第2章 1-3 誘い
カルマとも異なる独特の雰囲気に、カンナは途方にくれた。
「もちろん、それだけじゃないんだけどね。もう何年も前から、この諸島を竜属の支配地域にしようとしているのよ。海路をおさえたら、ウガマール、サラティス、そしてストゥーリアを陸海から挟撃して攻められるでしょう? その起点にここを選んだの」
どうして、そんな重大な話を自分に? カンナはそら恐ろしくなってきた。
「そうしたら、ガラネル様から連絡が。なんとここに青竜のダールが隠れているらしいって。その調査も命じられたのよ」
「は、はい……」
「それでね、カンナ。あなたをコンガルへ連れてきたのには理由があるのよ。……ガラネル様は、あなたのデリナを撃退した力に、とても興味があるのですって。つまり、あたしたちの仲間にならない? ってこと」
「へッ!?」
カンナは固まった。ギロアが顔をきらきらさせて、話を続ける。
「デリナは、その二つ名の“黒衣の参謀”の通り、ダールの中でも一番の策謀派なの。そのかわり、戦闘力はいちばん弱いのよ」
「え……そうなの……!」
と、云いつつ、カンナはデリナが槍のガリアで戦うとき、まるで素人のような動きをしていたのを思い出した。槍そのもので戦わなくとも、あの毒霧の力で大丈夫だからなのだと思っていたが。
「ま、弱いといってもダールだから、そこらのガリア遣いでは話にならないけどね。いちばん強いのは『炎熱の先陣』、攻めと侵略を司るアーリーよ。あの人には、さすがのわたしも勝てないわねえ。まともに当たったら、の話だけど。あの人は真正面からしか戦わないから、やりようによっては、勝機はあるわよ」
「やりたいとも思いませんけども……」
カンナはアーリーやデリナの変貌した姿を思い浮かべた。真の半竜人と化した、いや、半神ともいうべき姿となったあの二人を。
「だけど、そんなダールとまともに戦ったのが、カンナ、あなたなのよ。まだ、完全にその自分のガリアを遣いこなしてるわけじゃないから、まだまだ強くなるわよ、あなたは」
「そうだと……いいですけどね」
「知ってるわよ。バカで愚かなサラティスの人間は、あなたに感謝するどころか、疎ましく、恐ろしく思ってるんですって? 冗談じゃないわ。侮辱よ。あなたに対する侮辱。ね、だから、竜の国においでなさい」
「でも、あんなに竜を倒して……デリナともあんなに戦ったのに」
「あ、心配はいらないから。竜の国って云っても……こんなこと、云っていいのかどうか分からないけど……我々竜の側としてはね、別にみんな完全に味方同士ってわけじゃないから。いまは、たまたま目的を供にしているだけで、特にダールは本来相争う関係なの。七人が七人ともね」
「へえ……」
そいつはいいことを聴いた。そんな気がした。
「だから、デリナと互角に戦ったあなたをガラネル様が味方に引き入れたいと思うのは、当然のことなのよ。ガラネル様は、死を支配する力を持った強力なダールよ。本来、ダールを支配するべき特別な地位と力を持った御方なの。参謀のデリナや先陣のアーリーとは格がちがうわ。ましてホルポスみたいなガキとは、ね。バセッタは代々基本的に中立を旨とする青竜のダールだけど、味方にしたらその導きの力で有利にことが進む。だから、まず我々に探すようにと。こんな辺鄙な場所にいるらしいとは、ガラネル様もご存じなかったようだけど」
「そうなん……ですか」
「さ、まず話はこれでおしまいかな。急に云われても、判断がつかないでしょ? しばらくコンガルで暮らして……コンガルの人々と触れ合ってみて。竜と人が共存するっていう価値観が、なんの違和感も無く浸透してるのがわかるはずよ」
ギロアが席を立った。
「バルビィ」
「はいな」
「カンナを家に案内してあげて」
「おやすいごようで」
バルビィが最後にパシリ、とカードを切る。死に神のカードだった。にやっ、と笑って、バルビィはカンナを促し、この丘の上のギロアの館から出た。
シロンとマウーラが窓から道を行く二人を観察した。ヴィーグスもいつのまにか起きて、カンナの座っていた席を凝視している。
「ギロア様、どう、出ますか、あやつ」
シロンが振り返って、立ったまま残ったお茶を飲んでいるギロアに話しかけた。
「さあねえ。しばらく様子見するしかないわ」
「断ってきましたら、どういたしましょう」
ギロアと接するときは相変わらず棒切れみたいに直立で、マウーラも口を開く。
「粘り強く説得するのよ。力づくで仲間にしても、意味はないから。でも……最終的に断ったり、逃げたりしたら、殺していいわ。アーリーの元に帰られるくらいならそうしろと、ガラネル様の命令だから」
グ、ク、ク……とヴィーグスの押し殺した笑い声がした。シロンも引きつった極悪残忍な笑みを浮かべる。マウーラだけが、無表情のままだった。
「ただし、本気で行かないと、おまえたち……返り討ちにあうわよ」
急に据わった声を出したギロアに、三人はやおら緊張して硬直した。




