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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第2章 2-2 密談

 葉巻を消し、バルビィが豪快に木のスプーンで、魚介の脂とエキスが存分にしみ出たスープをかっこむ。カンナもそれへ続いた。どちらにしろ、腹がすいている。


 「おいしい」 

 カンナは機嫌がよくなり、次々にそれらを口に入れる。

 「いい食いっぷりだ」

 二人はしばし、食べ、飲んだ。


 「いやあ、食ったねえ」


 バルビィが三杯目のエールを傾けて、再び葉巻を点ける。カンナはまだ最初のジョッキをなめていた。


 「無理にのむこたねえよ。こういうのは、少しずつ味がわかるのが楽しいんだ」

 「それなら、茶あでも飲みな。うちのババアの特製だ」


 おやじが、ハーブティーを出した。バーレスで飲んだものとも異なる味がする。使っているハーブがちがうのだろう。


 「ありがとうございます」

 カンナの精神がだいぶんほどけたのを頃合いに、バルビィは満足そうに話をきりだした。


 「食い道楽に悪いやつはいねえよ。そうだろ? 風呂にでもいこうぜ。そこでゆっくり、さっきの話の続きだ」


 バルビィがなにやらスターラの小さな銀の粒を払って、店を出た。すっかり暗くなっている。カンナは高い星空を見上げた。もう、息が白い。アーリー達が心配しているだろうが、そもそも、どうやって自分は気を失ったのか思い出せない。


 「ねえ……わたし、あなたと戦って……どうやって……?」


 「あ? ……(おぼえてねえのか)……ああと、そうだな。マウーラってやつが、あんたを殴りつけたんだよ」


 「そうだっ……け?」


 「なんでもいいやな。本気じゃなかったからよ。本気だったら、あんた、いまごろ死んでるぜ。タオルをもったか? 公営の風呂だからタダだぜ。その変わり設備がなんにもねえんだ。タオルと、歯磨きをもってな。コップも持っていけよ」


 バルビィの家に寄り、すべて貸してくれた。何かと世話焼きなのだろうか。それとも、魂胆があるのか。魂胆があるに決まっている、と思った。


 ランタンを持って、二人はすっかり人通りの無くなった夜道を歩いた。町外れの海岸ぞいに、その公営浴場はあるという。


 「あのギロアってやつはよ」

 呼び捨てか。カンナは驚いた。


 「ガリア遣いなんだか、ちがうんだか分からねえんだ。怪しいやつよ。カネ払いはいいんだけどよ、得体がしれねえんだ。得意技は催眠術よ。コンガルの連中は、竜と人が共存できると思い込まされてるんだ。そんなわきゃねえだろよ。竜が人とって食ってるってえのに」


 ゲ、ヒャ、ヒャヒャ……と、バルビィが皮肉めいて笑う。


 「で、でも、竜の国では、みんな竜といっしょに暮らしてるんでしょ?」


 「そら、それぞれの竜皇神を信仰して、竜を利用して暮らしてるってだけだ。竜はそもそも半分家畜みてえなもんよ。こっちにだって大昔はいっぱいいたはずなんだがな。古代帝国ってのが、竜をだいぶん殺したから、いなくなったんだ」


 「そうなんですか!?」

 ウガマールで習った歴史とは異なる。


 「いいか、ここ数十年来の竜属の侵攻は根が深いぜ。あんたに云っても分からねえだろうがよ。ダール共が誰かに命じられて、にわかにこっち側を支配下に置こうとしてる。誰かったって、分からねえんだ。まさか神様じゃねえだろうがよ。何のために? それも分からねえ。ダールなんて、みんな仲が悪くて、お互いに何人かで組を作って縄張り争いしてるのが関の山の連中だったんだが……にわかに世界の指導者きどりよ。ああ、気分が悪いねえ」


 「あなたって……」

 「バルビィでいいよ、カンナちゃんよ」

 「バルビィは……」


 「おれは傭兵だからよ。人も殺すし、竜も殺すさ。カネさえもらったらな。だけど、あのギロアはいけすかねえ。その手下のシロンとマウーラもだ。武士かなんかみてえに気取りやがって。おれと同じ、うすぎたねえ殺し屋のぶんざいでよ」


 「もう一人、いたような?」

 カンナは、床に座っていた、不気味に笑う小柄な女を思い出した。


 「ヴィーグスは……よくわかんねえな。あいつは、どこの人間かもわからねえんだ。バグルスのできそこないじゃねえか? って気がする」


 「まさかあ」

 「冗談だぜ。『バグルスは、ガリアを遣わねえ』からな」

 そうなのか。カンナは意外な事実を知った気がした。


 「そもそも、ガラネルとかいうダールが、腹が立つんだ。裏でこそこそしやがって、手下を影から操ってよ。アーリーとかデリナのほうが、可愛げがあらあな。自分でちゃんと表立って動くからな」


 不思議な人物だとカンナは思った。味方にもなるし、敵にもなる。信用はできない。しかし、いまは味方のような気がした。いや……。


 「お、ついた。ここだぜ」


 海沿いの掘っ建て小屋に到着する。道からちょっと海岸へ下りたあたりに小屋があり、中に小さな風呂がある。男も女も分かれていないような風呂だった。


 「ほかに誰か来ないの?」

 カンナが外と中を隔てる薄っぺらい板壁を触りながらつぶやく。


 「こんな時間に、おれら以外だれもこねえよ。妙なのが来たって、おれたちにゃガリアがあるだろ? ちいせえことで心配すんな。ほら、石鹸だ。ウガマール産だぞ。おれはこう見えて、きれい好きなんだ。歯も磨けよ。温泉水を使んだぞ」


 ランタンを壁にかけ、素早く服を脱ぐとバルビィはカンナへタオル、石鹸、竜の毛の歯ブラシと真鍮のカップを差し出した。金属の入れ物に入った歯磨き粉は、塩と香料と貝殻を小麦粉のように細かく砕いたものでできた粉だった。


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