレたの?」

「……考えれば分かるだろう。俺のような教会に仇なす犯罪者は普通は即刻公開処刑だ。四肢を切り落とし、餓死寸前まで痩せ細らせる意味はない。こんな姿じゃ民も怖がって処刑広場に集まらないし、それじゃあ見せしめの意味がない。それに寄越されたのが『裏司教』レイブンハート様だ。何かあるに決まってる」

「『裏司教』?そんな異名が…心外だなぁ」

「黙れ。化け物め」


 がっくりと青年は肩を落とすが、そういった仕草は周囲を油断させる計算されつくしたものだということは『それ』も知っている。

 そんな彼が自身の異名など知らないはずはない。


「ん~じゃあ少しだけ教えてあげようか。実は少し前に禁書の棚を漁ってたら面白い術を見つけてね。それを君に試したいワケ」

「禁書……今の言葉が民衆に知れ渡ったらお前は失脚するんだろうな」

「心配ないよ。君は死ぬし」


 何が可笑しいのか、青年はからからと笑う。

 人の生死が関わっている会話だというのに、その口調からはそういったことを感じさせない。

 青年にとって『それ』はもはや人ではなく、禁術を試すための『玩具』なのだ。


「安心してよ。これをやり遂げたら君は聖神の使徒として、聖神様の忠実な下僕として逝けるんだよ?」

「クソくらえ…だな」

「君の意見なんて聞いてないんだよねえ」


 またもや楽しそうに笑うと、青年は魔法陣のすぐそばまで近づきしゃがみ込んだ。

 『それ』と青年の距離が急速に縮まった。

 青年は『それ』の頭部にゆっくりと手をかざす。


「安心して、痛くないよー」

「……一つ良い事を教えてやる」

「…ん?」

「……俺みたいな諦めの悪い男を相手するときは最後までゆだ……ッ!!」


 その言葉は途中で遮られる。

 声が出なくなったのだ。

 『それ』をいつの間にか黒い甲冑を着た人間が踏みつけており、そのうなじから剣を突き立て声帯を潰していたのだ。

 黒甲冑がさらに足に力を込めると『それ』の肋骨がバキバキと音を立てて折れた。


「……最後まで油断するな」

「油断も何も、君がいるじゃん」

「……ッ!!……カ…ハ………ッ!!」


 黒甲冑が発した低い声に青年は先程までと変わらぬ様子で返す。

 首筋に剣を突き立てられ、肋骨を折られた『それ』は喀血するが、治癒の魔法陣によって意識を失うことはできない。

 しかし剣が突き立てられたままの声帯は回復せず、声を発することはできなくなっていた。


「声によって起動する魔法陣でも体のどこかに仕掛けてたのかな?自爆して僕を道連れにするつもりだったとか?こんな状況でも諦めないなんてさすが『不屈』だねぇ」

「……さっさと術を施せ」

「ハイハイっと」

「ッ…!!カ……エッ……!!」

「んー何て言ってるか分かんないなー」


 治癒の魔法陣が働いているのに段々と遠くなっていく意識。

 霞む視界の中で最後に見たのは楽しそうにこちらに手を伸ばす青年の姿。

 『それ』は朦朧とする意識の中でその顔を目に焼き付ける。


(絶対に許さねぇ!!犬だろうが豚だろうが何でもいい!!来世があるのならこの野郎に絶対に復讐してやる!!!!)


そして『それ』…『不屈の反逆者』アルバート・アイアンスピアの意識は闇に落ちた。

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